絶大な影響力を誇った『最終兵器』から20年――キングギドラが帰ってきた! 混沌を極めるこの世の地獄にヴァージョン3.0の衝撃はどのように轟くのか?

偶然というより必然

 「キングギドラをやろうってなると自然と世の中の混沌が増していくっていうか、世の中が俺たちの感覚に追いついてくる感じがすごく強くて。もともとこのタイミングを狙ってたわけじゃないけど、なぜか世の中がタイミングよくさせてくれて、ギドラの使命がマッチするし、(復活は)偶然というより必然かな」(DJ Oasis)。

 セカンド・アルバム『最終兵器』(2002年)のリリースから20年、そして来年にはグループ結成30周年を控えるキングギドラが、ついに長い眠りから覚めた。YouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」への出演を皮切りにした今回の復活は、グループの節目とコロナ禍に揺れる世相を受けたものともなるが、遡れば『空からの力』(95年)の20周年記念盤を出した2015年から翌年のK Dub Shine“化学反応”での再結集へ至る流れでその種はすでに蒔かれていた。

 「“化学反応”で2人をフィーチャーしたぐらいからまたギドラでやりたいなっていうのがあったし、『最終兵器』を出したっきり一緒に作品作らないこと自体ありえないって思いはじめたんだよね」(K Dub Shine)。

 「その前の『空からの力』20周年の頃ぐらいからいいタイミングでやれたらなっていうのはあったね。『空からの力』に入ってた俺とコッちゃん(K Dub)のソロ曲(“フリースタイル・ダンジョン”と“スタア誕生”)がそのままスター生成番組のタイトルになったりとか、いまでもヒップホップの原動力の根幹には俺たちがいるって自負がある。あとは単純に最近会う機会が増えたのもあるし、そういうところが全部混ざってる」(Zeebra)。

 PERIMETRONがリメイクしたロゴと共に新装された『最終兵器』の再流通スタートは、いわばそんな復活の前フリ。当のアルバムを振り返って3人が語る。

 「『最終兵器』は決めたゴールに100%、200%で落とせたアルバムだけど、ヒップホップには流行りがあるじゃない? 7、8年前ならピンとこない子もいっぱいいただろうし、ちょっと前ならトラップのフロウしかみんな受けつけなかったけど、いまはUSでも00年ぐらいのリヴァイヴァルがフレッシュに響く時代になった。『最終兵器』の内容の360°感とか隙のなさも若い子たちに聴かせたかったんだよね」(Zeebra)。

 「内容もそうだけど、『最終兵器』はセールスの部分でもそれまでヒップホップに触れたことのない小中学生にも届いて、自分で言うのもおこがましいけど、日本のヒップホップの歴史的な作品になった。ヒップホップがポップ・カルチャーになる過程に貢献できたと思うし、それは自分の人生でも記念的な出来事だから、また甦るのは幸せなことだと思う」(K Dub Shine)。

 「ギドラを聴いてない若い子たち、なんなら知らなかったという子たちにも、あの時どういうことが起きてたか、モノとして届けることで改めて認識してもらえるのがすごく重要だし、嬉しいことでもあるね。20年経ってまたヒップホップがどんなものなのかを再認識してもらえる教材にもなるんじゃないかな」(DJ Oasis)。

 時代が二回りした現在、『最終兵器』の音にしろ、ラップやトピックの一つ一つにしろ、キングギドラの強固な個性はますます際立って映る。「日本のヒップホップがこんだけ盛り上がっていても、こういう路線のグループは一つもない」(Zeebra)――こちらもPERIMETRONのアートワークによる12インチでリリースされる新曲“Raising Hell”もまた、その個性に何ら変わりがないことを示す、3人の「平常運転」(Zeebra)だ。「そこがブレるとギドラじゃなくなる」というDJ Oasisの言に、K Dub Shineが続ける。

 「音楽はエンターテイメントであると同時にアートだから、他の人たちと同じことをやったらそれを〈いいアート〉と呼べるかは疑問だと思う。自分たちの哲学に忠実に作ったらこんなもんが出来る」(K Dub Shine)。