1976年10月22日にリリースされたレッド・ツェッペリン『The Song Remains The Same』(邦題:永遠の詩(狂熱のライヴ)。世界屈指のパフォーマンスを誇った彼らだが、公式にリリースされたライブ盤は少なく、本作は解散までにリリースされた唯一のライブアルバムで絶頂期の演奏を捉えている(収録は1973年7月27~29日、マディソン・スクエア・ガーデン)。そんな作品の50周年を祝って音楽ライター行川和彦に制作背景や聴きどころを解説してもらった。 *Mikiki編集部

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LED ZEPPELIN 『The Song Remains The Same』 Swan Song(1976)

 

リリース当時、手放しで評価されなかった理由

名実ともにロックモンスターのレッド・ツェッペリンのライブアルバム『The Song Remains The Same』が、リリース50周年を迎える。1973年のニューヨーク公演を収めて活動中に彼らが発表した唯一のライブ作品だが、紆余曲折を経て名盤の評価に至ったとも言える。

録音から発売まで3年を要したのは、レッド・ツェッペリンを題材にした同名映画の1976年の公開のタイミングで、そのサウンドトラック盤としてリリースされたからだ。9曲入りの2枚組のオリジナルLPは、当時サントラとして作られただけに映画の雰囲気を伝えることを大切にしたような構成。ライブ音源オンリーだが、キャッチーな楽曲セレクションとは言いがたい。映画はメンバー一人一人を〈主人公〉にしたシーンも含み、それらのために長い尺の“No Quarter”“The Rain Song”“Dazed And Confused”“Moby Dick”などが、必要とされたのだ。5分以内の曲は序盤のみで以降は10分以上の曲が連発され、熱心なファンでも〈お腹いっぱい〉。さらにLP各面に長時間曲を詰め込んだ結果、アナログレコードの物理的な問題で音がこもり気味になったのも、当時手放しでの大評価に至らなかった一因と思われる。

LED ZEPPELIN 『レッド・ツェッペリン 狂熱のライヴ』 ワーナー・ホーム・ビデオ(2008)

CD化されてもしばらくは9曲入りだったが、2007年以降制作の2枚組CDは6曲プラス。曲の長さを変えた既発表曲も含む2時間を超える15曲を収め、完全版のグレイトな仕上がりだ。マスタリングも含めてオリジナルLPとは別物と言っても過言ではない。サントラの〈足かせ〉から解き放たれたジミー・ペイジが、曲の流れも考慮しながら純粋なライブアルバムとしてプロデュースしたことで、この上なく強靭な作品になっている。

以降の文章は15曲入りのリイシューアルバムに沿って話を進める。

 

多彩な曲と感情を炸裂させた問答無用のパフォーマンス

このライブ数か月前に発表した5作目『Houses Of The Holy』の曲が3分の1を占めるセットリストだが、当時の代表曲をほぼ網羅。ドライブする曲を序盤で続けるも、人間の意識の流れのように山あり谷ありの展開。後半は長い曲でじっくり進めるが、全体の構成が行き届いていてダレることがない。ハードロック/へヴィメタルのジャンルで語られることが多いレッド・ツェッペリンが、実はバラエティに富む深遠な音楽性の魔力でファンを虜にしていたことも生々しく伝わってくる。ロックンロールで飛ばすかと思えば、時にブルースやフォークの味わいを帯びてサイケデリックな情感もたたえながら、レッド・ツェッペリンの真骨頂のドラマチックなダイナミズムが生のまま全開なのである。

スタジオ録音アルバムの再現では終わらず曲によってインプロビゼーションを絡め、原曲を大胆にふくらませているところも特筆したい。むろんテクニックひけらかしとは一線を画し、その時々の感情をブルージーなギターソロなどで炸裂させる。だから曲は長く、音は大きくなっている。

曲もライブ全体も長め。イントロ最小限で歌がすぐ始まる曲がヒットの条件という今の時代の真逆ではあるが、逆にだからこそ新鮮で長くても一気に聴きとおせる。フック十分の楽曲の良さに加え、レッド・ツェッペリンの問答無用のパフォーマンス力により理屈抜きで持っていかれるのだ。

 

この4人の交感でしか起こせない音楽の革命

メンバー全員が前面に出ている。ギタリストとして知られるジミー・ペイジのバイオリン等の弓を使ったギター演奏やテルミン操作、ベーシストとして知られるジョン・ポール・ジョーンズのメロトロンや電子ピアノ演奏、ドラマーとして知られるジョン・ボーナムの素手で叩く熱いクールダウンタイムの打楽器演奏も聴きどころ。真剣勝負のパフォーマンスの中で実験的と呼ぶにはプリミティブな遊び心もチラ見せしている。歌心を無限の彼方に飛ばしているようなハイトーンのロバート・プラントのボーカルも含め、すべてが生気に満ち、この4人からしか生まれ得ないケミストリーに圧倒されるばかりだ。メンバー間の〈交感〉がはっきりと見えてくる作りで、スピーカーやヘッドフォンの左右のチャンネルの間でサウンドによる〈革命〉が起こり、新たな生命体が生まれている。

このライブ盤はレッド・ツェッペリンの通過点でしかなかった。でも6作目の『Physical Graffiti』で顕著になるグルーヴや、本作が出る半年ほど前にリリースした7作目『Presence』の目が覚めるほど確信に満ちた響きは、既にここで鳴らされている。『永遠の詩(狂熱のライヴ)』という邦題にふさわしい肯定性極まれりのサウンドなのだ。

 

後世のパンクやメタルに及ぼした影響

このアルバムの影響はわからない。前述したようにLPは選曲も音質も万全とは言いがたく、長大なロックに中指を立てたパンクムーブメント真っ只中にリリース。ハードロック系ですら、ライブでインプロビゼーションを含めるバンドは激減していた。でも『The Song Remains The Same』のDNAはジャンルを超えて浸透。たとえば本作最長の30分近くに及ぶ“Dazed And Confused”、加速するパートはほとんどモーターヘッド、そしてハードコアパンクである。元ナパーム・デスのフロントマンが始めたドゥームメタルバンドのカテドラルが今年出した30分弱の作品『Society’s Pact With Satan』にも、“Dazed And Confused”の遺伝子が宿る。

ロックが持ち得るダイナミズムに溢れ、神秘性が滲むレッド・ツェッペリンの怪物ぶりが堪能できる破格の逸物。ひれ伏すしかない。