ヒップホップの名曲を生演奏で再構築していくスタイルで知られる3ピース・インスト・バンドのRF。彼らが、今年10周年を迎える音楽選盤プロジェクト〈Japanese Soul(ニッポンの魂)〉とコラボレートした企画アルバム、その名も『Japanese Soul』を完成させた。〈日本人の、日本人による、日本人のためのソウル・ミュージックを新旧問わず紹介する〉というコンセプトを持つ〈Japanese Soul〉の主宰・カネコヒデシが中心となってセレクトした日本のシティー・ポップな名曲群のカヴァー集となる本作は、RFが積み重ねてきた経験を活かしつつ、新たな挑戦にも満ちた好盤となっている。このアルバムについて、制作が行われた東京・青山のRed Bull Studios Tokyoにて、RFの成川正憲(ギター)とFarah(プロデューサー)、そしてカネコヒデシに話を訊いた。
【選曲について】
カネコヒデシ「高中正義とかCHICKENSHACK、フィッシュマンズ、サザンオールスターズ、岡村靖幸、鈴木茂のナンバーなんかも候補には入っていたんですよ。でも『Japanese Soul』はシリーズ化の構想もあるので、初回ということもあり、なるべく知られているような曲を中心に、〈Japanese Soul〉で紹介している定番のなかから8曲を選出しました」
成川正憲「選んでもらった曲は、知ってるものと知らなかったものが半々くらい。有名な曲については〈どうすんだろ?〉って思ったり、カヴァーに対してのプレッシャーはありましたね」
Farah「しかもインストでね(笑)」
カネコ「アレンジに関してはかなり難しい曲が多いのかな?と思いましたが、彼らの〈アレンジ力〉を信じて、丸投げしました(笑)。RFっぽさも出してもらいつつ、バンド自体が次のステップに進めるようなものができたらいいかな、と」
Farah「ここまでいわゆる〈和モノ〉にフォーカスしたことはいままでなかったので、僕たち的にもおもしろかったですね」
成川「元の曲をどういうふうに再構築してRF流にするのか?という意味で、やりがいがあったし、ある意味RFの集大成と言える作品になったと思います」
Farah「RFは本来3ピースでやらないような曲をたくさんやってきて、一発録りのグルーヴを大切にしながら前作『New birth』(2014)からオーヴァー・ダビングも使うようになって。そうやって培ってきたものを活かせたと思う」
成川「そう、今回も3人による一発撮りのグルーヴがコアにあって、編集のおもしろさもある」
カネコ「どの曲も新解釈のアレンジなのですが、全体的にすんなり聴けるアルバムになったんじゃないかと思いますね」
【全曲解説】
1. “Down Town”(シュガー・ベイブ “ダウン・タウン”)
カネコ「イヴェントの〈Japanese Soulナイト〉でも毎回のように流れる、ある意味〈Japanese Soul〉のテーマ曲です」
成川「はっきりとしたロック・チューンで、収録曲のなかでも突出して原曲とは違うアレンジになっていると思います。いつも原曲に沿って演奏してみてからアレンジを変えていくんですけど、一番変えやすいのがリズムで。今回はドラムスの鈴木郁くんがニューオーリンズっぽいビートで叩いて、それいいじゃんって。RFで新しいことをやってることが伝わるし、インパクトって意味では一番かも。使ってるのはガット・ギターだけど、かなり歪ませてるし」
Farah「ほんとに有名な曲でカヴァーもたくさんあるんで、どうアレンジするかはかなり考えていろいろなリズムを試しました」
成川「このトラックはオーヴァー・ダビングをしてなくて。ギターとしては、原曲の素敵なコード感をメロディーを弾きながらどう出すか?っていうところが大変でした。特にサビのあたりはコード弾きのカッティングがカッコ良くて、それと同時にメロディーも弾かないといけなかったんですけど最初は弾けなかった。相当練習した結果、レコーディングでは1テイク目で〈両方できた!〉って(笑)」
2. “Kusuri wo Takusan”(大貫妙子 “くすりをたくさん”)
Farah「この曲は僕からのリクエスト。昔からクラブとかでもよくかかってて、あのポップなメロディーと、〈危険すぎるな〉って思う歌詞が同居しているところに魅力を感じてました。インストでカヴァーするにあたって構成にはちょっと苦しんだんですけど、イントロの印象的なフレーズをたくさん使いたいなと思って、RFでよくやっている生音サンプリング手法でループさせて。インストだからこそのアレンジで曲の持ってるポップ感を全面に出せたんじゃないかな」
成川「この曲もコード進行が素敵で、メロディーも含めてすごくセンスがいい。僕もこの曲に惚れたし、もともとあった爽やかさとか、コード・ワークの気持ち良さが抽出できたと思います。最初はボサノヴァ・アレンジだったけど、Farahが〈絶対違う〉って対立して(笑)」
Farah「RFがカヴァーしたことによって、“都会”だけじゃなく“くすりをたくさん”の原曲のヤバさに触れてもらえたら嬉しいですね。原曲は改めて聴くとビートにヒップホップ的な要素も感じます。ずっと“くすりをたくさん”を聴いてきた僕らが〈いまこう感じてます〉っていうのを上手く表現できた仕上がりになっていると思います」
成川「途中でメロを弾くのがベースになるところとか、RFの定番パターンも出てくるし、僕らがやってきたことが活かせている曲ですね」
3. “Alone In The Dark”(アン・ルイス “アローン・イン・ザ・ダーク”)
Farah「この曲もいろんなリズム・パターンを試して。ラテン・アレンジでノリがいいし、原曲のディスコの要素もちょっと聴こえてくる。ほかの曲に比べると構成とかもスムーズに決まって、パーカッション系のオーヴァー・ダブはしてるけど、一発録りのグルーヴで攻めるRFらしい仕上がりになったなと」
成川「リズム・パターンが似てる曲がほかにあるんで、アレンジはバラバラになるよう気を付けました。これも演奏してて楽しい曲ですね」
Farah「50年代の東京キューバン・ボーイズあたりから脈々と受け継がれてる、〈日本人によるいい意味でのインチキ・ラテン感〉も引き継げてるかな。日本人って、ラテンをやるとハマるんですよね」
4. “merry-GO-round”(山下達郎 “メリー・ゴー・ラウンド”)
成川「さっきの“Alone In The Dark”と被らないよう、思い切りダビーな方向に振り切りました。毎回、演奏しながらアレンジを探っていくけど、アレンジの点では自分的に一番かも」
Farah「レゲエのDJにもかけてもらえるくらいの粘着感が出せたと思ってます」
成川「こう言っちゃなんですけど、ドラムスとベースに比べるとギターは原曲の情報を集約するのがホントに大変で(笑)。今回も曲のどの部分が主役かを探って、メロディーよりインパクトのあるギター・フレーズがあるから、それをループ的に使いました」
5. “CANDY”(具島直子 “CANDY”)
成川「僕は原曲のAORっぽいアレンジが大好きでハマってました。これをギター・トリオでどうしてやろうかと」
Farah「メロディーを抽出して、ダンスの要素も入れて原曲を崩す、みたいな。ミックスのバランスをあえて極端にしてもらいました。アルバムのなかでもかなり変わってるトラックで、それこそフリージャズとかジャム系が好きな人は楽しいんじゃないかな」
成川「僕は仕上がった音源に関してかなりジャズ寄りな印象を持ってて、途中でマイルス(・デイヴィス)が吹いてもいいんじゃない、みたいな。ある意味RFが得意とする世界でもあるし」
Farah「後半のインプロヴィゼーションは、あの日あのテイクでしかできないものですよね」
成川「ちょっとマニアックな話で、この曲は基本的には1コードなんですけど、途中でベースの板さん(板谷直樹)がベース・ラインをどんどん変えていくんですよ。そこで生まれるちょっと不安定な感じと、戻っていく感覚が〈いいとこ突くな〉って感じです」
6. “One More Night”(井田リエ&42NDストリート “ワン・モア・ナイト”)
Farah「ラテン・アレンジの曲が多くなってたんで、ほかのパターンを模索してR&B的なアレンジで臨んでみました。原曲ほどダンスダンスしてない、引き締まったアレンジになったと思います」
成川「ほかの曲に比べると原曲に近いよね。でもプレイヤーとしては……ダサくならないようにするのに苦労しました(笑)。ベースもチョッパーでヘタするとダサくなるけど、板さん流石だなと」
Farah「郁さんのドラムもタイトだし、リズム隊のカッコ良さがギュッと入ってる曲ですね」
成川「原曲のキーボードをギターに置き換えてるんですけど、実は転調がすごく多くて。転調させるためにコードを入れないといけないっていう、演奏面で難儀な部分もありました」
7. “Tsukiyo no Banniwa”(南佳孝 “月夜の晩には”)
Farah「南佳孝さんはラヴァーズとかAORとかシャレオツな印象があったんですけど、この曲はかなり大所帯のバンドで演奏してるし、イケイケなラテンぽいアレンジだったんで最初はどうすればいいかな……ってかなり困ってました(笑)。そのなかで、テンポを落としてハワイアンぽくしてみたらしっくりきて」
成川「南さんって意外にギター1本でライヴをやったりするし、ハワイアンを含めて湘南の方のムーヴメントを頭に置いてギターを弾いてみたら、みんながいいって言ってくれて。南国の海の香りがするやわらかいアレンジというか。ほかの曲とも全然被らないチルアウトな仕上がりになりましたね」
8. “Hokouki-gumo”(荒井由実 “ひこうき雲”)
Farah「“ダウン・タウン”と同じくらいかそれ以上に有名な曲だし、かなり原曲を尊重しました。いくつかパターンを試した結果、スタンダードなジャズ・アレンジがしっくりきて。この曲をラストにするっていうのもカネコさんから聞いてたし、クロージング感も出せたかなと」
成川「“ひこうき雲”はすごく思い入れのある曲なんでビックリしました。僕は〈禁じられた遊び〉からギターに入って、中学のときにレッド・ツェッペリンとかディープ・パープルとかロックの洗礼を受けたんですけど、本当はユーミンが好きで。荒井由実時代の2枚のアルバムはいまだに聴ける作品だし。RFで“ひこうき雲”をやるなんてありえない事態だったんですよ。こんなにメロディアスな曲ってRFでやったことなかったし」
Farah「普段のRFだともっとビートが出るアレンジになると思うんですけど、メロディーがしっかりしてるぶんシンプルに仕上げました。新たな発見も多くて楽しかったです」
成川「ギタリストが聴いても納得してもらえるものになったんじゃないかな。実は1か所だけメロディーを間違えたんだけど(笑)、みんなが〈わかんないよ〉って言ってくれて」
Farah「エンジニアのRyuさん(Ryu Kawashima)も、メロディーが際立つような音を意識して上手く処理してくれて。RFのオリジナルでもこういうジャズ・バラードってほとんどないけど、いい感じに仕上がりましたね」
成川「きっとみんな大人になったんですよ(笑)」
【Red Bull Studios Tokyoでの作業について】
Farah「専属エンジニアのRyuさんがいるし、スタジオの立地もいいし、快適さという意味ではいままでに使ったスタジオで一番だったかも。今回のアルバムのシティー・ポップ寄りの方向性や全体の仕上がりにも向いていたと思います。スタジオって音作りを含めて〈エンジニアさんありき〉なところもあるけど、録音だけじゃなくて編集の段階でもしっかり応えてくれたし。当然ながら機材のトラブルも一切なくてレコーディングが止まることもなかったから、安心感がありました。」
成川「Ryuさんとの相性もすごく良かったと思います。レコーディングが進むうちにだんだんRFの性格がわかってきて、いい感じでケツを叩いてくれた(笑)」
Farah「僕たちが迷走しそうになったときに、〈さっきのテイクがいいんじゃないですか?〉とか、客観的な耳で判断した意見をくれたりね」
成川「スタジオのエンジニアって野球のキャッチャーみたいに〈全部を見る〉必要があるけど、Ryuさんはその能力が高い。音の鳴り具合もブースの数もちょうどよかったし、すごく気持ち良くやらせてもらいました」
★RF『Japanese Soul』リリースとラジオ番組「RADIO & DIRECT」の10周年を記念したイヴェントを開催!
〈Japanese Soul 10th Anniversary 「RADIO & DIRECT」 - RF『Japanese Soul』Release〉
日時/会場:2015年10月23日(金) タワーレコード渋谷店 B1F〈CUTUP STUDIO〉
開場・開演/終演(予定):18:30/22:00
出演:RF/野宮真貴/Japanese Soul Crew
内容:ライヴ(RF)&トークライヴ(RF/野宮真貴)& DJ set
入場料:2,000円(税込/別途1ドリンク必要)
詳細:http://d.hatena.ne.jp/timelesssss/20151002/p2