
無機質な合成音声のノスタルジー
――(笑)。個人的には“ゆうれいのまち”も気になりました。このボーカルは……?
「内緒です。私の家、幽霊が出るんですよ」
――なるほど……。
「インスパイア元は一個あって。『ポケットモンスター ルビー・サファイア』にシンガーソングおやじという歌を歌ってくれるキャラが出てくるんですが、その歌が独特なんですよ。レディオヘッドの曲に出てくる無機質な合成音声を酷くした感じで、ゲームで通信した人が入れた言葉を歌うんです。それが自分にとってノスタルジックで、自分の作品でやりたかったんですね」
――この曲を聴いてまさに「ルビー・サファイア」の最初の町のBGMを連想していたので驚きました。ノスタルジックというのも個人的に共感します。
「あのBGMとは似ていると思いますね。この曲は〈なんだこれ?〉と思う人と〈ああ……〉となる人に分かれる気がします。令和に生まれた人は何も感じないんじゃないかな。音が悪い曲だと思うかも(笑)」
――昔のゲームのようなチープな音色をあえて選んだんですか?
「そうですね。あれは実際にゲーム機に繋いでやっています」
――そうなんですか! そういう試みは初めてですか?
「初めてインターネットに曲を公開した時、お金がなくてドラム音源を買えなかったので、『大合奏!バンドブラザーズ』で打ち込んだドラムをオーディオジャックから出力して、ホワイトノイズと一緒に録音して。それ以来ですね」
――ある意味で原点回帰なんですね。
「そうかもしれません。チップチューンの人がやるクレバーなやり方じゃないので、何してるんだろうとは思いましたけど(笑)」
理想の音は2011年頃の同人音楽
――ボーカルの発音が崩れているのが特徴的ですね。例えば〈われわれは宇宙人〉という歌詞は〈われはれは うちゅうじぬ〉と発音されているように聞こえます。
「それも私にとってノスタルジーなんですよ。昔インターネットで見た〈I Feel Fantastic〉という動画があって。マネキンの女性が歌っている怖い動画なんですが、それが自分の中でエモーショナルなものとして残っているんですね。あの不完全さ、足りてなさが欲しかったし、今も探し続けています。
それで言うと、自分が一番好きな音像は結局、2011年頃の同人音楽なんです。打ち込みが下手で歌が悪い、でもギターはいい、みたいな(笑)。その時の機材でできることをやった不完全さが自分にとって大切で、ある種の神様みたいなものとして捉えていて。それが録り直さないことや、クオンタイズしないことの後押しになっているかもしれません」
――具体的にはどの辺りの同人音楽ですか?
「現ヒトリエのシノダさんのcakeboxだったり、TaNaBaTa、岸田教団などですね。彼らには独特の郷愁を感じます。でも、当時から(聴いていて)懐かしかったんですよ。なのでノスタルジーとも違うものなのかもしれませんが、ずっと胸を締めつけられています。
レコードの音に温かみを感じるようなものなのかな。自分はレコードの音質より、〈MP3TUBE〉と書かれたYouTubeの違法アップロード動画の方が音がいいと思うんですよ。〈高音質〉とか〈立体音響〉とか(書かれた動画)の方が〈この音だよな!〉となります(笑)」
――“ゆうれいのまち”の歌詞には〈街〉や〈回復〉など、RPGを連想させる言葉が出てきますね。サウンドと歌詞が結びついているように感じましたが、制作時はどういう順序でイメージしたんですか?
「この曲に関しては同時に意識が走っていました。行き当たりばったりで曲を作り始めて、〈最初の町になりたい〉と思ったら言葉もついてきて。他の曲に関しては、基本的に音が先にあって言葉がついてくることが多いです」
――その言葉は音のイメージに引っ張られて出てくるんですか?
「そうですね。曲がおちゃめだとおちゃめな言葉が出てきやすい、みたいな。そういう言葉遣いができるようになったのも〈どうでもいい〉からというところがあって、自分にとってはいいことですね」
さめほしの絵に導かれる曲作り
――今作について、さめほしさん(2ndアルバム『サニーサイドへようこそ』から笹川のアートワークを担当しているアーティスト)の絵を見ながら作ったとポストされてましたね。絵からインスピレーションを得ることもあるんですか?
「実は2ndの頃から、私は曲を作る時にずっとさめほしさんの絵を見てるんですよ。デュアルディスプレイで絶対に何かしらの絵を表示していて。リラックスする時も部屋を真っ暗にして、絵を見ながら(制作中の曲を)聴いて〈こっちだ〉と道案内してもらっています。どんなにどん詰まりでも、さめほしさんの絵を見ていると曲ができるんですね。
そういう怪しい活動をひっそりやっていたところ、ジャケットを描いていただけることになって。もはや提供曲を制作する時も見ていたりします」
――どういうところに惹かれるんですか?
「月並みですけど、見てると連れて行かれるというか、引き込まれる感覚があります。不思議と、色々な音を入れるのが怖くなくなるんですね」
――笹川さんの作風とさめほしさんの作風に親和性があるということなんでしょうか? それとも、さめほしさんの絵に引っ張られている感覚ですか?
「さめほしさんが何を考えて絵を描いているのかはわからないですが、目指しているところが近いのかなと勝手に思っていて。なので、絵に合っている曲を作っていくと納得がいくんですね。特に〈この折り返しのセクション、なんの楽器がいいだろう?〉〈どんなコードにしよう?〉みたいな細部を考える時、凄く引っ張ってもらえます。かわいいアイディアをくれるというか」
――そういうことは他の方の絵ではあるんですか?
「絵に引っ張ってもらって曲を作ることは昔からあるんですけど、作家単位では他にいらっしゃらないですね」
――なるほど。絵から細部のアイディアが浮かぶというのは、具体的にどういうことなんでしょう?
「共感覚って人それぞれだと思うんですけど、自分にも〈ハ長調は何色〉みたいなルールがあって。そうなった時、さめほしさんの絵は色が沢山あるというか、絵の境界が面白いんですよ。自分でも上手く言語化できないですが、線の一本一本を見ていると〈ほー〉となるんです」