気鋭のシンガー・ソングライター、北園みなみが自身のお気に入りナンバーを採譜し、その〈ツボ〉を紹介する連載! 久々の更新となる第4回も、本人直筆の楽譜と共にその楽曲の聴きどころをわかりやすく解説してもらいます。たとえ楽譜が読めなくても(編集部担当も読めません)、曲を聴きつつ彼の解説を読めば、楽曲がいかに緻密な構造をしているか、なぜそのような聴き心地になるのか……といった〈ツボ〉をより理解でき、いっそう楽しめると思いますよ! そして今回は、昨年末にリリースされた北園の最新作『Never Let Me Go』より“ひさんなクリスマス”を解説!

★北園みなみ『Never Let Me Go』インタヴューはこちら

 

北園みなみ Never Let Me Go P.S.C.(2015)

 今回は去年の12月にリリースされた“ひさんなクリスマス”のイントロ部分を紹介します。

全体像はこんな風になっています。

 

主旋律はオーボエとフルート、またトーンを絞ったセミ・アコースティック・ギターが演奏しています。この組み合わせはいささか音勢に欠くので、木管群とブラスとの均衡を図るために強弱の調整をする必要がありました。

ブラス群は静かに流れこむように現れます。

 

主旋律がフォルテで演奏されるのに対し、ホーン・セクションはメゾ・ピアノやピアノで演奏されます。こうして音質や音量の差をならしています。

5小節目で主旋律はトロンボーンに引き継がれ、バックグラウンドにはサキソフォンの縁取りを持つピアノの左手の和音、PPGシンセとユニゾンのピアノの右手が現れます。

このバックグラウンドは、サキソフォンとPPGシンセをピアノが補うイメージです。2本のサキソフォンでは当該場面のコード(Bbm7とF7alt.)を完璧には構成できませんし、可能ならトロンボーンに内声を与えますが、主旋律を担当しています。また、トランペットは音域的に力不足でしょう。というわけで、録音物でかつポップスの音量バランスであることを見越して、ピアノと融合させることで良しとしました。結果はまぁまぁでした。やはりピアノは減衰音の楽器ですから、ロングトーンの場面で管楽器と融合させるには無理がありました。しかし両者の含む空間の質や量を極力近づけると、わずかに効果が上がると見られます。

ちなみに、ハモンド・オルガンおよびトーン・ホイール系のオルガン・サウンドとブラスはよく融合します。ドローバーの下3本をひっぱった設定のハモンドと、ハーマン・ミュートのトランペットとの組み合わせもなかなか良い感じです。タワー・オブ・パワーを参考例に確認しましょう。

タワー・オブ・パワーの75年作『Urban Renewal』収録曲“Come Back, Baby”

 

 

柔らかなハモンドは、ミュートの装着によって金属的な部分が強調されたトランペットをまろやかにし、やや内声の厚みに欠くサキソフォンのヴォイシングを補って響きを充実させています。このように工夫次第でブラスを人数以上に聴かせることができるのです。

 

PROFILE:北園みなみ


 

 

90年生まれ、長野・松本在住のシンガー・ソングライター。2012年夏にSoundCloud上で発表した音源をきっかけに注目を集め、2014年にミニ・アルバム『promenade』でCDデビュー。Negiccoの2015年作『Rice & Snow』や花澤香菜の同年作『Blue Avenue』をはじめ、他アーティストの作品へアレンジャーやマニピュレーターなどさまざまな形で参加し、活動の幅を広げる。2015年7月に2枚目のミニ・アルバム『lumiere』を、さらに12月にはウィンター・ソング集『Never Let Me Go』(P.S.C.)を発表。そして、3月29日にリリースされるNegiccoのニュー・シングル“矛盾、はじめました。”のカップリング曲“楽園の余韻”の編曲を担当しています。

北園みなみの2015年のミニ・アルバム『Never Let Me Go』ダイジェスト映像

 

Negiccoのニュー・シングル“矛盾、はじめました。”のカップリング曲“楽園の余韻”