オスカー・ワイルドのシニカルな格言をタイトルに持ってくるセンスが何とも彼ららしい。このたび到着したGOATBEDのニュー・ミニ・アルバム『The optimist sees the doughnut, the pessimist sees the hole.』は、現在開催中のツアー〈THE DANCE NOT SYNDROME〉の各会場で扱われる〈-Venue limited hell bound-(会場限定盤)〉と、4月29日より一般流通となる〈-Shop limited heaven bound-(店舗盤)〉という2形態の仕様。ミックスとマスタリング、アレンジが異なる共通の4曲と、3曲ずつの個別の楽曲が収録された各7曲のなかに、〈音楽作品〉を制作するうえでのアプローチの多様さと、ソングライター=石井秀仁の思う〈テクノ感〉が凝縮された作品となっている。

活動再開後に発表された『HELLBLAU』以降は、一貫した音楽性をヴァリアブルに披露してきたように思える彼らだが、実際は模索していた部分もあったという。その果てに完成した今回の新作について、石井秀仁に訊いた。


ノーパンみたいな音源

――今回リリースされるミニ・アルバム『The optimist sees the doughnut, the pessimist sees the hole.』は、はじめから〈2形態〉というのが頭にあって制作しはじめたんでしょうか?

「うん、『HELLBLAU』(2012年のミニ・アルバム)以降はいつでもそうですからね。まあ、ふたつ作ったほうがちょっとだけ多く売れるっていうのもあるし、あとは、選べるっていうのがありますよね。アルバムでもシングルでもそうですけど、いつもいろんなアイデアが出るじゃないですか。例えば曲を作っても、トラックダウンの過程で、このエフェクトとこのエフェクトでどっちにしようかとか、どっちも良くて決められない場合がありますよね。だったらどっちも出しちゃえばいいやっていう」

【参考動画】GOATBEDの2012年作『HELLBLAU』収録曲“HELLBLAU”

 

――楽曲に対してのアプローチはひとつではなく、それがさらにアルバム単位になると言わずもがな……ということですね。

「うん。ジャケットなんかもそうですよね。例えば〈AパターンとBパターン、どっちがいいかな?〉って考えながら作っていくなかで、確実にAよりBのほうがいいから選んだっていうんならいいですけど、そうじゃないときもあるじゃないですか。スタッフ込みでの多数決で、好みで片っぽに決まっちゃうとかね。それだったら、2パターンあって、内容も違うものを作ってしまおうと。これまでは、ミックスが違ったりとか、収録曲まで違うとかそこまで極端なことはやらなかったんですけど、今回はできるところまで徹底的にやりましたね。写真のカメラマンも違うし」

――形態ごとに。

「違います。撮ってる日も違うから、片方を作った余りものでもう片方を作ってるとかじゃないんですよ。それぐらいやればね、俺も満足できるじゃないですか(笑)。お客さんはそこから選んでもらえばいいんですよ。コアなお客さんは〈会場盤〉を買えばいいと思うし、全然そんなのどうでもいいやっていう人はCD屋さんで買えばいいし」

――2パターンを聴き比べてみると、共通の4曲も好みは分かれると思いますね。やっぱり、聴いてすぐに違いがはっきりとわかりますから。

「やっぱり会場に来て買う人って相当(GOATBEDが)好きな人じゃないですか。だから〈会場盤〉はなるべく生っぽい感じっていうか、あんまり小細工しないでそのまんま……最近、音楽自体はそういうふうに作りたいっていうのがあるんですよね。音色は曲を作っている過程で決めてしまって、録ったあとにああだこうだいじくるのはやめようかなと思っていて。ヴォーカルも、まあ、意味もなくリヴァーブをかけたりとか、そういうことはやめようと。だから、凄くドライな感じなんですよね」

――そうですね。〈会場盤〉はホントに録り音に近いネイキッドな音で、〈店舗盤〉のほうは、もっと音がヴィヴィッドで。音圧レベルもエフェクトも、よりメリハリがあって。

「そうですよね。アレンジ(の違い)っていうのは曲の構成っていうことじゃなくて、完成した素材自体は一緒なんですけど、トラックダウンの過程で、AパターンとBパターンに分かれたって感じなんですよね。で、〈店舗盤〉のほうは、まあ過剰にというか、そうなってるところもあるじゃないですか。どっちがいいっていうことではなくて」

GOATBED The optimist sees the doughnut, the pessimist sees the hole GEORIDE(2015)

――はい。ここでGOATBEDに初めて触れる方にとっては、〈店舗盤〉のほうが聴きやすいかもしれませんが。

「そうですよ。〈店舗盤〉は、そういう意味も込めての仕様というか。そこが〈会場盤〉のほうは、自分で音楽を作って、トラックダウンもやって、っていう」

――ミックスまでご自身で。

「そうですね。コアなお客さんにはそういうの、いいじゃないですか。これまでも、いろいろやってたんですよ。USBメモリみたいなのをライヴで売ったりして、そこに録りっぱなし、作りっぱなしで音量を整えたぐらいの曲を入れたりしてたんですよね。それって曲を作る側としては恥ずかしいですけど、自分が聴く側としては好きなんですよ。例えば誰かのリマスター盤が出たりすると、そこに10曲ぐらいデモ版が追加されたりするじゃないですか。あんなの、ご本人は絶対聴かせたくないでしょうけども、マニアは嬉しいじゃないですか」

――わかります(笑)。ファン心理としてはそうですよね。

「本来聴くことができない音源ですからね。それがGOATBEDのお客さんに伝わってるかはわからないですけど(笑)。ただ単に〈しょぼいな〉って思ってる人もいるかもしれないですけど、わかりやすく言えば、お店に出回る前の段階のものを、コアなお客さんだから聴くことができるんですっていう。もちろんお金は払ってもらってますけど(笑)、そういうことですかね。やっぱりライヴに来てくれるようなお客さんは特別だと思うんですよ。そういう人にだったら、こういうものを聴かせてもいいかなってとこかな。それがお店に並ぶと困るんです(笑)」

――それこそ〈しょぼいな〉といったような、ある種の誤解が生まれることもあるかもしれないし。

「そうそう(笑)。だから、会場で売ってるほうはノーパンみたいな音源ですよ」

――それはずいぶん無防備ですね(笑)。

「ズボンは履いてるんですけど、パンツは履いてません、みたいな(笑)。そういう感じですね」

 

全部繋がっている

――そして、今回のミニ・アルバムですけれども……前に、Twitterで制作中に聴かれてた音源を挙げてたじゃないですか(モデル500の2015年作『Digital Solutions』、マルセル・デットマンの2013年作『Dettmann II』、三上博史の93年作『ARC』、OVERROCKETの2004年作『Overrocket』、ジョン・ロビーの2007年作『Beats, Breaks & Loops』の5枚)。そのなかで、モデル500の最新作はGOATBEDの今作と近いものがあるんじゃないかと思って。

「俺、あの人は昔からずっと好きなんで。デリック・メイとかもそうなんですけど、音響的な部分で凄い影響を受けるんですよ。あのモデル500のCDもなんか、現代のものにあまり聴こえないっていうか」

【参考音源】モデル500の2015年作『Digital Solutions』収録曲“Digital Solutions”

 

――そうですね。『HELLBLAU』以降のGOATBEDの作品からは90sテクノに通じる意匠がところどころから感じられましたけど、今回はその前段階というか、デトロイト・テクノ以前のエレクトロ。オリジナルな意味でのエレクトロといいますか……。

「うん。音響は近い部分もあると思います。良く言えばそのへんの現代版みたいな感じですよね」

――ただ、モデル500の『Digital Solutions』のリリースは今年の1月ですし、その時点ではすでにGOATBEDの新作の制作も始まっていたと思うんですけど、たまたま、目を向けたところが近かったんですかね?

「まあ、『HELLBLAU』以降は一貫してずっとそういう感じではありますから。ちょっと模索してる感じはあったんですけど」

――模索されていたとは?

「曲調みたいな部分で、ずっと考えてたところはあったんですよね。例えば『「」ying&yung』(2013年)は、結構ヴォーカルものから離れてるような印象を受けると思うんですけど、なんか……そういう意味で。俺、歌う人じゃないですか(笑)。だから、歌ありきで曲を作るんですけど、すると、最初の段階から損なわれてるものがあるというか、〈歌がなければ、こうじゃない曲になるんだけどな〉みたいな。そういう、葛藤っていうほどでもないですけど、折り合いを付けるポイントが難しかったんですよ。自分はヴォーカリストっていう部分と、いわゆる〈自分の音楽を作る〉っていうところで」

【参考動画】GOATBEDの2013年作『「」ying&yung』収録曲“ying&yung”

 

 

――楽曲の制作にあたって、歌が制約になることもあったということですね。

「〈自分の音楽を作る〉っていう部分には、〈自分がヴォーカルだから〉っていう意識は全然ないんですけど、でも、いざ作ってCDを出すときには自分が歌うわけで。そこの折り合いがなかなか難しかったんですけど、ちょうど『HELLBLAU』を出した頃から〈DRAMAtical Murder〉の一連のお仕事をいただいて、そこではヴォーカルをまったく考えないでゲームのBGM、いわゆるインストを作ってて。で、『HELLBLAU』以降は、そういう歌を考えないで作ってるものに後乗せで歌を入れるような手法を数曲ずつ取ってるんですよ。

――はい。『HELLBLAU』のときもそういう話題が出てましたね。

「なんか、それで解消された感じがあるんですよね。歌ありきで作ってないものに、強引に歌を乗せるみたいな。そうするとちょっと変わった作りになるというか、もともとインストだから、AメロがあってBメロがあってとかではない作りの曲も多いので」

――はい。

「元のトラックを変えてしまったら意味がないので、曲はかなり慎重に選ばないと難しいところはあるんですけど。まあ、ゲーム・ユーザーの人たちと、ゲームとは関係ないGOATBEDのお客さんを繋ぐ部分っていうか、そういうふうにできたらいいなと思ってて。そこは繋がってるものなんですよっていう」

――両方のお客さんが交わるポイントになっているという。

「そうですね。まあ、アレンジはまちまちで……最初の頃は結構極端に変えてはいるんですけど、そうやって作った曲に、自分なりの活路を見い出してるところがあるんですよ。そういうものが、代表曲っていう言い方もおかしいですけど、いまのGOATBEDを象徴するような曲になってるんですよね。まあ、お客さんが好きかどうかはわからないですけど、自分のなかではいちばんしっくりきているというか」

――いまのご自身のやりたいことに。

「うん、そうですね。やりたいことっていうか、この手の自分が好きな、いわゆるテクノみたいなもので、自分がやっているような音楽に似てるものはあんまりないなっていうか。GOATBEDはあえて何かに似せてる曲もあるから、そういうものは別として、いま言った手法で作ったようなものは、GOATBEDのオリジナリティーが出てる部分じゃないかなって思うんですよね」

――それが今回のミニ・アルバムで言うと……。

「“ROSE&GUN”っていうやつですね。ちょっと変わってるでしょ? GOATBEDの曲っぽくないじゃないですか。イントロとか、そんなことないですかね?」

――確かに。元の曲は未聴なんですが、だいぶ焦らして歌が入ってくるので、最初はインストかな?と思った構成の曲でした。それで、最終的にはガッツリとした歌モノに切り替わるという。ただ、あれだけ歌っていらっしゃるわりに、温度感が絶妙な楽曲ですよね。決して熱くはなりすぎない上品さがあるといいますか。

「そうなんですか? 俺はすげえ歌ったなって……感情がすごいこもってる感じがあると思ったんですけど、違うんですかね(笑)?」

――ご自身としては相当エモーショナルだと。

「うん、いくところまでいった感があるんですけど。でも、そういうふうに言われることが全然ないんですよね……今回に限らず。なんなんですかね(笑)?」

――それは、音の好みや選び方、あとはまあ……ご本人の性質からきてらっしゃるんじゃないかと……。

「そうなんですかね(驚く)? 俺はなんか、ハートをギュッと掴むような曲のつもりなんですよね」

――あっ、ハートはギュッと掴まれます。

「ハートはギュッと掴まれるんだ(笑)。おもしろいですね」

――エモーショナルと言っても、なりふり構わず感情を全開にしているものではない。それでも強く伝わってくるものがあるからこそ余計に掴まれるといいますか。

「(感情を)抑えてるつもりはないんですけどね(笑)。これでも物凄い感情が露というか、そういうつもりなんですよ。歌詞だって、前の、別件の取材でね、土田さんともよくお話してましたけど、あれですよ。〈どうせ死ぬんだからパーッとやろうぜ〉のパターンですよ」

【参考動画】cali≠gariの2015年3月のライヴ映像

 

――例の(笑)。ただ、別件の……cali≠gariとは違ってこちらは英詞混じりということもあるので、印象はだいぶ異なりますね。

「英詞もちゃんとしたものではないんですけど、そういうものがあるから、一瞬出てくる日本語が強烈に意味を持つんじゃないかと思うんですよね。〈この部分だけでいいんだ〉っていう。だから、それ以外はほとんど意味がない……ってことでもないんですけど、逆に引っ掛からないようにするっていう作り方をしてるんですね、GOATBEDは」

――そうすることで、詞のテーマが伝わりやすい構成になっていると。

「そうですね。メロディーは、歌じゃなくてもいろいろあるじゃないですか。この曲には入ってないけどギターもそうですし、シンセサイザーとか、たくさんのメロディーがあって、歌もそういうもののひとつ、一個の楽器だと思ってて。歌詞だって、音色だったりエフェクトだったりとか、自分のなかでは所詮そんなもんなんですよ」

――そういった歌詞の面でも、“ROSE&GUN”にはいまの石井さんの方向性が出ている?

「方向性っていうとなんか、自分がそういう音楽をやりたいって捉えられたら違うんですけど。GOATBEDとしてのオリジナリティーっていうか……といっても俺、オリジナリティーも求めてないんですよ。そんなものはないと思ってて(笑)」

――とはいえ、やはりオリジナリティーというお話になるかと思うんですけども、つまりはGOATBED名義だからこその楽曲っていうところですよね。

「というのと、ゲームの仕事でやっているものと、GOATBED名義で出す作品でやっているものを、自分のなかでは別に分けてなくて、全部繋がってるものなんですよっていうことをお客さんに伝えたいっていうかね。例えば、ヴォーカルが乗ってるゲームの曲っていうのは、ゲームに合わせてそういう曲を作ったわけではないっていうことなんです。もちろん〈こんな感じの曲で〉って言われますけど、それも〈アッパーな感じで〉とか〈大団円っぽい感じで〉とかその程度ですから」

【参考動画】PCソフト「DRAMAtical Murder」オープニング映像

 

――制作している側としては、公開される場によって楽曲の内容が左右されることはない。例えば〈大団円な感じの曲〉というテーマで書くとしたら、それがゲーム用であってもGOATBED名義のアルバム用であっても、そのタイミングでは同じ曲が出てきてたってことですか?

「そう……でしょうね。100%そうとも言い切れないところはありますけど。あと、最初にゲームの仕事の話をいただいたときに思ったのは、ここでは自分のなかでは過去になっているものを求められてるんだな、っていうことで。その時点ではもう、やるつもりはなかったものなんだけど、求めてもらえるなら作ってみようかなと思って。だから、GOATBEDがいまでもヴォーカルものみたいな曲をやってるのは、ゲームの話があったからだと思うんですよね。そうじゃなかったらたぶん、また別の方向に行っている可能性もありますし」

――そのお話は、近作のインタヴューで語られていた、〈ゲーム関連の曲のリメイク版が、作品全体における歌もの的な部分、ポップな部分を担っている〉というところと繋がってきますね。

「そうですね」

――何も考えずに作ると、温度感のないものばかりになると以前おっしゃってましたし。

「まあ、人に聴いてもらおうともそんなには思ってないし、っていうような感じですかね(笑)。GOATBEDは、ゲームの話がなかったら、もっと趣味的な部分を押し出してやってたんじゃないかなって思うところはあるんですよ。GOATBEDもcali≠gariと同じように昔、一回止めてるから。で、そこからまたやりはじめたのも、自分がやりたくてっていうわけじゃないんですよ。周りに〈ちょっとやってくれ〉って言われて、で、やりはじめたらいろいろ話がきちゃってとか、そんなんでね。だから、ようやく最近ですよね……『HELLBLAU』とかそのへんを作りはじめてから、いままで自分があきらめていたことっていうか、それは音楽もそうだけど、音楽に付随するような部分でも自分が打ち出したいものというか、考え得る、思い付くものをやらせてもらえるような環境が、いつのまにか出来上がったんですよ。それは、ゲームの話をいただいたことによって、なんですよね。かといって、楽曲もゲームだったりアニメだったりを前提として作ってくれってことではなくて、まあ、放置というか(笑)、放任というかね、そういう状況なわけですよ」

――GOATBEDのこれまでの作品を振り返っても、レーベルの放任主義は何となく感じられます(笑)。

「そういうのって、凄い恵まれてるじゃないですか。若い頃はそんなこと全然できなかったし、こういう状況になったのはここ数年で。それこそパッケージとかもそうですよね、無茶なことを言って駄目だって言われることもありますけど(笑)、いくつも出てるアイデアのなかから、現実的に〈これだったら可能ですかね〉って決めていくっていう。だから楽しいですよね。いま、CDは売れないし、それでもせっかく出すんだから、形として意味のあるものを作りたいなって思うんですよ。GOATBEDが打ち出してるものはたぶん、そういう部分も含んでますから。音だけじゃなくね、風体だったり、パッケージだったり、ライヴの雰囲気とか、トータルで見ないと何をやろうとしてるのかよくわかんないっていうか。逆に、全部見たら余計わかんないのかもしれないけど(笑)」

 

 

 

自分の思う〈テクノ感〉

――では、ここからは“ROSE&GUN”以外の楽曲についても伺えればと思いますが、内訳を改めて確認しますと、今回はオリジナルの新曲が4曲と、三上博史さんのカヴァーが1曲と、ゲーム関連の音楽のリメイクが〈会場盤〉と〈店舗盤〉でそれぞれ2曲ずつということで。

「うん。そのリメイクの2曲に関しては、ホントにボーナス・トラック的なところではあるんですよね。だから、〈店舗盤〉と〈会場盤〉で違うんですけど」

――その2曲を除いた5曲で、全体としてのテーマはありました?

「まあ、話が二転三転してたところもあって、最初はシングルを出そうっていう話だったんですよね。で、この〈doughnat〉っていうやつ(表題曲の“The optimist sees the doughnut, the pessimist sees the hole”をシングル用に作って。〈Optimist〉〈Pessimist〉ってしか言ってないような曲なのに、これでシングルなんだ、っていうようなのを作りたかったんですよ。もともとは、6分とかある曲で」

――ああ、じっくりピークに持っていくような。それは、完成版のフィジカルなテクノ・トラックからも想像できますね。

「シングルで出そうって言ってたときはそういう尺で作ってて、カップリングのほうが凄いキャッチーな歌もののメイン曲みたいな、そういうものをイメージしてたんですけど、まあ、制作のタイミングがcali≠gariとかぶってきたりとかいろいろあったんで、リリースがずれるんだったらミニ・アルバムにしましょうと。で、〈doughnat〉もそのうちの1曲になってしまったという」

――次の“Poisonous red hair and melancholy fireworks”は、ちょっとYMOにも通じるといいますか……。

「音はそうかもしれないですけど、曲調はデペッシュ・モードみたいな感じですよね」

【参考動画】デペッシュ・モードの2014年のライヴ映像

 

――ああ、そうですね。そこも含めてですが、例えばGOATBEDの前作と比べると、時代感が遡ってる気もしました。この曲もそうですし、“踊れない症候群”も。

「それってどっちでしたっけ(笑)?」

――(笑)〈会場盤〉に収録されている、アンビエントにノイズが入っているものですね。とはいえ、昨今のインダストリアル・テクノのようなものではなく、どちらかというとクラウトロックに近い質感といいますか。

「ああ、それと〈店舗盤〉のほうに入ってるのは〈踊らない〉でしたっけ?

――はい、“踊らない症候群”です。こちらはむしろ、幾何学的なフレーズを反復しながら徐々に場面転換していくフィジカルなダンス・トラックで。

「そういうことですよ。GOATBEDはね、ゲームの話とかをいただかずにやっていたらそんなのばっかりやってますってことでしょうね」

GOATBED The optimist sees the doughnut, the pessimist sees the hole GEORIDE(2015)

――この2曲は、はじめから対で作ろうと思ってたんですか?

「そうですね」

――1文字の違いで、楽曲も対極なものになっていて。

「ああ、そうですね。どっちも結構よく出来たっていうか、思い描いてたように出来たなと思ってて。あれ一応ね、歌が入ってるんですけど、両方とも同じ歌詞なんですよ」

――歌詞は共通しているけれども、曲は別物という?

「そうです」

――その歌詞……といいますか曲名もですけど、普段からおっしゃっている、ライヴのときの控えめなフロアの雰囲気のことを書いていらっしゃるんですか?

「まあ、ライヴのMCでポロッと言ったこととかね、その場にいたからこそ体験できることってあるじゃないですか。そういうものが曲のタイトルとかツアーのタイトルになってるっていう特別感っていうかね、そんなものでも作品になっちゃうんだっていうことを示したいというか。だから、皮肉とかでは全然ないです。ライヴを観ている人であれば、〈あのとき(石井が)そういうこと言ってたよね〉って思うじゃないですか。だから、歌詞でも〈Tシャツを買いなさい〉とかそういうことを言ってるんですけど……(〈会場盤〉のブックレットを見せる)これが歌詞ですよ。いろんなところに載ってるんですよ」

――本当ですね。執拗に同じリリックがほとんどのページに載ってます(笑)。

「あとで適当に訳してもらえばわかると思いますけど、この〈Tシャツを買いなさい〉っていうのも、別にこちら側の目線で言ってるわけじゃないですよ。こちら側がこういうことを言ってるってことを、お客さんの目線で書いてるんですよ」

――ああ、〈石井さんがまたTシャツを買うようにって言ってるよ〉みたいな。

「そうそう(笑)」

――〈フロアが静かだ〉って言われても、お客さん側としては……。

「〈だから、踊らないんです!〉って。〈なぜなら文化が違うからです!〉みたいなことを書いてるんです(笑)」

――ははは。こういうユーモラスな歌詞も石井さんだからこそのものですけど、サウンドも、本当にお好きな方向に突き進んでいらっしゃるというか、特に『HELLBLAU』以降は一貫してるところがあると思います。

「そうなんですかね? なるべくとっ散らからないようにやろうと意識してるところはありますけど。例えば、音のイメージがちょっとズレたなっていうときは、曲じゃなくてパッケージで修正するというか」

――ほお~。

「まあ、写真のイメージもずっと一貫してるじゃないですか、『HELLBLAU』ぐらいから。ずっと同じ……同じっていうのもあれだけど(笑)、そこは、ひとつの世界観をゴリ押ししたいところがあるんですよ。この、ノワールな感じね(笑)。そういう箱があれば、そのなかにカラフルな音を突っ込んでも、結果、統一した世界観になるっていうか」

――その〈カラフルな音〉のなかでも、石井さんの嗜好は〈プリミティヴなエレクトロニック・ミュージック〉というところで統一されているような気がするんですけど……。

「うん、俺が思い描いてるものっていうのはなんか気が抜けてるっていうか、適当なところもいっぱいある……それこそ初期のミュート・レコードのファド・ガジェットとか、デペッシュ・モードの初期もそうだけど、あとは……うーん……80年代の半ばのキャバレー・ヴォルテールとかDAFとかね、そんなものなんですよ、いつも自分のなかにあるものって。俺が言ってる〈テクノ感〉っていうのはそういうものなんですよね。それと、初期のデトロイト・テクノとの接点みたいな、そういう部分がたぶん、自分がいちばん志向してるところだと思うんですよね。だから、ニューウェイヴって言われてもちょっとピンとこないところがあるんです。ニューウェイヴっていうと、さまざまな音楽性のものが含まれるから」

――なるほど、なんだか腑に落ちました。そのへんのサウンドは、先程お話したデトロイト・テクノ以前の、オリジナルな意味でのエレクトロとも繋がってくるような気がします。モデル500のホアン・アトキンスで言えば、別名義のサイボトロンみたいなところですとか。

【参考音源】サイボトロンの83年の楽曲“Clear”

 

「そうですね。ホアン・アトキンスも、リエゾン・ダンジェルーズ(元DAFのメンバーも所属したEBMユニット)の曲を思いっきりサンプリングしたりしてるわけじゃないですか。その感じなんですよね」

――その感じです。そのトーンは今回のミニ・アルバムにもあると思います。

「……あの、なんかいま思いましたけど、この〈会場盤〉のパッケージも凄いミュートっぽいですよね。全然意識してなかったんですけど。なんかありましたよ、ミュートのボックス・セットで」

――音でもパッケージでも、その周辺の雰囲気が出ているという。

「まあ、GOATBEDを好きなお客さんにそんなことを言ったところで、興味もないでしょうからそんなのいいんですけど」

――その方面からGOATBEDに入ってくる人もいそうに思うんですけど……。

「逆にそっちに向かって出ていく人はいるんでしょうけど、入ってくることはないでしょう(笑)」

 

GOATBED 『The optimist sees the doughnut, the pessimist sees the hole.』
会場盤ジャケット画像

 

ルーツとの邂逅

――あと、今回は三上博史さんの“BETTY BLUE ~suffer, Baby”をカヴァーされてますね。これはどういった選曲で?

「〈なぜ?〉って感じでしょ? その唐突な感じがよかったんですよ。だけど残念ながら、DIR EN GREYの京さんのsukekiyoで……三上博史さん、歌ったんですか?」

――『VITIUM』のボーナス・トラックで、京さんとデュエットされてますね。

【参考動画】sukekiyoの2015年作『VITIUM』収録内容紹介

 

「俺、カヴァーって昔からよくやってるじゃないですか。それで候補にはいつでも挙がってた曲だったんですね。当時、リアルタイムで聴いたんだけど凄い衝撃で。芸能人みたいな人が作るアルバムじゃないじゃないですか、あれって」

――『ARC』のリリースは93年ですから、三上さんがいわゆるトレンディードラマに出てた時代のものですけど、かなりアングラな……仄暗いトーンで覆われた作品ですよね。

「そうですよね。で、どうしてこの曲かっていうと、まあ、単純に楽曲自体が凄い好きだったからっていうのもあるんですけど、この曲は自分が歌ったときのイメージが湧くというか、自分に似合うとかじゃないんですけど、違和感ないだろうなと思ってて」

――違和感どころか、むしろ異様にハマってます。

「それで、どうしようかなって改めて聴いてて、曲のトーン、世界観が今回の音源と合うなと思ったのもあるんですけど、この曲の情報をいま調べようとしたら、ほとんどないんですよ。俺はオリジナルの音源を持ってるから問題なかったんだけど、あんな素晴らしい楽曲が、調べたらYouTubeにもなかったし、歌詞もどこにも載ってないし。それで、余計にやる気が出てきて(笑)。この曲、歌詞も凄いんですよね」

――倒錯した世界観が途轍もなくクールで。

「かなりキてますよね」

【参考音源】三上博史の91年作『ORAL』と93年作『ARC』に収録されている楽曲“SOIL”

 

――はい。ですが、そんなキてる曲を石井さんはリアルタイムで聴いてたんですか?

「あの手のやつはほとんどリアルタイムですよ」

――当時、石井さんは10代の半ばぐらいですよね?

「そんなもんですよね。三上博史と、モックン(本木雅弘)と、永瀬正敏。あの人たちのアルバムはとんでもなかったんですよ。皆さん、ご自身で歌詞も書かれてて。俺ね、昔のGOATBEDでは永瀬正敏の曲をカヴァーしたりもしてたんですよ、音源化はしなかったんですけど。そういうのが結構、自分のフェイヴァリットにはあるんですよね。参加してるミュージシャンも凄いし。それは技術的に凄いっていうことじゃなくて、〈この人か〉っていう。例えば永瀬正敏のアルバム(93年作『CONEY ISLAND JELLYFISH』)は、プロデューサーがライオン・メリーさんっていう。メトロファルスのキーボードのね」

――ああ~、はい。

「女装のね」

――はい、はい。

「そういう方が、永瀬正敏のアルバムのプロデューサーですよ(笑)。鈴木慶一さんとかも参加してて、凄くね、ロックで、テクノであるみたいな作品で。で、次のアルバム(96年作『Vending Machine』)はケンイシイとか、イギー・ポップも参加してたような気がするんですよね」

――むちゃくちゃですよね(笑)。

「むちゃくちゃで。とにかくメンツが凄いんですよ。三上博史のそのアルバムに関しては、カヴァーした曲は違いますけど、YUKARIEさん(cali≠gariのライヴ・サポートを務めるサックス・プレイヤー)が参加してますからね(笑)。コーラスで」

――それは気付いてなかった。ああでも、“BETY BLUE~Suffer Baby~”の作曲はじゃがたらのOTOさんですから……。

「そう、YUKARIEさんはそもそもじゃがたらの人ですから」

――そうですよね。人脈的にもさりげなく繋がりが。で、そんな昔からのフェイヴァリットをここで晴れてカヴァーされて。

「なんか、おんなじようなジャンルの曲をカヴァーしてもおもしろくないじゃないですか。だから、まさかの三上博史のはずだったんですけど、sukekiyoさんが先に、ね。俺、sukekiyoさんのアルバムもちょっと参加しましたから(2014年作『IMMORTALIS』にリミックスで参加)、ちょっとパクリ感はありますけど、sukekiyoと三上博史ファンの両方をGOATBEDに取り込もうっていう(笑)」

――(笑)あとボーナス・トラックとしては、〈会場盤〉の“MANISH FIEND”“天使達”は石井さんが再録されていて、〈店舗盤〉の“SLIP ON THE PUMPS”“FORM SWEET FORM”にはギターで石垣愛さんが参加されてますね。

「そうですね。これ、ギター用にトラックをマイナスしたりとかは一切してないんですよ。もともと、2曲ともギターを入れる余地がある曲だったんですね。ギターを入れたら絶対もっとわかりやすい曲になるなと思って、あえてメインになるエッジーな音を抜いていたようなところがあったので」

――それは、いつかギターを入れようということで?

「いや、単純に小賢しいので、両方とも音数少なく聴こえるような形で作っていた曲だったんですね。ただ、ギターのイメージはあって、弾いてほしいなって思ってる人が何人かいて、そのなかで、直接知り合いじゃなかったのが石垣さんだったんですよ。で、共通の知人を通じて頼めないか訊いてみたら、30分後ぐらいにすぐ〈オッケーだって言ってるよ〉って返事があったので(笑)、じゃあお願いしよう、って。それで、ギターありきというか、たぶん石垣さんはこんなのを弾いてくるんじゃないかっていうイメージで、ちょっと音色を変更したり、フレーズを変えたり、っていうふうに曲をいじったんですよね。ただそれで、結果的に凄い格好良く……俺は別に自分の曲で好き嫌いとかないんですけど、なんか、凄い格好良いじゃないですか、ギターが」

――はい。“SLIP ON THE PUMPS”のほうはメロディーと並走するようなギターで疾走感とエモーションを強めていて、“FORM SWEET FORM”はウワモノ的な位置付けで浮遊感を増しているといいますか。もともと完成していた曲で、音を間引いているわけではないトラックに対して、ギターを乗せるほうとしてはどうだったんですかね?

「どうでしょうね?」

――そのへんのお話はせずに。

「石垣さんは凄いいい方なので、〈欲しいギターがあったら言ってね〉とか、弾き終わった後も〈好きなようにエディットしちゃっていいよ〉みたいな感じなんですけど、俺は人とやるときに、まったく注文とか出したくないんですよ。それだと自分のイメージになっちゃうから、逆に、〈こういう曲なんです〉ってお渡しして、その人が受けた印象でプレイしていただくのがいちばんいいと思っていて。それが一緒にバンドをやってるメンバーだとまったく話は別なんですけど」

【参考動画】石垣愛、Rueed、Ju-kenによるバンド、Derailersの
2014年作『A.R.T』収録曲“Master Blaster”

 

――石垣さんのギターは、石井さんが想定していたものでした?

「石垣さんがどういうギタリストかっていうのはわかっているつもりではあったんですけど、楽曲に凄く歩み寄ってくれるんだなって思いましたね」

――楽曲の核が、より伝わりやすくなってましたよね。私個人としては、特に“SLIP ON THE PUMPS”の変貌ぶりに感動しました。

「だから〈店舗盤〉に関して言えば、ボーナス・トラックの2曲がメインみたいなね」

――(笑)シングルを持っている人も絶対聴いたほうがいいと思います。

「あと、おもしろいのは、石垣さんとやり取りしてて、ギターを弾いていただいたあとに俺のTwitterを見たみたいでね、俺が三上さんのアルバムを参考盤として挙げてたら、石垣さんも〈あれ、すごい大好きだったんだ〉って言ってきて。〈曲をもらったときにイメージしたのがこのアルバムだったんだよね〉って言われたんですよ。俺、カヴァーしてるとかも全然言ってなかったのでホントに偶然なんですけど」

――では、耳的にも通じるところはおありだったんですね。

「石垣さんって、ニューウェイヴなもの、ポジパンとかお好きなんですよ。俺が学生の頃とかに、それこそMAD CAPSULE MARKETSの初期の頃とかに、石垣さんが雑誌で影響を受けたレコードとかCDとかを取り上げたりしてたんですけど、そういうのに影響を受けてて」

――そうした石井さんのルーツもさりげなく含まれた最新作ですが、この記事が公開される頃には〈会場盤〉はすでにリリースされていて……そのあとはツアーを完走して、〈店舗盤〉がリリースされて。

「あとね、ライヴDVDがあるんですよ」

――それも会場で売られるものですか?

「売らなかったら何のために作ってるんですか(笑)。趣味ですか。俺、自分で観るためにDVD作ってるんですか」

――失礼しました(笑)。売られるものですね。

「これ(タイトルが猛烈に長いので、各自オフィシャルサイトで参照を)は去年の12月のワンマンのやつですなんですけど、ライヴの規模もそれなりに大きい会場だったし、いまのGOATBEDはこういう感じなんだなっていうのがわかると思うので。土田さんもぜひ観ていただいて、絶賛しといていただければ」

――(笑)どこで絶賛すればいいんだろうか。

「……どこかで!」