インタビュー

ゲスの極み乙女。でも活動中の川谷絵音率いるindigo la End、より〈歌〉を意識しストレートなラヴソング紡いだメジャー初作

〈失恋〉〈喪失感〉といったテーマのもと、より〈歌〉に向かいながら、より豊かな色彩で染め上げられた音の風合い。満を持してのメジャー・ファースト・アルバム完成!

 

 

より〈歌〉を意識した作品

 どうやら今年も川谷絵音(ヴォーカル/ギター)がこの国の音楽シーンを引っ掻き回すことは間違いなさそうだ。2014年10月にファースト・アルバム『魅力がすごいよ』を発表し、ひと足先にブレイクを果たしたゲスの極み乙女。に続いて、今度はindigo la End(以下、インディゴ)のメジャー・ファースト・アルバム『幸せが溢れたら』が完成。2014年8月にベーシストの後鳥亮介が加入し、“瞳に映らない”と“さよならベル”という2枚のシングルを立て続けに発表するなかで、長田カーティスによる伸びやかに歌うようなギターと、より強固になったリズム・セクションというバンドのカラーを浸透させてきたが、本作はそのうえでより〈歌〉へと意識が向けられているのが特徴だ。

indigo la End 幸せが溢れたら unBORDE(2015)

 「レコーディングは9月から始まったんですけど、その前にフェスとかにたくさん出たなかで、やっぱり〈フェスで盛り上がる〉とかじゃなくて、ちゃんと歌を聴いてもらえるような作品にしたいと思ってました。バンドを始めた頃はまだ尖っていた部分もあって、自分たちのやりたいことをやればいいやっていう、いま思えば内に籠ってた部分もあったと思うんですけど、ゲスの活動で視野が広がったし、ゲスとのコントラストをつけるっていう意味でも、より〈歌〉を意識した作品を作るのがいいと思ったんです」(川谷:以下同)。

 ゆらゆら帝国People In The BoxTHE NOVEMBERSといったバンドのファンであることを公言し、オルタナティヴなロックを影響源とする独創性の高いアレンジを持ち味とする一方、川谷は昔からオリコンのチャートをチェックするのが趣味であるとも言い、もともとはメインストリームのポップスを好んで聴いていた。昨年一年はふたつのバンドの制作とツアーに追われてインプットに費やす時間が少なかったぶん、本作は昔から聴いていた70~80年代の日本のポップスや歌謡曲が大きなインスピレーション源になったそうだ。

 「昔、〈速報!歌の大辞テン〉っていう、リアルタイムのチャートとひと昔前のチャートを一緒に紹介する番組があったじゃないですか。当時は〈古いほう、やらなくていいのに〉って思ってたんですけど(笑)、そういうなかでも〈これはいいな〉って思ったのは頭に残っていて、それで山口百恵さんや松任谷由実さんなどを聴いて。今回はそういう、ちょっと懐かしいメロディーの感じを意識したんです。あと、去年の〈SWEET LOVE SHOWER〉で観た山下達郎さんがすごくて、アレンジの面も含めて、あの感じができればな、っていうのがスタートでした」。

 こうしてまず出来上がったのが、アルバムのタイトル・トラックでラスト・ナンバーの“幸せが溢れたら”。川谷の歌に寄り添ったシンプルなアレンジが特徴で(よく聴けば、細やかで緻密なアレンジが施されているのだが)、美しいメロディーが際立つ名バラードである。当初はこの〈あくまで歌が中心〉という方向性でアルバム全体の制作が進められたが、レコーディングが進むに連れて、徐々にアレンジが多様化。暴力的なまでにハードコアかつノイジーな“実験前”から、アコギとシンセとグロッケンのみでファンタジックなサウンドスケープを浮かび上がらせる“つぎの夜へ”、さらにはストリングスを全面に配し、聖歌隊のような分厚いコーラスを加えた“心ふたつ”と、歌を中心には据えつつも、ヴァラエティー豊かな曲調が印象的な作品となっている。

 「最初は〈そこはそれ以上弾かないで〉とか〈ここはルートでいいから〉と言って、シンプルな形でやろうとしたんですけど、全然納得いくものにならなかったんです。だったら、せっかく後鳥さんが入ったわけだし、〈もっと好きにやろう〉って途中から切り替えて、いままでやりたくてもやれなかったことを詰め込もうと。“花をひとつかみ”とかも最初はすごくシンプルだったんですけど、〈スラップにしたらどう?〉ってパッと思いついて、その場でフレーズを作ってやってみたりして、結果的にはそれですごく良いものに仕上がったと思います」。

 

ストレートなラヴソング

 一方、本作の歌詞のテーマは〈ラヴソング〉であり〈失恋〉。『幸せが溢れたら』というアルバムのタイトル、男女が寄り添うジャケット、〈歌〉に寄った作風などから、大瀧詠一の“幸せな結末”を連想したりもするが、セピア色のジャケット写真からは、その幸せが過去のものであったことが伝わってくる。

 「いま、バンドっていう括りのなかで、ストレートなラヴソングを歌ってる人ってあんまりいないと思うんですよ。僕はaikoさんの曲を昔からよく聴いてたり、失恋ソングみたいなのもすごく好きで。ただ、それを自分がやるのは何か似合わないなって気持ちが強かったんですよね。でも、ライヴでストレートなラヴソングを歌ってた達郎さんを観てすごく格好良いなと思って、それに背中を押されたっていうのもあります。いままでの歌詞は自分にしかわからないような言葉で書いたりもしてたんですけど、今回は伝えることを意識して書いたので、それが歌い方にも大きく影響したと思いますね」。

 川谷の心象風景を描写したインディゴの楽曲、その映像喚起力はかねてから特筆すべきものがあったが、テーマを〈ラヴソング〉〈失恋〉に絞ったことによって具体性を増し、曲ごとのシチュエーションがより想像しやすくなっている。そして、〈私〉と〈僕〉という一人称を使い分けながら描かれる各曲の主人公たちから感じられる〈喪失感〉――これまでのインディゴの作品にも常に通底していた感覚がここにもある。

 「過去に経験した大きな失恋をずっと引きずって、それと共にインディゴをやってきたというか……喪失感みたいなものは、ある意味ずっとインディゴのテーマだったんです。今回はメンバー4人での初めてのレコーディングだったので、ここで一回全部清算するようなつもりで、はっきり作品にしようという思いがありました」。

 

拓けはじめた新たな地平

 バンド結成当初から抱えてきた〈喪失感〉に4人で区切りをつけたものの、アルバムの発表を間近に控えたところで初期からのメンバーであったオオタユウスケ(ドラムス)の脱退が発表され、ふたたび3人体制となってしまったインディゴ。とはいえ、バンドはすでにサポート・メンバーを迎え、初のホール公演を含む2月からのワンマン・ツアーには新体制で臨むという。そして、いまだ暗中模索ではあるものの、川谷は今後のインディゴに対してすでに確かな手応えを感じていると語ってくれた。

 「まだバンドとして固まってるわけではないので、着席でのホール公演がどんなものになるかはわからないんですけど、これからはちゃんと音楽を聴いてもらえるような会場をメインにやっていくつもりです。達郎さんもそうであるように、自分たちもそうなっていけたらいいなって思います」。

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