
自分を形作ってきたもの、好きなものに嘘をつかないこと
――収録曲の話に戻ると、スピード感のある曲が前作以上に多いですね。“HAMETSUのねがい”はアップテンポな上に16ビートですし、“トゥ・ビート”は曲名の通り2ビートです。
「そういう気分だったんだと思いますね。“HAMETSUのねがい”は2曲目なのでまだ理性が働いてますけど、“トゥ・ビート”は後ろの方なので大分ストレスが溜まっている頃で。どうでもよかったんでしょうね、凄く歪んでるし(笑)。制作の後半はストレスで独り言も酷くて。“トゥ・ビート”で出し切ったので、次の曲は落ち着いています(笑)」
――落差があるのはそういうことなんですか(笑)。1曲作るのにはどのくらい時間をかけたんですか?
「1~2日くらいですね。少なくともデモは取りかかった日のうちに作りきっていました」
――早いですね……。しかも1曲作ったらすぐ次の曲という感じですよね。
「そうしないと出せなかったので(笑)。次の曲を作りながら、昨日できた曲の歌詞を考えてましたね。その結果、落差が物凄いことになりました」
――以前のインタビューでは、アルバムの最後の曲は「荘厳で集大成的な雰囲気になりがち」と話されていました。その点で、今作の最後の曲“かみさま”はこれまでと雰囲気が違いますね。
「以前までの形式は愛していたんですけど、前作の“このほしにうまれて”でやりきったんです。合唱曲みたいな雰囲気の曲でラストを飾ることを始めた時から、子供に歌ってほしいと思っていたんですが、前作でそれが叶って。それで一度捨て去ってみたというところですね」
――その結果、ああいう激しいサウンドが最後にきた。
「はい。アルバムを頭から作っていって、その時の自分が〈最後にこういうのがきたらいいな〉と思ったのがあの曲で。まず手に取った楽器がギターだったので、〈そういうことか〉という感じでした。歪みしかあり得ないなと」
――この曲が最後に相応しいと感じた理由って説明できますか?
「一つはエバーグリーンな感じがするところですね。あとここまでお話ししたように、今作の作り方は初期衝動に近いところがあって。今作を振り返った時、この曲が締めに相応しいと思ったんですよ。この曲では、お金がなさすぎてアコギがなくて、エレキギターでアコギっぽい音を作ったり小賢しいことをしてるんですが(笑)、昔まったく同じことをやったことがあって。原体験に近いというか、持っているカードだけで戦う感じが懐かしかったんです。
今作を制作して思ったことなんですが、衝動的であるということは嘘をついていないということなんじゃないかなと。今作は〈どうでもいいじゃん〉という気持ちで作ったものですけど、昔も〈とにかくどうでもいいから聴いてよ〉というがむしゃらな気持ちで曲を作って公開していたんです。
自分を形作ってきた時間や作品やカルチャー……つまり好きなものに嘘をつかないでものを作ると、今でも楽しいということが今作での発見でした。〈本当はこれが好きなんだけどな〉と隠してもいいことはなくて、とにかく(ありのままを)出して〈いけ!〉とやると楽しい。ずっと独り言で〈殺すぞ〉とか言っていたわりに(笑)、制作が終わったら虚無感が凄くて。その後も意味もなく曲を作り続けています。それは楽しさを思い出したからに他ならないですね」
――それが『CULTURE DRUG ORCHESTRA』を紐解いていった結果、見つけたことなんですね。前作ではその気づきはなかったわけですよね。
「前作はとにかく生きて作りきれたなという感覚が強くて、楽しい楽しくないとかではなかったですね。前作をリリースしてから今作の制作に入るまで、個人の制作は一切していなくて。制作の楽しさは、やっぱり今作で再発見したことですね。
正直に作ることによって、自分が好きなものをより好きになれたというか、好きなものに自信を持てるようになれました」
神秘的な〈からだ〉、インターフェイスとしての〈からだ〉
――ありがとうございます。最後に個人的に気になっていることを伺わせてください。笹川さんの歌詞には〈からだ〉という言葉がよく出てきますが、笹川さんにとって〈からだ〉とはどういうものでしょうか?
「捉え方がその時々で違うんですけど、神秘性のあるものに感じて身体性のある言葉を選ぶこともあれば、ただの出力装置だと感じている時もあって。気分と言えば気分なんですが、身体のパーツはどこをとっても、なんとなく自分にとって特別なワードな気がします」
――曲によっては身体がままならないものとして描かれている気がします。
「うーん、〈ガワ〉なのかな……。自分は結構名義を変えてきた人間ですけど、それこそ〈転生〉とも言うように、それはある種の生まれ変わりのようでもあって。でも現実の私たちは、自分の身体一つで生きていくしかない。そういうところを注視すると、作詞中の厨二病のような状態の時は、身体が神秘的なものに感じるのかもしれません。日頃はただのインターフェイスとしか思わないんですけど」
――なるほど。さめほしさんの絵も身体が崩れている少女を描いたものですよね。個人的に、そこに近いところを感じました。
「そうですね。無形に向かっているというか、溶けているというか。溶けてなくなりたいみたいな願望はあるかもしれません」
RELEASE INFORMATION
リリース日:2026年4月29日(水)
■Blu-ray盤(CD+Blu-ray)
品番:ALLT-0006
価格:7,000円(税込)
■通常盤(CD)
品番:ALLT-0007
価格:3,300円(税込)
TRACKLIST
1. CULTURE DRUG ORCHESTRA
2. HAMETSUのねがい
3. 懐古主義わたし feat. 平塚紗依
4. きみになっていく
5. ゆうひ
6. 水泳教室
7. パレード
8. ちゅるちゅる
9. ゆうれいのまち
10. トゥ・ビート
11. SADMACHINEENSEMBLE
12. 脳ない
13. かみさま
Lyrics, Music & Arrangement:笹川真生
Mixed by 池田洋(hmc studio)
Mastered by 吉良武男(TEMAS)
Jacket Artwork:さめほし
Blu-ray
笹川真生「ひかりのそこ 第5層」at 東京キネマ倶楽部
1. わかちあうこと
2. コンタクティ
3. ですから、灼けました
4. Dokujoutai
5. 逆光
6. 美しい術
7. 最低
8. ないてわめいてきらめいて
9. ささやき−いのり−えいしょう−ねんじろ!
10. ダイブ・ダイブ
11. 溢れちゃった
12. 光にしないで
13. はじめての世界征服
14. 不細工
15. このほしにうまれて
LIVE INFORMATION
笹川真生 単独巡業「ひかりのそこ 第6層」

2026年5月15日(金)愛知・名古屋 ell.FITS ALL
開場/開演:18:00/19:00
2026年5月16日(土)大阪・梅田 Shangri-La
開場/開演:17:00/18:00
2026年5月23日(土)東京・恵比寿 LIQUIDROOM
開場/開演:17:00/18:00
■チケット
5,800円(税込)+ドリンク代
URL:https://eplus.jp/sasagawamao/
■サポートメンバー
ギター:秋好佑紀
ベース:田中雄大
ドラムス:嶋英治
キーボード:澤田千冬
主催・企画:THINKR
制作・進行:ALLT STUDIO
PROFILE: 笹川真生

シンガーソングライター。中学生の頃、ニンテンドーDSの「大合奏!バンドブラザーズ」で遊び感覚で音楽制作を始め、その後DTMで本格的な作曲活動へ。自身の活動に加え、数多くのアーティストへの楽曲提供や編曲に携わり、作家としても幅広く活躍している。ドリームポップ、サイケデリック、シューゲイザー、オルタナティブなど多様なジャンルに触発されながら、笹川の生み出す楽曲は繊細さと凶暴さを併せ持つ独自のサウンドスケープを生み出す。そこには、初めて触れるような異次元の響きがあり、繊細で美しく、危うさを秘めた歌詞の世界が聴く者の心を捉えて離さない。その音楽は、まるで救済のように聴き手に浸透し、ファン増殖中。危うさと包容力が共存する、誰のものでもない音楽。
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