アラブ風味を超えて、フュージョン風アラブ音楽へ

 自ら〈アラビック・フュージョン・ギタリスト〉を名乗るカマル・ムサラムは、クウェート生まれでヨルダンにルーツを持つミュージシャン。 ジョージ・ベンソン、ビリー・コブハム、ランディ・ブレッカー、スタンリー・ジョーダン、ボビー・マクファーリンなど、錚々たるジャズ、フュージョン系のアーティストと数多くの共演歴を誇る実力派だ。カマルは、日本のギター・ブランドIbanez(アイバニーズ)とエンドースメント契約を結んでいる中東~アラブ圏で唯一のギタリストでもあるが、作品がわが国で紹介されるのは今回が初めてとなる。

KAMAL MUSALLAM 『Homemade In Rome』 K&G Productions/GoodNessPlus(2015)

 本作はタイトルが示すとおり、イタリアのローマで録音された。メンバーは、カマルのほかにアコースティック・ベース、ドラムス、テナー・サックスという4人が基本編成。そこに、曲によってエレキ・ベース、シタール、女性ヴォーカルなどが加わる。ミュージシャンたちは、アラブ圏はもちろん、イタリア人、スペイン人など多国籍だ。

 強烈なリズムに乗ってスラップ・ベースが疾走するオープニングで聴き手をガッチリつかみ、その後は内省的なナンバーも交えた多彩なサウンドを聴かせる。カマルはエレキ・ギターをはじめアコースティック・ギター、ウード(アラブの伝統弦楽器)まで、抜群のテクニックを駆使しての圧巻のプレイを繰り広げる。アルバム全編にわたってアラビックな雰囲気が漂うが、ジャズやロックのイディオムを持った曲が多いので、アラブ音楽を聴き慣れていない人にも十分楽しめるはずだ。

 今回カマルは、フラメンコのリズムとアラブ音楽の融合をテーマにしたそうだが、特にタップやハンド・クラップをフィーチャーした3曲目などはフラメンコ色が濃厚。イベリア半島は、かつてイスラム帝国の支配下にあり、レコンキスタ(キリスト教徒による国土回復運動)が完了する15世紀末まではイスラム文化に多大な影響を受けてきた。そんななかで発展したフラメンコがアラブ音楽と相性が悪いわけがない。

 さらにフラメンコにとどまらず、6曲目ではシタールと共演し、インド音楽との融合にも挑戦している。インド音楽とアラブ音楽、ジャズ、ロックが一体となったこの壮大なナンバーには、アラブ音楽の可能性を広げていこうというカマルの強い意志が感じられる。アラブ音楽を媒介として世界の音楽とつながっていこうとするカマルの旅は、まだ始まったばかり。これからどんなサウンドが届けられるのか。今後の展開に大いに期待したい。