
かつて史上最強のロック・トライアングルを構成した御大が新たなトリオで表現する、ソリッドでプリミティヴなライヴ表現――これが最新ヴァージョンのスティングだ!
この9月に5都市6公演という規模で2年ぶりの来日公演を開催するスティング。今回は昨年5月末の独ドレスデン公演から始まって欧州〜北米を巡ってきた〈Sting 3.0 Tour〉の一環として行われるもので、それだけに2年前の〈My Songs Tour〉とはひと味違うコンセプトを備えている。鍵盤奏者やコーラス隊も含む7〜8名を擁した従来のツアー・バンドに対し、今回の演奏陣はスティング(ベース/ヴォーカル)に加え、ドミニク・ミラー(ギター)、クリス・マース(ドラムス)の3人のみ。つまり〈Sting 3.0〉とはポリス〜ソロに続く第3形態のスティングを示すバンド自体の名称であり、ポリスと同じ3人組という編成を強調するものでもあるのだ。
30年以上もスティングのバンドに在籍するドミニクは、『The Soul Cages』(91年)以降のほぼ全アルバムで演奏し、名曲“Shape Of My Heart”(93年)などを共作してもいるスティングの片腕的な存在。一方で新参のクリスはシェルブールなるバンドでデビュー経験もあるルクセンブルク出身/ロンドン在住のドラマー。近年はマムフォード&サンズやイグザンプルらのレコーディングやライヴに貢献し、パンデミック中にスティングと演奏する機会に恵まれたところから今回チャンスを掴んだそうだ。
近年も名曲のサンプリングを通じてスヌープ・ドッグ“Another Part Of Me”やピンク&マシュメロの“Dreaming”に登場し、先日はシャギーとの新曲“Til A Mawnin”を発表するなど、相変わらずジャンル的な守備範囲の広いスティングは、越境的な共演やバンドの拡張によって作風の広がりを表現してきたわけだが、原点回帰を窺わせる〈3.0〉のヴィジョンはその真逆に振り切ったものでもある。『Synchronicity』の40周年に絡む回顧が改めてトリオ演奏への意欲を促したのかどうかはさておき、現在のスティングとトリオのコンディションは、このたび届いたライヴ盤『3.0 Live』に刻まれている。
過去曲を再解釈した近年のライヴ盤という意味では、『My Songs』(2019年)のスペシャル盤に同梱された『My Songs (Live)』もあった。幕開けの“Message In A Bottle”から“Englishman In New York”への流れは『3.0 Live』に共通するので、聴き比べれば違いは明白だろう。他にも『3.0 Live』では、“Fields Of Gold”(93年)や“All This Time”(91年)などの代表曲をはじめ、ポリスの“Driven To Tears”(80年)や“Synchronicity II”(83年)、もちろん“Every Breath You Take”(83年)も披露される。さらにRSD限定2LPを2CD化した日本のみのデラックス盤では、そこに“Shape Of My Heart”(93年)や“Fortress Around Your Heart”(85年)が加わり、初のライヴ音源となる“Never Coming Home”(2003年)も収録。ポリス“Can’t Stand Losing You”(78年)もソロでは初めてライヴ音源化され、新トリオでのライヴ・ベスト的な作りになっている。
総じてテクニカルでタイトな演奏はソリッドな荒々しさも纏って、極めてプリミティヴに響く。演奏を極限まで削ぎ落としたことで、楽曲そのものの背骨の強さが改めて前に出てきたような雰囲気だ。スティング自身も楽器の間にスペースが生まれたことで〈曲がよりタフに、よりクリアになる〉と説明しているが、そのなかでも新鮮な目玉となるのは、トリオで制作した新曲“I Wrote Your Name(Upon My Heart)”のパワフルなパフォーマンスだろう。
なお、今年に入ってからの3人は、ドミニクの故郷ブエノスアイレスを含む中南米を巡っており、そこからアフリカや中東、さらにクリスの故国ルクセンブルクを含む欧州諸国などを飛び回ったうえで、9月に日本上陸を果たすことになる。現在のスティングがトリオでめざす新しい熱気と興奮を今回の『3.0 Live』にて確かめていただきたい。
左から、スティングの2019年作の豪華盤『My Songs: Special Edition』、2021年作『The Bridge』(共にA&M)、ドミニク・ミラーの2023年作『Vagabond』(ECM)、クリス・マースが参加したマムフォード&サンズの2018年作『Delta』(Glassnote)、ポリスの83年作の豪華盤『Synchronicity(Deluxe Edition)』(A&M)
スティングの参加した近作。
左から、スヌープ・ドッグの2024年作『Missionary』(Death Row/Aftermath/Interscope)、ピンクの2023年作の豪華盤『Trustfall(Tour Deluxe Edition)』(RCA)、ブリン・ターフェルの2024年作『Sea Songs』(Deutsche Grammophon)、ナラダ・マイケル・ウォルデンの2023年作『Euphoria』(Nicolosi)、ドリー・パートンの2023年作『Rockstar』(Big Machine)