日本を代表する都市型の音楽フェスティヴァル〈SUMMER SONIC〉が、去る8月15日(土)と16日(日)の2日間、千葉・QVCマリンフィールドおよび幕張メッセと、大阪・舞洲サマーソニック大阪特設会場で同時開催――されました!  

ご好評いただいた短期集中連載【サマソニをMikikiしよう2015】の最終回は、Mikiki編集部の上岡・加藤・小熊の3人による東京会場2日間の現地レポート鼎談を(いまさら)お届けします。ディアンジェロファレルをはじめ、改めて見どころ満載だった2日間。インディー・マナーで幕張の夜を彩った〈HOSTESS CLUB ALL-NIGHTER〉も素晴らしかったし、ナイスなフードとも出会えました(その話は記事の一番最後に!)。3人ともマイペースに楽しんだがゆえに、若干アウトローな切り口になっている箇所もあるかもしれませんが、そこのところはご容赦を。この記事が読者のみなさんにとって、夏の思い出を振り返るきっかけになれば幸いです。

★〈SUMMER SONIC 2015〉タイムテーブルはこちら

★第1回〈クリエイティブマン清水直樹社長インタヴュー編〉はこちら
★第2回〈ヘッドライナー&注目アクト編〉はこちら
★第3回〈MARINE STAGE編〉はこちら
★第4回〈MOUNTAIN STAGE編〉はこちら
★第5回〈HOSTESS CLUB ALL-NIGHTER編〉はこちら
★第6回〈SONICMANIA編〉はこちら
★第7回〈RAINBOW STAGE編〉はこちら
★第8回〈BEACH~GARDEN~PARK~ISLAND STAGE編はこちら
★Mikikiの〈SUMMER SONIC〉関連記事の一覧はこちら
 



8月15日(土)
BABYMETALにクラウド・ルー、格好良いスーツのおじさんたちなど! どのステージもハイライト連発

加藤「どうでしたか? みんな2日間とも行ったんですか?」

上岡「僕は結局、初日だけでした」

小熊「一応2日間行きました」

加藤「私も2日間行ったけど、だいぶユルい感じで……1日4組ぐらい……」

小熊「マジすか。2組ぐらいしか観てない」

上岡「自分はあちこちウロウロしながらつまみ食いしていた感じですけど、フルで観たのは〈GARDEN STAGE〉のクラウド・ルーと、初日の〈BEACH STAGE〉でやっていた〈Billboard JAPAN PARTY〉の3組(タキシードザップオリジナル・ジェイムズ・ブラウン・バンドの計4組)」

小熊「僕はクラウド・ルーをその前日に恵比寿LIQUIDROOMでやっていた〈TAIWANDERFUL〉で観たんですよ。〈サマソニ〉ではどうでした?」

上岡「スタートしたタイミングではそこまで人が集まっていなかったんですが、どんどん集まってきて最終的にはだいぶイイ感じに盛り上がってましたね。台湾から来た人なのか、同郷人であろう人たちも集まっていたのでアットホームな雰囲気だったし、かつパフォーマンスもめっちゃ良くて」

【参考動画】クラウド・ルーの2013年作『Slow Soul』収録曲“Don't Call Me When Sleeping”

 

小熊「ライヴ上手いですよね。キャッチーだし」

加藤「バンド編成でやってたんですか?」

小熊「バンド編成です。カジヒデキ星野源を足して2で割ったみたいなキャッチーさ」

上岡「バックにTOKIEさんを思わせるベースの女性がいたり」

小熊「本国では1万人クラスのアリーナが埋まるらしいですよ。でもあれは人気出るだろうな~」

上岡「おっきな会場を沸かせられそうな感じですよね」

小熊「加藤さんは何から観はじめたんですか?」

加藤「初日はBABYMETALから。でも上岡さんと同じく〈BEACH STAGE〉のラスト3組を見届けるのがその日のミッションだったから、移動時間的に全部は観られなくて。昨年も同じ〈MOUNTAIN STAGE〉で彼女たちを観たんだけど、この1年で海外のフェスを含め大きいステージをバンバンやってるからか、すごく逞しさが増していた気がする。SUちゃんのヴォーカルもすごく強いし、ダンスを含めてパフォーマンスの成熟感というか、とにかく全体的に〈強い〉感じがしたんだよね……ま、ちょっとしか観てないんだけど(笑)。個人的には大好きな〈リンリンリン♪〉(“ド・キ・ド・キ☆モーニング”)を最初のほうで演ってくれたので多少は満たされました」

【参考動画】BABYMETALの2014年作『BABYMETAL』収録曲“ド・キ・ド・キ☆モーニング”

 

上岡「自分も“ド・キ・ド・キ☆モーニング”が聴けたのはうれしかったっす。海外のフェスとかでも経験積んでるからでしょうけど、SU-METALの歌はもちろん、目線のやり方とかも含めてパフォーマンスがいちいち完璧で、さすがカワイイのに〈強いな〉って感じでした。最高ですよねー」

加藤「その後は完全にスーツのおじさんたちしか観てないので、カワイイ子も観ておいて良かった(笑)」

上岡「同じく僕もBABYMETALを観てからタキシードに行ったのですが、泣く泣くベビメタを諦めてでも観た甲斐があった。初日のベスト・アクトですね」

タキシード
(c)SUMMER SONIC All Rights Reserved.

 

加藤「やっぱりバンド・セットでライヴするのが日本では初だったので、観なきゃ!っていうのはまずありましたよね。自分たちの曲はもちろんですけど、メイヤー(・ホーソーン)シックにめっちゃ影響受けて~みたいな話をした後にナイル・ロジャースと会った時の会話を軽く披露しつつシック“I Want Your Love”のカヴァーを演って、それがめちゃめちゃカッコ良かった! あとはスカイの“Here’s To You”も演っていたりとか、ちゃんと自分たちのルーツを紹介していたのが良かったな~と思って」

【参考動画】タキシードの2015年作『Tuxedo』収録曲“Do It”

 

上岡「あの暑いなか本当にタキシードを着ててスーツで、最終的にはジャケットの背中にまで汗が染み出してましたよね。その後のザップやJBバンドに比べるとバンドの人数が少ないけど、そのぶん隙間を生かしたファンク・サウンドって感じでツボでした。その後のアクトだったザップのステージをタキシードが袖からずっと観てた」

ザップ
(c)SUMMER SONIC All Rights Reserved.

 

加藤「ステージ中も〈ザップのスーパー・ファンで、アルバム作りにも少なからず影響を受けた〉といったことを言ってましたよね。ザップは今回初めてライヴを観たんだけど、これまでに動画で観ていた通りのパーティー・バンドのショウって感じだった。エンターテイメント性が凄すぎてちょっと笑えるぐらい。オープニングの登場の仕方とかも〈キター!〉っていう感動が」

【参考動画】ザップの93年のライヴ映像
オープニングはこんな感じ!

 

上岡「着替え何回すんねんっていうのもありましたね。構成は(日本の)ザ・ドリフターズとかそういうのに近いのかも」

加藤「電飾付いたスーツ着て出てきたりとかね。メンバーがみんなロジャーのズラを被って出てきたり。ほんと、ドリフとかクレージーキャッツを思い出す感じです」

上岡「スーパーマンとかバットマンとか、アメコミのヒーローとかに変身のコスプレしたりとかね」

小熊「めっちゃおもしろそうですね。そういう感じだったのか~」

加藤「でもそういうおもしろいおじさん、というだけじゃなくて、演奏もあたりまえですが間違いないんですよ。もう代表曲を連発って感じで、ザップ初期の名曲群はもちろん、ロジャーのナンバーもありつつで、個人的には結構泣ける内容でした。“I Wanna Be Your Man”での歌い上げなんかには図らずもグッときてしまったんですけど、その後になぜかサム・スミスのアレをやりはじめて観客とシンガロングしたりして、結構節操ない感じなのもまた良かったなと(笑)」

【参考音源】ロジャーの87年作『Unlimited!』収録曲“I Want To Be Your Man”

 

上岡「演奏もバッチリできて、踊れてバック転もできて、みたいな。何もかもできないといけないんでしょうか。この日観たアクトはすべてエンターテイメント性に優れていましたけど、なかでもザップはぶっちぎりでしたね」

加藤「そういえばタキシードのラストはロジャー曲のオマージュ的な“Do It”でしたけど、特にそれを意識するような言動や演奏ではなかったですね。まあラストにこの曲を持ってきたことに意味があるっちゃあるかもですが」

【参考音源】ロジャーの81年作『The Many Facets Of Roger』収録曲“I Want To Be Your Man”

 

小熊「その後のジェイムズ・ブラウン・バンドは夜のロケーションとも合ってましたよね。グルーヴィーだし安定感もバッチリの演奏で、これをモノホンのビーチで観られるなんて贅沢すぎますよ……。カップルが手を繋ぎながら飛び跳ねたり、砂浜に並んで寝そべってたりしていて。こういう人生もあるんだなって思いました」

加藤「後ろはそんな感じだったんだ……。JBにビーチ感を感じたことはこれまでなかったけど、夜になって風も涼しくなってきていたからだいぶ快適な環境でしたね。ダニー・レイが来られなくなったのは、ちょっと残念でしたけど、冒頭で登場したマーサ・ハイのヴォーカルの破壊力も味わえたし、ザップ同様に代表曲の連発っぷりはディープなファンじゃなくても楽しめる内容だったと思います。個人的には“Try Me”がめっちゃ沁みました」

上岡「あそこはハイライトでしたよね!」

【参考動画】ジェイムズ・ブラウンの63年作『Prisoner Of Love』収録曲“Try Me”

 

加藤「最後の最後にJBのマントを歌い手がいないセンターのマイクスタンドにかけるっていうドラマティックな演出があって。ダニー・レイがいたらどういう演出だったのかなと思いましたけど、その時だけはそこにJBがいるようなムードになって……ドラマティックでした」

小熊「僕はみなさんがタキシードを観てる間に〈GARDEN STAGE〉でドー(THE DØ)を。今年のサマソニは、実はとにかくドーが気になってたんですよ。期待通りヤバかった」

加藤「どんな感じ?」

小熊「フランスのバンドで、向こうのグラミー賞にあたる〈ヴィクトワール・デュ・ラ・ムジーク〉の年間最優秀ロック・アルバム賞に輝いているんです。赤いツナギを着た美人のお姉さん(オリヴィア・メリラティ)が、フランスらしく情熱的で品が良い声で歌いながら、拳法とかジークンドーみたいなエキセントリックなアクションも披露していて」

ザ・ドー
(c)SUMMER SONIC All Rights Reserved.

 

加藤「それだけ聞くと前衛っぽいけど(笑)」

小熊「そうそう。キャッチーでポップなんだけど、かなり尖ったエレポップをやってるんですよね。まさか、こんなバンドが登場するなんて誰も思ってなかっただろうって感じで、ステージの前にドンドン人が増えていって、気がついたらすごく賑わってましたね。たぶん、幕張メッセのステージに出演していた英米のバンドとかよりも、オルタナティヴ感は遥かに強いんじゃないかな」

【参考動画】ドーの2015年作『Shake Shook Shaken』収録曲“Despair Hangover & Ecstacy” ライヴ映像

 

加藤「へぇ~。〈GARDEN STAGE〉のイメージないけどおもしろそう!」

小熊「ガーデン感まったくなかったですよ(笑)。斉藤和義とかバスティアン・ベイカーとはあきらかに違う世界の人たちっていうか。僕としては来日してくれてありがとうって感じです。それこそ、深夜の〈HOSTESS CLUB ALL-NIGHTER〉がお目当てだったような人にこそ観てほしかったな」

加藤「確かに、そちら方面でウケそうだね」

小熊「これを最前列で観てたら早くも燃え尽きたので、その後は〈MARINE STAGE〉のスタンド席に座ってアリアナ・グランデを観ました。とにかく観客がエモかったな。ステージとフロアが交互に映し出されるんですけど、若いファンとか泣いてるんですよね。でも確かに、そうさせるだけのオーラはスタンド席からも感じました。バンドも大所帯で、ダンサーにラッパーもいて。編成もゴージャスだけど、何よりアリアナのヴォーカルに華がありました。声量もあるし、アクションやMCもキュートで。あと、アーティストをフィーチャーした曲が多いから、本人が歌ってないパートとかどうするんだろうと思ってたら、バックのスクリーンにニッキー・ミナージュとかマック・ミラーとかが次々と映し出されて」

加藤「そういう戦法になるよね。G-DRAGONのソロコンでもそんな感じだった(笑)」

小熊「〈その手があったか!〉っていう。お客さんも入ってたなー」

【参考動画】アリアナ・グランデの2013年作『Yours, Truly』収録曲“The Way” ライヴ映像

 

加藤「可愛い女の子がいっぱいいたでしょ」

小熊「そうそう! ヤバイくらい女の子のお客さんが可愛いんですよね」

加藤「今年はその印象が強かった。シャツの下にビキニ着ててショートパンツでおなか出してる感じの若くて可愛い女の子がいっぱいいたよね。タキシードのために〈BEACH STAGE〉に向かっていた時、前のアクトだったMINMIが終わって、それを観てた人がゾロゾロ移動してたんだけど、あきらかに〈これからアリアナ!〉みたいなノリの人がわんさか出てきて」

小熊「そういうことか~。今年はとにかく若いお客さんが目立ちましたよね」

上岡「アリアナを観に来たっていう感じの女の子集団をいっぱい見ました」

加藤「やっぱり若くて可愛い女の子が来る現場はいいですよね――なんかオッサンみたいな発言ですけど、そういうところには必然的に男性も来ますから、必要なんです」

アリアナ・グランデ
(c)SUMMER SONIC All Rights Reserved.

 

小熊「アリアナのステージの話に戻りますけど、“Break Free”っていうゼッド製の曲でめちゃめちゃ盛り上がって、スタンド席に座ってたお客さんも総立ちでジャンプしてました。そこから“Problem”と続いたラストの流れに鳥肌が立ちましたね」

上岡「2日目に同じ〈MARINE STAGE〉で演ったゼッドも、めちゃめちゃお客さんが入ってたらしいですね」

小熊「そうらしいですね。僕は観れなかったけど、そのステージでも“Break Free”はさぞかし盛り上がったことでしょう」

【参考動画】アリアナ・グランデの2014年作『My Everything』収録曲“Break Free”

 

加藤「結構、海外のアーティストって自分が関わったものとはいえ、他人の曲も堂々と演っちゃったりするのがおもしろいですよね。お客さんはそれを求めているから全然アリだと思うんですけど」

小熊「最近はみんな遠慮ないですよね。ファレルもそうだったらしいですけど」

加藤「そうなの。ファレルの話は後でしますけど、〈ヘイ・ヘイ・ヘイ〉(ロビン・シック“Blurred Lines”)も演ってたし、ダフト・パンクより先に日本で“Get Lucky”したわけですよ――まあある意味〈ご本人登場〉であることは間違いないし、もちろん聴きたいですから、それに応えてくれたという自然な流れっていうんですかね……」

小熊「それでアリアナの後、初日のトリはほぼ全部観たんですよね」

加藤「えぇぇぇぇー!!――まあ不可能ではないか」

小熊「これといってお目当てもなかったし、逆に言えばみんな等しく気になってたから、〈MARINE STAGE〉のケミカル・ブラザーズからスタートして、〈BEACH STAGE〉のジェイムズ・ブラウン・バンドで踊った後にメッセへ行ってマリリン・マンソンがなんかしてるのをチラ見して、最後にマニック・ストリート・プリーチャーズで昇天。全部つまみ食いですよ。現代っ子っぽい!」

加藤「現代っ子ってそういうものなの?」

小熊「今回のケミカルはセットが凄いと聞いてたので、どんな感じなんだろうと思ってたら、スタートから〈Here We Go!〉(“Hey Boy Hey Girl”)とか言ってて(笑)」

加藤「出た、Here We Go(笑)」

【参考動画】ケミカル・ブラザーズの99年作『Surrender』収録曲“Hey Boy Hey Girl” ライヴ映像

 

上岡「ロボットがいたんでしょ?」

小熊「そうそう。確かに趣向は凝らしてたけど、音は当時のまんますぎて。新作(『Born In The Echoes』)はイマっぽいサウンドも採り入れていて結構良かったから、ライヴもいまのモードで行くのかなと思ったらそれで。サプライズというより、逆に安心感が(笑)」

加藤「まあフェスっていうのもあるから、鉄板セットで行くよね」

小熊「個人的にはマニックスが良かった!  選ばれしロック・ファンが集ってた感じで」

加藤「『Holy Bible』(94年)を全曲演るっていうやつですか」

小熊「時間的にも観れたのは最後のほうだけで、熱心なファンには及びませんけど。ヒリヒリしたアルバムの世界観はそのままで、コアな人たちが泣きながら喜ぶみたいな光景が目の前に広がっていました」

 【参考動画】マニック・ストリート・プリーチャーズの2015年のライヴ映像

 



〈HOSTESS CLUB ALL-NIGHTER〉
トム・ヨークやFFSらが独自の存在感を示した、インディー・ミュージック夜の祭典

小熊「〈HOSTESS CLUB ALL-NIGHTER〉はほとんど全部観ました!」

加藤「マジか! それは素晴らしい」

小熊「マニックスが終わって、〈ALL-NIGHTER〉が始まるまでの1時間半くらいが超ヒマだったんで、友達と地べたに座りながらビールを呑むっていう。その裏で稲川淳二の怪談をやってたんで、それはさぞかしおもしろかったんだろうな」

加藤「は? 稲川さん、聞かなかったの?」

小熊「僕、怖がりなんですよ……。でもせっかくの機会なのに、もったいないことしましたね。レポート要員としては失格」

加藤「何やってんだホントに。仕事しろ!」

小熊「まあでも朝までいろいろ観ましたから。ヴァンパイア・ウィークエンドのベーシストとしてお馴染みのバイオはDJセットで。その前日に取材もしてきたんですけど、今度出る新作(『The Names』)では自分でダンディなヴォーカルも取っていて、これがまた良いアルバムなんですよ。詳しくは後日公開するインタヴュー記事をチェックしてほしいんですけど、この夜は品のいいハウスとか、カリブーとかのトラックをかけてて。その合間に新作の曲をプレイしてました。自分の曲がお客さんにどう受け入れられるか反応を見たかったんでしょうね、見事に盛り上がってましたよ。本当はもう一方のステージでディアハンターが演るはずだったんだけど直前で出演キャンセルになっちゃったのもあって、すごいパンパンのお客さんがバイオを観るっていう」

【参考動画】9月18日にリリースされるバイオの新アルバム『The Names』収録曲“Sister Of Pearl”

 

加藤「バイオ的にはラッキーだったね(笑)。ちなみにトム・ヨークトム・ヨーク・トゥモローズ・モダン・ボクシーズ)はどういう感じだったの?」

小熊「トムはギターを弾いたり弾かなかったりで、あとナイジェル(・ゴッドリッジ)ともう一人いて。会場でも特設ブースでCDが売り出されていたアルバム(『Tomorrow's Modern Boxes』)の曲と、あとちょっと他の曲もやってたのかな、レディオヘッドのファンでも面喰らいそうな感じの、最近の暗いビート・ミュージック路線というか。歌の感じからすると、トム本人は即興演奏みたいことやりたいのかなって。どんどんラフになっていってますよね」

トム・ヨーク・トゥモローズ・モダン・ボクシーズ
(c)SUMMER SONIC All Rights Reserved.

 

加藤「ここ数年はそういう印象がありますよね。アトムス・フォー・ピースはがっつりバンド!って感じだったけど、〈フジロック〉に出演した時は最後のほうに一人で即興っぽいこと(だった気が……)やってたし」

【参考動画】トム・ヨークとナイジェル・ゴッドリッチの2013年のライヴ映像

 

小熊「巧い人とやりたいとか、一筆書きみたいに歌うとか、そういう方向になってる感じで。何はともあれカッコ良かったですね。ストイックなステージだったと思いました。その裏のスピリチュアライズドは、ノイジーな瞬間も多いけど、ドリーミーでいい塩梅に枯れてフワフワした感じの演奏が気持ち良くて。ディアハンターのキャンセルで急遽90分のロング・セットになったんですけど、もう極楽ですよね。少しウィルコっぽいとも思ったかな」

加藤「スピリチュアライズドは最近ちゃんとチェックしてなかったから気になるな。いい塩梅の枯れ具合というのも素敵」

F.F.S
(c)SUMMER SONIC All Rights Reserved.

 

小熊「あとF.F.Sフランツ・フェルディナンド&スパークス)は、僕の周囲もSNSの評判も良かったけど、これはびっくりするぐらい素晴らしかった。FFSのアルバムに“Collaborations Don't Work”なんて曲もあって、この日も演奏してたけど、そんな冗談よしてよ(笑)ってくらい相性はバッチリ。スパークスの曲をやるとフランツの尖った演奏がすごいそれにハマって、スパークスは逆にフランツの演奏にもスパークスの弟(ラッセル・メイル)のほうのヴォーカルがちゃんとマッチして、お互いの長所をいかに上手くはめるかみたいなのを結構考え込んでやってた」

【参考音源】FFSの2015年作『FFS』収録曲“Collaborations Don't Work”

 

加藤「セットリストはFFSのオリジナルがメイン?」

小熊「いや。それに加えて、お互いのヒット曲をガンガンやるっていうこれも結構節操ない感じで。ただ前半はスパークスの曲があんまり盛り上がらなかったんですよ。やっぱりほとんどフランツのファンだったみたいで、彼らの曲は案の定ドカンと盛り上がる」

加藤「……まあしょうがないよね(笑)。でもここで知ればいいって話だし」

小熊「でも、だんだんそのテンションも噛み合っていくというか、曲を重ねていくうちに高まってる感じがあって。あと、お互いの〈お約束〉もうまい具合にミックスして披露してくれたんですよね。フランツはライヴの終盤に4人でドラムをドカドカ叩く、スパークスは最近ライヴ中にほとんど動かないキーボードのお兄ちゃん(ロン・メイル)がいきなり謎のダンスをやるっていう定番ネタがあるんですけど、それを同時にやってたのはファン冥利に尽きるというか(笑)。ほかにも、フランツのメンバーがお兄ちゃんのキーボードの弾き方を真似たりしていて、微笑ましかったです。どちらも日本贔屓なバンドでもあるし、このコラボでまたライヴやってほしいな」

加藤「へぇ~楽しそう! 新作のインタヴューでも良い雰囲気が窺えたから、そういう空気感がステージにも出てるんでしょうね」

【参考動画】FFSの2015年のライヴ映像

 

小熊「ここのフロアがあまりにも混んでたので、マシュー・ハーバートは残念ながら観に行けなかったんですけど、この日のDJセットも評判良かったからじっくり聴きたかったな。翌々日の単独公演がバンド・セットで、これがまた素晴らしかったんですよ~! ジョン・ホプキンスは前に〈TAICOCLUB〉で観たことあったんですけど、映像と音のマッチ感がとにかく気持ちいい。これを朝方に観られるのはすごい贅沢でした。解放感、透き通った感じです。最後のBO NINGENはやっぱりパワフルで、こっちは混沌とした朝、みたいな」

加藤「BO NINGENは今回の来日ライヴはこれだけだったから、ぜひ観たかったんだけど、体力の限界&気力もなくなってるだろうと断念。朝方のBO NINGENなんてパンチ力凄そうだよね。でもそのカオスの先に、ラストまで観るとすごく……成仏した気持ちになれるの、生きてるけど」

【参考動画】BO NINGENの2015年のライヴ映像

 

小熊「一通り終わってから実感しましたけど、今回の〈ALL-NIGHTER〉はクラブ・ミュージック側とロック・バンド側でステージが上手く分けられてたから、その時の気分で観たいのを観れる感じも良かったです。ステージ間もそんなに離れてないし」

加藤「オールナイトでもかなりお客さんは入っていて」

小熊「そうですね。トム・ヨークの時はスタート時には入場規制に近いレヴェルでした」

上岡「初日のヘッドライナーが終わった後、帰り際には〈ALL-NIGHTER〉目当てであろうお客さんといっぱいすれ違いましたよ」

小熊「これ目当ての人も多かったみたいですよね、僕の友達にもいたし。インディー・ロックのファン、〈Hostess Club〉のファンが待ち望んでいた雰囲気も感じられました」

加藤「いや~、でもよくやってくれたよ。稲川淳二の怪談を逃したことは水に流す。それに2日目もちゃんと行ったんだもんね」

小熊「流石に幕張にカムバックしたのはだいぶ後からですけどね~」