改めて『空からの力』を聴いていまさら感じるのは、恐ろしいほどのスタンダード感だ。あらゆる大衆音楽は当然のように時代背景も込みで聴かれるものだとしても、ここでZeebraとK DUB SHINEが確立したライミングや押韻の技量は、現在に至るまでの〈ラップらしいラップ〉のお手本になっているとも言えるし、DJ OASISを中心とするビートメイクもシンプルで重々しいからこそ変わらぬ響きを備えている。また、アルバム全体におけるトピックのヴァラエティーが、意識的にテーマ立てを振り分けられ、練り込まれた結果として、非常にバランス良く配されているのは特徴的だ。ともすれば説教臭く響きかねないメッセージの部分も、具体的すぎないからこそいつの時代の耳にも直結できるポイントが多いのではないだろうか。
なお、ボーナス・トラックとしては本作からのリミックスで構成されたミニ・アルバム『影』(96年)に収録されていたDJ KENSEI、DJ KIYO、INOVADER各々のリミックスをリマスタリングして収録(デラックス・エディションには、当時のライヴ映像などを収めた98年のビデオ作品『影 The Video』もDVDとして付いてくる)。さらに、アルバム・リリースに向けて制作されていた未発表のデモ音源から“見まわそう”と“空からの力 Part 1”が収録されているのは今回のリイシュー最大の目玉だろう。特に発声もフロウも完成版とはまったく異なる前者でのZeebraのパフォーマンスは、個々の試行錯誤と研鑽、そして成長の軌跡を如実に語るものに違いない。