OKAMOTO’Sの通算6枚目のアルバム『OPERA』は、バンドが明確に新たな扉を開いた意欲作であり、2015年にリリースされる必然性を持ったアルバムである。ザ・フーの69年作『TOMMY』を元に、カギ/ケータイ/サイフをなくして〈現代版・三重苦〉に陥った主人公を描いたロック・オペラというコンセプト、くるり岸田繁と共作したシングル“Dance With Me”で培った〈言いたいことを言い切る〉リリックによって、作品としての間口の広さを確保したうえで、音楽的には一切の制約から解放されて独自の楽曲を追求。同時代のさまざまなジャンルのアーティストからの影響を直接的にも間接的にも消化し、他では聴いたことのない斬新なサウンド・デザインと、ロック・バンドとしてのプレイヤビリティーが高次元で融合した、真にオリジナルな一枚が完成したと言える。

そこで今回の取材では、これまで以上に露わになったメンバー4人それぞれの趣味を改めて訊くことで、『OPERA』の音楽的なおもしろさを掘り下げることを目的とした。〈初めて新譜がおもしろい〉と言うオカモトショウを筆頭に、未知なる音楽と出会い、みずから作り出すことに興奮しているいまのバンドの前向きな姿勢が、はっきりと伝わるはずだ。

OKAMOTO'S OPERA ARIOLA JAPAN(2015)

――今日(取材日)はもうアルバムのリリース2日前で、完成からはしばらく時間が経っただろうし、もう取材も結構されてると思うんですね。そういうなかで、アルバムについて後から発見したことがあれば、まず話してもらえないかと思うのですが。

オカモトショウ(ヴォーカル)「(他のインタヴューでは)〈ロックに縛られてない、好き勝手に音楽をやってるOKAMOTO’Sがようやく出たね〉といったことはよく言われました。〈こういうほうがいいと前から思ってたよ〉というような感じで言われると、作ってる側からしたら、〈何言ってんだ〉とも思ったり(笑)、でも純粋に嬉しかった。古いものを受け継いで、俺たちをきっかけに奥にあるものをディグってほしい想いは常に持っていますが、いままではわりと直訳で伝えていこうとしていたところを、今回はより翻訳して自分たちだけの言葉で伝えようとして、こういう作品になりました。それに対して〈これを待ってたよ〉という想いで言ってくれるのは、本当の意味で〈OKAMOTO’Sを待ってたよ〉と言ってくれているんだと思うので」

ハマ・オカモト(ベース)「バンドの理想像のひとつとして、〈全員わかる〉というのは結構大事な要素だと思っていて。ヴォーカルだけが目立つのではなくて、4人だったら4人で一個の集団で、各々がスター・プレイヤーだったり、きちんとキャラクターがある。そのなかの人間関係だったり、むしろ音楽から離れたところでより好きになったりすることもあるので、そういう部分もしっかりと伝えたかったんです。さっきショウが言ったような意見をくれた人は、何年にも渡ってインタヴューをしてくれていたり、仕事以外でも会うような人が多くて、つまりはただのバンドという解釈より、いち人間の集まりとしてのOKAMOTO’Sということがきちんと伝わりはじめている証拠でもあると思っています。そこが伝わっていないと、〈本当はこういうのが聴きたかった〉というところまで踏み込めないと思うので、その興味を持たせられたことは良かったと思いますし、そう言ってくれる人がいたのはすごく嬉しい」

――コウキくんはどうですか?

オカモトコウキ(ギター)「何人かの人に〈東京っぽいアルバムだね〉と言われたのは、確かにと思いました。〈東京にリアルに生まれ育った人たちが作った作品だ〉と。都会に住んでいながら、煌びやかな感じではなくて、むしろ〈何もないし〉みたいな、リアル・シティー・ポップかもしれないと思いました(笑)」

――(笑)。ミュージック・ビデオの舞台も渋谷ですもんね。

コウキ「そうですね。もともと渋谷などの風景を思い浮かべていましたが、直接そう明言しているわけではないので、聴いた人が〈東京っぽい〉と言ってくれたのは結構発見で」

オカモトレイジ(ドラムス)「いわゆるシティー・ポップというのは、シティーに全然合わないよね」

ショウ「シティーに憧れてる人の歌というのが正しいかもしれない」

レイジ「実際はキラキラじゃなくてチカチカだもんね(笑)」

――レイジくんはどんな発見がありましたか?

レイジ「完成してからインタヴューを受けるなかで気付いたのは、去年リリースしたコラボ盤(『VXV』)RIP SLYMEと作った曲(“Wanna?”)を収録したんですが、今年の4月に開催したワンマン・ライヴでトラックだけ流して、4人でRIP SLYMEのパートをラップしたんです。それが意外と好評で、俺らはいわゆるど真ん中のロック以外でもきちんと評価してもらえるんだという認識が生まれた。その経験を経て、なるべくしてこういう作品になったんだなと思いました。これまではアルバムを作る時にライヴでどう再現するかを意識してましたけど、今回は〈打ち込みだったらライヴでドラム叩かなくても良くね?〉というマインドにもなれたし、その発見は大きかったですね」

【参考動画】OKAMOTO'Sの2014年のコラボ盤『VXV』収録曲“Wanna?”

 

――では、ここからは4人それぞれの最近の趣味・趣向を深掘りしつつ、具体的な曲の話ができればと思います。まず今回いちばん明確な変化として、レイジくんのヒップホップ趣味がこれまで以上に前に出て、トラックも作っているし、プログラミングが多用されてもいますよね。前から一人でトラックは作っていたそうですね?

レイジ「何年も前に友達からMPCを譲り受けて、ずっと趣味で作っていたんです。でも、それはどこにも出してないし、誰かに提供することもなく、たまにメンバーに聴かせるぐらいで、俺の趣味として完結していました」

――“楽しくやれるハズさ”はどうやって完成したんですか?

レイジ「最初はリズムだけで完結してたんですけど、イメージとしては2030年の音楽を作ろうと思ってました。とにかくノリにくいBPMで、刻みのリズムもわかりにくいポリリズム、ビートは単純にドンタンドンタンにして、刻みのリズムの変化で楽曲に展開を付けていこうと一人で考えていて。それで気に入ったものが出来たからショウに聴かせたら、〈温めていたアイデアにマッチするかもしれないから、データを送って〉と言われたので送ったんです。そうしたらガット・ギターとベースと歌が入ったものがショウから返ってきました」

――リスナーとしては最近どんなものに興味を持ってるんですか?

レイジOG・マコKEITH APEのBPMがすごく遅い(トラックの)感じ、でもライヴ映像を観るとロック・バンドよりロック・バンド然とした、ハードコアな盛り上がりをしていて、ああいうパフォーマンスの変化を追ったうえで、じゃあさらに15年後にはどうなっているんだろうと思って“楽しくやれるハズさ”のトラックを作りました。最近はロウをどれだけ出して盛り上げるか、という風潮になっているけど、逆にベース音はいらないんじゃないかなど、もともとはそういう意識で作っていました」

【参考動画】OG・マコの2014年のシングル“U Guessed It”

 

――直接的な引用ではなくて、あくまで感覚として採り入れたと。

レイジ「むしろ、何にもハマらないものを作ろうという意識だったし、ヒップホップとよく言われるんですけど、それはああいう歌唱が乗っているからであって、どちらかというとエレクトロかなと。ムスリムガーゼも好きで、ミニマルなトラックに中東系のループが入るのがカッコイイと思うので、俺のトラックにもタブラ・マシーンの音をスピード上げて入れたりしています」

【参考動画】ムスリムガーゼの93年作『Hamas Arc』収録曲“Zindabad”

 

――“うまくやれ”にはハマくんのファンクに対するいまの考え方が色濃く出ているように思います。ここ数年、海外でソウルやファンクのリヴァイヴァルが起こって、その波がいま日本にも明確に入ってきてる。そのなかで違う提示をしていることは明確で。

ハマ「ここ3年ぐらい、僕は〈“Get Lucky”以降〉と呼んでいますが、あの流れの何がすごいかって、あの手の音楽がまた大衆音楽としてシーンに戻ってきたことがすごいと思っていて。リイシュー作品は何10年も出続けていますし、好きな人は年がら年中聴いていて、いつでも踊れて最高なんですけど、それを僕みたいな奴やおっさんが〈ジミー・キャスター・バンチ再発!〉などと盛り上がるのではなく、ビルボード・チャート1位を獲ったり、コンビニで流れていたりするようなムードが新鮮だなと思うんです。ただ、それをいいなと思う半面、雰囲気咀嚼の人が増える気がしてワナワナしていたら、僕個人の感触で言うと実際そうなってきてると思っていて、だから思いっ切り土着的なほうに行きたかった。オシャレなコードを使って、メロディーの途中でペッて1回プルを入れるような演奏ではなく、フライドチキンを食べた手でベースを弾いているような感じ」

【参考動画】ダフト・パンクの2013年作『Random Access Memories』収録曲“Get Lucky”

 

――粘っこいやつですね(笑)。

ハマ「あとは単純にこの曲は詞先で、小言を言われているような内容だったので、直感的にファンクがいいと思いました。なおかつ、他の曲はデモがカッチリしていたので、久しぶりにセッションで作りたいと思って。かといってただのセッション曲にしてしまうのはもったいないと思っていたら、ちょうどそのタイミングでジョージ・クリントンとの対談があった。それで改めて(ジョージ・クリントンの作品を)聴き直して、やっぱり16分くらい延々とやってるのがカッコイイなと思ったので、こういう曲調になりました。〈超黒いっすね〉という(笑)」

【参考動画】ファンカデリックの79年作『Uncle Jam Wants You』収録曲“(Not Just) Knee Deep”

 

――いまの日本で流行っているのはやっぱりアーバンな、白人的なものが多いですよね。なおかつ、ファンクやソウルはある程度スキルが必要な部分もあるから、良くも悪くも雰囲気咀嚼が増えてるっていうのは確かだと思う。

ハマ「こんなふうにシーンが広がるなんて、僕が学生だったらホント万々歳で、喜んでいろいろなアルバムを聴いていたと思うんです。そんなバンドはいなかったので。だからすごくいいことだと思いつつ、70年代ニュー・ソウルまでのファンクが忘れられてしまうのではないかという――どういう立場で語ってるんだよと思いますけど(笑)、こういううだつの上がらないものもあるんだよということを、このタイミングで、僕らがやったらおもしろいんじゃなかなと。単純に、僕らには似合わないですしね(笑)」

――でも、“うまくやれ”の前の“TOMMY?”はそれこそダフト・パンクが基調になってて、この並びがいいですよね。

ハマ「“TOMMY?”はモロに意識してますね。だから、このあたりはダンサブルということを意識して、ベース・ラインもすごく練りました。同年代でこういう音楽をやってるバンドはいないと思うんですよ。上の世代にはSCOOBIE DOがいるし、ZAZEN BOYSも……ハイブリッド・ファンクですけど(笑)。なので、いまこの形で提示できたということは、僕のなかでは結構ドラマがありました」