『ヘッド博士』のジャケットを引用した理由
――配信シングル“Twisting & Glistening”のアートワークも話題になりました。
「ああ、天井ね」
――なぜ『DOCTOR HEAD’S WORLD TOWER -ヘッド博士の世界塔-』(フリッパーズ・ギターの3rdアルバム)のドットなんですか。
「MVにも出てきますが、今回のビジュアルでは幾何学的、抽象的なパターンがテーマなのでそのひとつということです。『ヘッド博士』のジャケットを読み込ませて、老朽化して荒れた部屋のイメージを作り、モノの配置などを決めていきました。『ヘッド博士』と急にいわれても、若い子はきっとわからないよね(笑)」
――特別な意味は込めていない?
「あえていうなら信藤三雄さんへのトリビュートかもしれません。あらためていいジャケットだと思いました」
――小山田さんはフリッパーズ・ギターの時代から信藤さんとはお仕事をされてきて、Corneliusのジャケットを担当されている北山雅和さんも、信藤さんが率いたデザイン事務所コンテムポラリーのご出身です。
「信藤さんが亡くなられたのは2023年だから、3年前ですか」
――ご自分の作品以外で、信藤さんが手がけたレコードジャケットでお好きなものといえば、なんですか。
「PIZZICATO FIVEの『ベリッシマ』かな。信藤さんを最初に知ったレコードでもあります。渋谷のすみやというサントラの専門店に飾ってあって、おしゃれだなと思いました」
――『ベリッシマ』のリリースは1988年です。
「渋谷系前夜だよね。当時、信藤さんの手法としてサンプリングというのは大きかったと思うんですよ」
――『ヘッド博士』のドットもダミアン・ハーストに由来するのではないかとか、そういったことですね。
「たどっていけば、草間彌生さんもそうだよね。もはやドットは誰のものでもないというか、オプアートのブリジット・ライリーの幾何学パターンみたいなものも、今回ビジュアルのテーマのひとつにあって、信藤さんの仕事もその流れで思い出したというのもあるかな」
――80年代末から90年代初頭は音楽もサンプリングの時代でした。
「サンプリング、コラージュに向ける意識が当時といまでまったく違うよね。権利保護や規制に対しても、当時なにもなかったとはいわないけど、いまのような感じではなかったと思うんですよ。ことに国内では。『ヘッド博士』はまさにその時代のレコードなので再発できないんです」
――著作権法とのいたちごっこはAIの分野でもしばしば耳にします。テクノロジーと表現の宿命のようなものかもしれません。生成AIのプロンプトでも特定の音楽家の名前はあげられないんですよね。
「ジャンルに変換されますね」
――〈Corneliusの~〉とはいえないけど、〈渋谷系の~〉といえばOKということですか。
「OKだけど、渋谷系といってもいろいろあるからね。いかにCorneliusによせるかはプロンプトの腕しだいじゃないかな(笑)」
――なぜかOriginal Loveみたいになったり(笑)。
「カジヒデキっぽくなっていたとか(笑)」
――知見がなければ、表層的なものにとどまりそうですね。
「それと文脈ですね」
井上陽水の催眠的な歌世界にハマって
――文脈とは言語的な意味のつながりのことですが、最近はその言葉自体がさまざまな文脈に置かれますよね。『Refractions』は文脈の束のようなアルバムでもあると思います。今回、アルバムのなかで最初にとりかかった楽曲はなんですか。
「“Bad Advice”と“Mind Train”の2曲が2年前にできた曲です。“Bad Advice”はアート(・リンゼイ)さんが歌っていて、“Mind Train”は長尺のモータリック系の楽曲ですね。一昨年に活動30周年を記念したライブがあって、そこで新曲をやりたいなと思って作りました。この楽曲を制作した時点ではアルバムの構想はまだなくて、これをきっかけに、去年あたりから本格的にアルバムを作ろうというモードに入り、残りの曲ができた感じです」
――井上陽水さんの“夢寝見”をとりあげた経緯について教えてください。
「単純に好きで、やってみたいと思ったんです。“夢寝見”は前のアルバム『夢中夢』の世界観に近いと思うんです。あのアルバムは2023年でコロナ末期ですが、それこそコロナ禍のちょっと前くらいに、この曲を思い出してサブスクで聴いてハマりました。
この曲、1990年前後に陽水さんが〈お元気ですか?〉という日産セフィーロのCMのBGMだったんですよ」
――1989年の昭和天皇の崩御に際して、キャッチコピーに不謹慎だとの指摘が入り、陽水さんの台詞が消されたんですよね。
「CM自体は第3弾までつづくくらい流行っていて、バージョンごとに何曲かかかったらしいんだけど、この曲が耳に残っていました。
サブスクに毎週、新しい音楽をAIが教えてくれるプレイリストがあるじゃないですか。ちょうどコロナ前に、この曲が入っている『ハンサムボーイ』の収録曲“Pi Po Pa”がプレイリストに上がってきました。そこからサブスクにあった陽水さんのバックカタログを漁るなかで、そういえばこの曲、憶えているなと気づいて、聴いてみたらすごかった。ちょうど『夢中夢』を作っていたときだったので、世界観の近さが影響したのかもしれません。ひたすら〈夢寝見、夢寝見〉と歌っていて催眠術のような、夢の中に誘うような構造が印象に残りました」
――『夢中夢』でとりあげる手はなかったんですか。
「ちょっとやってみたいとは思いましたが、そのときは聴くだけで十分だったのかもしれません」
――カバーは比較的オーソドックスなアプローチですね。
「原曲のアレンジに近いですよね。この曲、じつはアレンジが好きなんです。当時、陽水さんの編曲をよく担当されていた川島バナナさんというキーボディストの方のアレンジです。京都のEP-4のメンバーでもあります。サイケデリックですばらしいですよね」
――ヒプノティックですよね。川島バナナさんのそのようなアレンジを含めて再現したかったということですね。
「間奏をかなり長くとってディープでサイケな感じを目指しましたが、楽器を含めて80年代後半くらいの響きがあると思う」