初のスタジオ音源となった昨年のミニ・アルバム『promenade』で、すべての作詞/作曲/オーケストラ・アレンジを含む編曲に加え、ベースやギターなど数種の楽器演奏などをマルチにこなし、SoundCloudを通じて注目を集めていた才能と実力を音盤で披露した北園みなみ。若干24歳にして、ストリングスやホーン隊も交えた美しく芳醇で、そして何より親しみやすいポップサウンドをクリエイトした彼に末恐ろしさすら感じたものだが、このたびその気持ちを一層強くする2作目『lumiere』が完成した。『promenade』と対を成す〈双子のミニ・アルバム〉と謳われる本作は、前作では見せていない音の引き出しも開けられている印象だ。そんな『lumiere』について、本人にメール・インタヴューという形で話を訊いた。

北園みなみ lumiere ポリスター(2015)

――『lumiere』は前作『promenade』と対をなすミニ・アルバムとのことですが、具体的にどういう面で対照的になっているのでしょうか?

「ミニ・アルバムという形態に積極的な意図はなく、ただ創作的な意味が与えられればこしたことはないと考えたんです。そこで『lumiere』に華やかさを求めた結果、明暗のような対照性が生まれました。このアイデアを思いついたのはファースト(『promenade』)が完成した後のことだったと記憶しています」

※北園みなみ『promenade』インタヴューはこちら

――楽曲自体は前作も『lumiere』と同様にブライトなナンバーが揃っていた印象なので、それを指しての明暗ではないですよね?

「主にミキシングの点で響きの感触に違いが感じられると思います。『promenade』を基準として、軽く明瞭でハイファイなものを期待して制作を行ったので。作曲の点では、一般に明るいとされる作品への羨望という形で、傍目には微々たるものであろう配慮をしました。これでも前作よりずっと楽しげなものを作ろうとしています」

【参考音源】北園みなみの2014年のミニ・アルバム『promenade』ダイジェスト

 

――十分楽しい仕上がりですよ! では、収録曲について具体的にうかがいたいのですが、『promenade』の1曲目だった“ソフトポップ”と同様に、今回もオーケストラ・サウンドのゴージャスな“夕霧”でスタートしていますね。この“夕霧”のサウンド展開にはストーリー性を感じるような抑揚があってとても気持ち良い聴き心地ですが、これはどういったことを意識して作られたのでしょうか?

「この曲は、音楽のダイナミクスを充実させることがテーマで、それが起伏や抑揚という形でストーリーを示唆していると思います。感情的な取り組みとしては、次作への架け橋として相応な作品となるようにと願って書き上げました。まだ聴いたことのない音楽への希望が込められています」

――なるほど、未来に繋げる所信表明的な曲なんですね。

「あと、“夕霧”は全パートをスコアでアレンジしているんです。これまでは〈大変そうだから〉という理由でやっていなかったのですが、今回は方法と効果を確認することを目的に。すべてのパートが最小限の役割を担う状態を描いて、できる範囲で自分の音楽にしようと試みました」

――おー……それは凄いですね。自身の描いた音楽を極力自分の手で形にしていく、ということが今後の目標でもあるのでしょうか?

「自分の手でというよりは、自分が思い描いたようにという思いです。音楽的に信頼の置ける共同制作者を見つけることも重要だと感じています」

――マンドリンやバンジョーを使った一見USルーツ・ミュージックを思わせる“つぐみ”、裏打ちリズムを用いたレゲエ風味のある“新しい街”など、各曲でさまざまな音楽要素が窺えますが、どれもが特定のジャンルに寄せているわけではなく、あくまでも北園さんならではのサウンドとして咀嚼されているのが全体の統一感に繋がっているように感じました。

「様式となっているリズムを用いる時は、過去の音楽の恩恵に預かっているという思いがします。ジャンル自体の気迫はそこにはないので、それが余裕を生んでさまざまな遊びを許し、それに甘えた結果から一種の〈らしさ〉が生まれることはあるかもしれません。ただ、それだけのものに過ぎないという思いもあり、後ろめたい作業です」

――後ろめたいですか……でもとても良いと思いますよ! ちなみに“新しい街”の中盤にはダビーな処理が施されていたりして、そこも新鮮だったのですが、この曲はどういったイメージで作られたんですか?

「すっかり忘れていたのですが、『lumiere』は4月頃のリリースを見据えて作っていて、それを想定しながら見知らぬ街を訪れた時の感情を描いています。それは新鮮味を覚えつつも、いずれ懐かしみと共に振り返ることになるだろうという気持ちです。そして感情に陰りを与える倦怠感が、私のなかでダブ処理されたハイピッチのスネアと共鳴し合っていたので、この曲では机を叩く音にディレイとディストーションを掛けたものを使用しました。小学生の頃に、ある音楽で急に現れるダブ処理に出くわし、懐かしいような後ろめたいような思いがして、それがいまも形を変えずに記憶に残っています」

――あれが机を叩く音だったとは! そういったダブの要素が感情とリンクして取られた手段/手法だというのもおもしろいです。作品終盤に入るとますます聴き応えのある楽曲が続くのですが、“リフロック”はリズム・チェンジもあったり、タンゴを思わせるフレーズやフュージョン並みのギター・ソロが入ってきたりと物凄い展開ですよね。こういったゴッタ煮的な感覚のある楽曲もあるのか!と驚きました。

「エレキ・ギターを何にも繋げず、自分にしか聴こえない声で歌う――そうやって出来たAメロを元に作り上げました。つねづね歌は歌いながら作るのが良いと感じていますが、あまり機会を得ないので、『lumiere』でも貴重なAメロだと思います。特にピアソラ(アストラ・ピアソラ、アルゼンチンの著名な作曲家/バンドネオン奏者)への信頼があり、それだけにモノマネしたくなるんです。聴き込んでいる人たちからは、何かを勘付かれるのではないでしょうか。この曲はきっと箸休めのような役割を担うだろうという予感が作曲の初期段階からあったので、気に入っているものを散りばめた結果、タンゴやフュージョンの要素が垣間見えています。音色の点ではデジタル・シンセや、〈MSGS〉という僕がWindows98以来の付き合いがあるチープな音源も使いました」

【参考音源】アストラ・ピアソラの楽曲集

 

――北園さんが書く歌詞には、素朴で少ない言葉のなかにさまざまな感情がこもっているような、とても品の良い温かさを感じていて、なかでもこの“リフロック”からはそれが伝わってきます。ご自身の優しい歌声も奏功していると思いますが、歌詞を書く際に意識していることはありますか?

「特徴を避けるように、よく使われる言葉や言い回しを用いて歌詞の背景に誰もいない印象を生みたいと思っています。個人の主張はなく、誰かが通りすぎる場所のような。曲が言葉の断片を持って生まれてくることが多く、それを元に作詞しています。いつも連想ゲームをしている気分ですね。この曲の歌詞はヴォーカル・レコーディングの当日のスタジオ入り時間前に、湯呑みからワインを飲みながら書いたのを思い出します」

――まさに歌詞のままの状況で書かれていたんですね! とても親近感が湧きます(笑)。そしてラストのビッグバンド曲“ミッドナイトブルー”は、前作に続いて参加しているマイカ・ルブテさんとデュエットされていますが、これは……。

「アルバムを制作するにあたって、特にアレンジの際には各曲の役割分担を考えるのですが、その曲がアルバムのなかで欠かせない骨組みとなるか、替えの利く装飾品か、そして他の収録曲に対してどんな個性を持っているか、ということを考えて、“ミッドナイトブルー”は今回のアルバムらしさを引き立てるためにデュエット曲にしようと思い立ちました。マイカ・ルブテさんの声質には、繊細ながら逞しい印象を持っています。前作収録曲“Vitamin”で、マイカ・ルブテさんには曲に欲していたキャラクターを与えてもらったことが大きく、今回もこちらの希望を叶えてもらえた思いです」

――ビッグバンドのアレンジは北園さんが得意とするところだと思いますが、参加した五十嵐誠さん率いるイガバンBBとの作業はいかがでしたか?

「楽器の奏法とレコーディングの手法を交えたサウンド作りの技術から、さまざまな効果が導き出され、曲に活かされています。得るものの多いレコーディングでした」

――先ほども「各曲の役割分担」ということをおっしゃっていましたが、前作と同様に、楽器や音色のチョイスを含めてどの曲も他のナンバーにはない特徴を持っているのが聴き応えに繋がっていると感じます。

「(自分の楽曲における)楽器の組み合わせに関して思うのは、音楽で一般的にダサイものとそうじゃないものというのは雰囲気的に感じ取っていますが、それを踏まえると自分では悪趣味だと思っている部分があって。やはり他の音楽からは聴き出せないこともあり、その思いが強まっています。たまに他者の作品から共感を覚えると採り入れようと工夫しますし、そうやって取り返しのつかない一歩を踏み込んでいたりしていて。〈原則を探る〉というのが音楽的な取り組みの理想で、直接的で安易な方法をいつか越えたいとつねづね思っています」

――その〈原則〉というのは具体的にどういうことですか?

「オリジナルな作品が音や無音に音楽的な価値を与えている事柄が原則です。音楽の諸要素(メロディー、ハーモニー、リズム)を根本から作り上げるためのヒントと考えています」

――なるほど……。ドラムスの坂田学さんなど前作に続いて参加されている方々、また今回新しく招いているアーティストもいらっしゃいますが、そういった参加陣との作業でこれまでと変えたことはありましたか?

「参加アーティストの方とのスタジオ作業の後に、自宅で自分のパートの録音を行っています。特に、すでにスタジオで録音された音素材の持つ起伏に沿って演奏するということを強く意識しました」

――前作と今回の『lumiere』を世に出すことで、北園さんのデビュー作が完結したと言えるのかなと思うのですが、この2作の制作を通じて今後のヴィジョンなどは見えてきましたか?

「(制作時に)思ったよりも困難が多いので、いつも辞めないように気をつけています。でも音楽が日課になって、作曲や編曲を行うことに疑問を持たなくなりつつあるので、それがある意味では気楽になっていて。今後もいままでの延長だと思って、いずれ創作的な気分で音楽に向き合えればいいなと思っています。近い将来の3作ほどが持つ構想のぼんやりとした片鱗があるので、それが楽しみになっていますね」

――ぜひこの調子で、辞めずに音楽を作り続けてくださいね! ではその近い将来の作品に向けて挑戦したいことはありますか?

「自分で演奏するパートには手加減を加えることが多いので、いま書き進めている作品ではそういうリミッターを外す試み、つまり参加ミュージシャンを増やすことでそれを可能にしようと計画しています」

――それは最初のほうでおっしゃっていたことに通じますね。ご自身が描いている理想の音を実現できる人と一緒に作業をしていくと。では最後に、個人的には北園さんのライヴをフル・バンドのセットで観てみたい!という希望がとてもあるのですが、いまご予定はありますか?

「向こう5年はステージに立たないつもりでいます。フロントマンを10人くらいにして、誰が本人かわからない、というライヴを考えたことはあります」

 

《編集部からのお知らせ》
なんと、北園みなみ氏の連載がMikikiでスタートすることになりました! どういった内容になるかは……現在オフィシャルサイトに掲載されている『lumiere』のセルフ・ライナーノーツがヒントです! 連載初回は近日公開予定!!