〈想像の余地〉に大きく貢献する多彩な楽曲で物語を深く表現
公開から2か月ほど経過した現在も依然としてロングランを継続中の映画「ちいかわ 人魚の島のひみつ」。ちいかわと仲間たちが合宿で訪れた〈特別な島〉。楽しい時間も束の間、島民を次々と襲うセイレーンの討伐計画に協力することになり……という、原作中でもとりわけ人気の〈セイレーン編〉をアニメ化した本作は、それぞれに事情を抱えたキャラクター設定に加え、想像の余地を大量に散りばめたストーリー運びが多くの考察を呼び、話題となっている。
そうした〈想像の余地〉に大きく貢献しているのが、TVアニメ版からの続投となるトクマルシューゴと、これまでにもトクマルと共作/共演経験のある上水樽力が担った劇伴と挿入歌だ。ちいかわたちのとぼけた空気感を映すファニーな小品も挟みつつ、彼らは心浮き立つオープニングから厳しい試練を経てのエンディングまで、壮麗なオーケストラ・サウンドと途轍もなくリッチな音響によって臨場感あふれる〈物語〉を表現。〈声〉の使い方も素晴らしく、特に人魚たちと声を合わせることで力を増すセイレーンの登場シーンは、不安定なハーモニーで不穏さを際立たせるのみならず、そのハーモニーの構造自体に物語としても意味のある演出が施されていて驚く。
さらには、歌モノ群にもフレンドリーなポップさの背景にやはり〈物語〉が。なかでも“島のうた”は劇中全体を彩る重要なナンバーだ。ファンタジックなサルサ調に乗せて一気に南国ムードを高めるオリジナルをはじめ、冷たいワルツで無邪気さと残酷さを伝える〈セイレーンver.〉、ホーンと合唱隊を従えて勇壮に響く〈島二郎ver.〉と多様な編曲/歌詞違い版で各場面を描き、耳に残る同曲のメロディーを多くのスコアに組み込むことで、晴れやかな表向きの顔から隠された実態まで、島の様相が次第に変化していく様をありありと伝えている。
物語に即した意味の積み重ねで成り立つ劇伴は多くあるが、ここまで深読みを楽しめる作品は珍しいのでは。二人の職人技が光りまくっている一枚だ。
