レッド・ツェッペリンの6作目のアルバム『Physical Graffiti』がリリースされたのは1975年2月24日で、本日でちょうど50周年になる。過去作の未収録曲も含むこの2枚組の大作は、バンドの音楽的ポテンシャルがもっとも多彩に発揮されたアルバムと言ってもいいかもしれないが、捉えどころがないのもまた事実。そんな本作の50周年にあわせて、和田信一郎(s.h.i.)に新たな視点から綴ってもらった。 *Mikiki編集部

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LED ZEPPELIN 『Physical Graffiti』 Swan Song(1975)

 

『Physical Graffiti』は最高傑作か?

『Physical Graffiti』は、次作『Presence』(1976年)と並ぶレッド・ツェッペリンの最高傑作である。……と言われてピンとこない人も実は多いのではないだろうか。そもそも、1971年リリースの歴史的名盤と名高い『IV』(正式タイトルがない〈無題〉の作品なため、ここでは便宜上『IV』と表記する)より後の作品を聴いたことがある人はどのくらいいるのだろうか?

例えばブラック・サバスでは、デビュー作『Black Sabbath』や2ndアルバム『Paranoid』(いずれも1970年)はロック名盤ガイドみたいな場でよく挙げられるが、メタル〜ハードコアパンクの元祖としても異形のヒップホップとしても聴ける最重要作『Master Of Reality』(1971年)はそれほどでもなく、驚異的な演奏表現力および音楽的広がりが最良の形で捉えられた『Vol. 4』(1972年)や以降の傑作群はほとんど語られない。

広義の〈ロックの歴史〉におけるマイルストーンとなった〈歴史的名盤〉ばかりが紹介され、それに勝るとも劣らない傑作があっても注目される機会があまりない、なのでファンとそれ以外の人との認識がズレてしまいがちになる……というのはロックに限らず起こりがちなことで、それが様々な文脈の見落としにつながってきたように思われる。

 

ツェッペリンはハードロックか?

冒頭の話も同様なわけだが、ツェッペリンの場合はもう一つ大きな問題がある。そもそもツェッペリンは、〈ハードロック〉の枠に括るべきバンドなのだろうか? そうやって括られることで、ハードロック/ヘヴィメタルに馴染めない人(または、そういうジャンルに対する既存の偏見を受け継いでしまった人)が聴かず嫌いするような事態が引き起こされやすくなっているのではないだろうか?

こうした印象を実際に抱いてしまっている方々には、『Led Zeppelin III』(1970年)や『Houses Of The Holy』(1973年)、そして『Physical Graffiti』を聴いてみてほしい。ブラック・ミディやキャロラインのような近年のUKバンド、またはUSインディロックにも通ずる滋味に感銘を受けるのではないか。そして、もともとレッド・ツェッペリンを好んで聴いていた場合でも、こうやって異なる観点から吟味することにより、各作品の持ち味やバンドそのものに対する理解を深めることができるのではないかと思う。