トクマルシューゴが制作手法をモデルチェンジした両A面シングル『Hikageno / Vektor feat. 明和電機』についてのロング・インタヴュー。その後編では、同シングルの2曲と、それに先立ってリリースされた2014年の第1弾シングル“Lita-Ruta”の制作エピソードを中心に、来るべきニュー・アルバムの展望を語ってもらった。また記事の後半では、現代のネット社会や東京のインディー・シーンについて、自身の胸中を明かしている。
昔から〈なんでもあり〉な人が大好きで、自分自身もそうなりたい
――アルバムへの道標も兼ねて今回リリースされたシングルで、トクマルさんはこれまで使わなかった制作手法にいろいろトライしていますよね。まず“Hikageno”では、ベーシック・トラックを磁気テープに録音して、そのあとウワモノの録音やトラックダウンでは再度オープンリール・デッキを使用している。これまで一人で宅録するときは、ProToolsやLogicのような編集ソフトを中心に使ってきたわけですよね。なぜ今回は、テープを導入することにしたんですか?
「この曲のテーマが〈古いテープ〉なので。子供の頃に、親か親戚が何気ない生活風景の音を録ったカセットテープを自分で聴いて、すごくいいなぁと思ったんですよ。そういうのもあって、自分の何かをテープに一旦残しておこうと思ったのがきっかけです」
――歌詞もそうだし、テープの音飛びを演奏で再現してるのもサイケデリックでおもしろかったです。
「そうですね。この曲はカセットテープに落として聴いてもらうのもいいかもしれない。さらに音がいい感じになるので」
――D.A.N.の取材中に聞いたんですけど、この“Hikageno”で録音を担当した葛西敏彦さんが、D.A.N.のアルバムをレコーディングしているときにもオープンリールを薦めたそうで。〈大自然をドライヴしているような質感を出したい〉と相談したら用意してくれたとか。
「葛西さんとよく話すんですけど、とにかくオープンリールの音は最高なんですよ(笑)。あの粒子感がいい。ほとんど気付かれないかもしれないけど、アレじゃないと録れない音がやっぱりある。そういう魔法みたいなものが残ってるんですよね」
――アナログならではの質感というか。
「音を〈動かせない〉というのも魅力かもしれない。録ったらそれでおしまい」
――そのあと編集するには、テープを切って繋ぐしかないですもんね。この曲では、田中馨(コントラバス)、岸田佳也(ドラムス)、三浦千明(トランペット/スチールパン)によるお馴染みのライヴ・バンドで、ベーシック・トラックを一発録りしている。これまで一人多重録音がメインだったトクマルさんにとって、これも初の試みですよね。
「この曲はできる限りシンプルな形でやってみたかったんですよ。まずは自分自身の演奏をチップとして集めて、それを一度まとめたあと譜面に起こして、昔ながらのオープンリールで一気に録音しました。そのベーシック・トラックは、もう動かさないものとして残しておいて」
――自分の演奏をチップにする、というのは従来のスタイルに近そうですね。
「そう。チップ集めを自分でやってみようという、あたりまえのことをあえて意識して、曲やメロディーをたくさん書いて録音したんです。それも、〈J-Pop〉っぽい感じを意識して。その断片をちょっとずつ掻い摘んで出来上がった曲なんですよ。だから、ヴァージョン違いがメチャクチャ多い。最後は結局、普通のアレンジに落ち着いたんですけど」
――作曲で試行錯誤を重ね、2段階のアナログ・テープ録音を経て〈普通〉へ着地したと。これを普通と言うのかわからないけど(笑)。
「僕のなかではすごく普通ですね。曲構成もストレートだし、イントロがあって、AメロにBメロ、サビのあとに間奏でギター・ソロが入って。ビートもベースも普通。GELLERS以外で、こういうのはやってなかったと思います」
――そして、続く“Vektor”では明和電機さんをフィーチャーしています。誰かと曲作りでコラボするのも、ソロ名義では初ですよね。ここ数年の間に共演もされていましたが、出会いの経緯について教えてもらえますか。
「知り合ったのは2、3年前だと思いますけど。個人的には10代の頃から大好きだったんですよ。まさか、自分が一緒にやるなんて思ってもみなかった。ものづくりに対する姿勢もそうだし、思想的にもすごく影響を受けていて」
――具体的に言うと?
「たぶん、楽器を作るだけならもっといいものがあるんですよ(笑)。自動演奏の楽器は世界中にたくさんあるわけで。でも、明和電機さんがすごいのは、(音を鳴らす以外の)ユニークな+αを必ず用意してくるところ。僕は昔から〈なんでもあり〉な人が大好きで、自分自身もそうなりたい。だから、そんな人と一緒にやれるのは嬉しいですよね」
――その明和電機さんも、トレイラー映像で〈なんで来なかったんや、(自分のデビューから)22年間〉とおっしゃっているくらい、今回のコラボは収穫が多かったみたいですね。制作中はどんなやり取りがあったのでしょう?
「〈(自作楽器を)使わせてくれませんか?〉って頼んだら、〈好きなようにハッキングしてください〉と言われたので(笑)、遠慮なく自由に使わせてもらいました。〈この楽器はどんな音が鳴るんですか?〉〈どんな仕組みで動いてるんですか?〉みたいに取材させてもらって、その楽器の音を録音してサンプルを持ち帰り、それをもとにあらかじめ作っていたアレンジを再修正して。それをMIDI化してから、〈こういう曲になったので、叩いてもらえませんか?〉と明和電機さんに渡し、その自動演奏を録音して完成へ……という流れですね」
――MIDIを使うのも今回が初ですよね。打ち込みを解禁しても、エレクトロ・ポップのような音を出したり、生演奏の代替品みたいに使うのとはまるで意味合いが違う。明和電機さんのオリジナル楽器から音を出すために、恐ろしくたくさんのプロセスを踏んでいるじゃないですか。
「あと、明和電機さんの楽器はすぐ壊れるんですよ(笑)。それがすごく最高で。ライヴを観に行くと、必ず1回は演奏が止まる。その人間味もたまらないんです」
――〈プロセスと人間味〉ということで言うと、今回のシングル以前にリリースされた“Lita-Ruta”(2014年)は、〈段ボール・プレイヤー付きレコード〉というチャレンジング極まりない仕様でしたよね。特設ページ〈SHUGO TOKUMARU NEW RECORDINGS〉によると、この曲は153トラックを費やしたそうですが。
「まずはドラムを自由に叩いてもらっているうちに、自分のなかで閃いて。谷口(雄)くんに鍵盤を弾いてもらったり、(小林)うてなちゃんにマリンバを叩いてもらったりしているうちにアイデアが生まれたんですよ。そのときのレコーディングは、〈誰と誰と誰が、どういうフレーズを弾いたら曲が作れるのでしょう?〉みたいな問題を解いていく気分でした」
――やはり、制作に時間はかかったんでしょうね。
「うん、ちょうど半年くらいですかね」
――でもこの曲は、アルバム全体でいうと非常に早い段階で〈100%完成〉とジャッジしたことになりますよね。この曲だけ、すぐにリリースの踏ん切りがついたのはどうしてなんですか?
「ただ単に取り掛かったのが早かったのと、あの段ボール・プレイヤーをとにかくリリースしたかったんですよ(笑)。曲を試作している頃から、〈出したいな~、出したいな~〉って」
――すごくこだわって作った曲を、かなりイレギュラーなフォーマットで発表したくなったんですね。それも、少しでも早く。
「そうなんですよ、本当にバカみたいな話だなって思います(笑)。“Decorate”もそうでした。あんなに一生懸命作った曲を、なんでよりによってソノシートにしたんだろうって。ちなみに、段ボール・プレイヤーは作りの関係で、シンプルな曲じゃないとまともに聴けないんですよ。だから、そういう曲を収録しようと思ったのに……“Lita-Ruta”は真逆になってしまった(笑)」
――この曲はiTunesやYouTubeも含めて、現時点ではネットで試聴できないんですよね。
「なんか悔しいから、インターネットに出してない。気軽に聴かせてたまるかって。僕がリスナーだったら〈いいから聴かせろよ〉って思うけど(笑)。自分でも何をもったいぶっているのかわかりませんが、アルバムにいい形で収録できたらと思ってます」