昨年はSerphの4作目『el esperanka』と、そこにゲスト・ヴォーカルとして参加したNozomiとのユニット=N-qiaのファースト・アルバム『Fringe Popcical』を発表。そして、今年1月には初のワンマン・ライヴを開催と、2009年のCDデビュー以来、絶え間ない音楽活動を続けているトラックメイカーが、Reliq名義では2年半ぶりとなる新作『Metatropics』を完成させた。そのテーマは、〈気候変動の激化していく世界における、新たなトロピカル・ミュージック〉。さらには、「自然の猛威にさらされながらもハイテクの溢れるいまの日本のサントラ」「SF化する現実のための曲集」「Serphが信仰ある音楽だとすると、Reliqは無信心な音楽。理想郷と現実。ファンタジーと実写。喜びではなく陶酔」ともコメントしている。

Reliq Metatropics noble(2014)

 『el esperanka』リリース時のインタヴューでは「自分の生活圏で見ている景色も(音に)反映されてますね。東京の景色」という発言もあったが、眼前の情景をファンタジー化して理想郷を築くのがSerphの性質だとすれば、目に映る画を写実的に音へ転化する存在がReliq。ひいては、彼の暮らす現在の東京そのものを音像化した作品がこの『Metatropics』なのだろう。

 生活音のサンプルも交えた細かな音の断片から成るコラージュ・ポップであり、目まぐるしく場面転換を繰り返す超絶プログレッシヴな曲展開を持つという、(良い意味で)偏執的な構築美は両名義で共通しているが、後者の特徴は、とりわけ〈ビートが立っている〉という点。本作も、カッチリとキックの打たれた楽曲が比較的に多い。アタックの強いボトムの向こう側で官能的な声ネタが漂う、ReliqとインディーR&Bとの邂逅と言えそうなナンバー“girlee”、降り注いでは地面で跳ね返る雨粒の煌めきと躍動感を転写したようなファンタスティック・テクノ“rainyray”、トイピアノやヴァイオリン風の音色が担うメロディーラインに教授ライクなオリエンタリズムを感じさせる“sentimen”、ジャズを媒介にジュークトラップジャングルを凄まじいテンションで繋いでみせる“willo”など、時流とベーシックを巧みに織り込んだ全14曲は、どれも熱心な音楽研究家でもある彼ならではの閃きに満ちたビートが提示されている。

 都市と自然、有機と無機、社会と個人、そして、多様な人種や文化──それらすべてを内包する〈東京〉。テーマにある〈気候〉も含め、東京を取り巻く自然現象、内に在る生命や社会生活が宿すリズムをポップ・ミュージックに仕立てた作品、それが『Metatropics』なのだ。

 

▼関連作品

左から、Reliqの2011年作『Minority Report』、Serphの2013年作『el esperanka』(共にnoble)、N-qiaの2013年作『Fringe Popcical』(Virgin Babylon)

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