©Fabrizio Ferri

スティングとアムステルダム国立美術館が創出した芸術空間!

 「夜警」といえば、17世紀オランダの画家であるレンブラント・ファン・レインが描いた絵画作品(の通称)。レンブラント自身のみならずオランダ黄金時代を象徴する名画として、アムステルダム国立美術館に展示されている。そんな世界的な芸術作品からタイトルを取ったスティングの新作『The Night Watch: Live At The Rijksmuseum』は、まさにその「夜警」を所蔵するアムステルダム国立美術館を舞台に録音されたライヴ・アルバムだ。ここでのスティングは長年の盟友となるギタリストのドミニク・ミラーを伴い、同美術館の〈名誉の間〉に並ぶレンブラントやフェルメール、ユディト・レイステルらの名画に囲まれながらポリス〜ソロでの代表曲をアコースティックな演奏で披露している。公開修復中の「夜警」を背にして観客に対峙したスティングとドミニクの親密なパフォーマンスが、〈音楽鑑賞〉という言葉が似合うような特殊な場の空気感も含めてパッケージされた一枚だ。

STING 『The Night Watch (Live At The Rijksmuseum)』 A&M/ユニバーサル(2026)

 昨年の『3.0 Live』はドミニクとクリス・マースを従えた新トリオ=スティング3.0体制によるエネルギッシュな例外として、今世紀に入ってからのスティングのライヴ作品は、ロンドンのセント・ルーク教会におけるエディン・カラマゾフとの『The Journey And The Labyrinth』(2007年)やロイヤル・フィルハーモニック・コンサート・オーケストラとの『Live In Berlin』(2010年)など、格調高い場の雰囲気やシチュエーション込みで聴かせるタイプの作品が多かったように思える。それはドイツ・グラモフォンにおけるクラシック音楽への挑戦の結果でもあったわけだが、今回の貴重なパフォーマンスもまた、独仏共同出資の文化テレビ局ARTEの〈Sounds Like Art〉という企画プログラムから生まれたもの。このプログラムはミュージシャン自身がヨーロッパの美術館を選び、名画に囲まれた空間の中で演奏を聴かせる新しいコンサート企画だという。アムステルダム国立美術館は番組からのオファーを受けたスティングが選んだ場所というわけだ。

 そもそもこのタイミングでの彼には、自身が主演を務めるミュージカル「The Last Ship」の公演のために2026年1〜2月にアムステルダムに滞在していたという都合もあった。もともと彼のアルバム『The Last Ship』(2013年)で構想されたこのミュージカルは、造船業で栄えた生まれ故郷の町を舞台に、産業の衰退という苦難に直面する地域社会の姿を描いた作品。故郷や自身のルーツに向き合う取り組みは父の死に直面して作られた91年作『The Soul Cages』まで遡れるもので、曲が書けないスランプ状態をミュージカルのアイデアに没頭することで脱したというほど、現在のスティングにとっては意欲を掻き立てる大切なプロジェクトなのだろう。2014年にブロードウェイでプレミア上演されたミュージカルはトニー賞で2部門にノミネートされ、以降も改訂を加えながら世界各国でツアーや長期公演を行って高評価を集めてきた。2019年からはスティングみずから主要キャストとしての出演も開始。現在の彼はミュージシャン活動と並行してミュージカル俳優としても精力的に活動しているのだ。

 今回『The Night Watch: Live At The Rijksmuseum』で披露されている楽曲も、そうした背景を知れば興味深いものとなるだろう。ポリスの“Message In A Bottle”でしっとり幕を開けると、序盤の軸となるのはミュージカルからの楽曲で、そこに『The Soul Cages』由来の“Island Of Souls”や“All This Time”も連なってくる。それ以外のレパートリーも妻について歌ったポリス“Every Little Thing She Does Is Magic”をはじめ、“Fields Of Gold”や“Fragile”のようなパーソナルな色合いの強い代表曲が選ばれているようで、ここにも「The Last Ship」モードの影響はあるのだろう。共作者たるドミニクの爪弾きで始まる“Shape Of My Heart”も当然ながらハイライトとなり、より陰影を濃くした歌唱で披露。もちろん“Roxanne”や“Every Breath You Take”もより落ち着いたヴァージョンで楽しめる。

 そのように現在のスティングのモードも反映した『The Night Watch: Live At The Rijksmuseum』。背景を説明すると敷居が高く思えるかもしれないが、そうした重みを感じないとしても、単純に独特の音響を備えたアコースティックなパフォーマンスが楽しめる名品だということは強調しておきたい。

関連盤を紹介。
左から、スティングの2025年のライヴ盤『Live 3.0』(A&M)、ドミニク・ミラーの2023年作『Vagabond』(ECM)

スティングが客演した近作を紹介。
左から、シャギーのニュー・アルバム『Lottery』(Ranch/VP)、カトリエル&パコ・アモロソのニュー・アルバム『Free Spirits』(5020/ソニー)、バーブラ・ストライサンドの2025年作『The Secret Of Life - Partners Volume Two』(Columbia)