Maltine主宰・tomad氏の連載が久々の更新! 今回は、昨年リリースされたファースト・アルバム『Intro Bonito』が〈タワレコメン〉に選ばれるなど話題を集めたUKの3人組、ケロ・ケロ・ボニト(以下、KKB)を迎えた対談をお届けます。彼らが10月後半に開催した初のジャパン・ツアーの合間に取材を行い、グループ結成の経緯から、ユニークなサウンドのバックグラウンドにあるもの、日本とイギリスの血を引くフロント・ガール=ペリー・セーラ・緑(とてつもなくカワイイ♡)の英語&日本語をミックスしたリリックや独特のラップ・スタイルなどに斬り込んできました!
特定の地域のものではない〈インターナショナル・ミュージック〉
――tomadさんがケロ・ケロ・ボニトを知ったのは……?
tomad「僕は『Intro Bonito』(2014年)がリリースされた時にTwitterのタイムラインで知って、聴いてみてすごく衝撃を受けました。これが日本人のアーティストだったらそこまで驚きはしなかったけれど、日本語と英語で歌っているアーティストがイギリスから唐突にインターネット上に出てきたことにかなり驚いて。それで自分もTwitterとかで広めて。そこから実際に会ったのは僕が今年3月にロンドンで開催したイヴェント※に出演してもらった時でした。SeihoとPARKGOLF、bo enなどが他に出演者としていましたね」
※〈POKO Vol.1 with Maltine Records〉、同イヴェントについてのtomad氏によるレポートはこちら
――KKBの皆さんはtomadさん、もしくはMaltineのことは以前から知っていたんですか?
ガス・ロバン「もちろん。Maltineはオンライン・ミュージックのコミュニティーではかなり評判が高いからね。友達のbo enは僕と同じブロムリー(ロンドン南東部)出身なんだけど、彼がMaltineから作品を出した(2013年作『pale machine』)こともあって、そこで繋がっていたし。それでロンドンでのイヴェントのためにtomadが来英して、ハングアウトしたんだ。すごく楽しかったよ」
ジェイミー・ブルド「僕はMaltineが現代的で前衛的なレーベルだと思っていたね。音楽を無料で配信していたし、真っ先に目に留まったよ」
ペリー・セーラ・緑「私はbo enが『pale machine』をリリースした時にMaltineさんを知って、それ以来のファンです。だからtomadさんがロンドンに来た時はすごく嬉しかった」
tomad「ありがとう(笑)」
――フフフ、良かったですね(笑)。では、KKBの皆さんには初めてお話を伺うので、私からグループについていくつか質問をさせてもらいたいと思います。まず、サラさんは以前日本にお住まいだったんですよね?
セーラ「はい。13歳まで日本に住んでいました。お母さんが日本人で、お父さんがイギリス人なんですが、生まれが名古屋で、6歳の時に家族で北海道の小樽に引っ越して、それで中2の夏に家族でイギリスへ――それ以来ずっとイギリスです」
――その一連の流れは“Small Town”(『Intro Bonito』収録)のリリックにもなっていますよね!
セーラ「ああ、そうですそうです。名古屋、小樽、ケニルワース、ロンドン。これまでに住んでいたところ全部」
――そうかなと思っていました。それで、KKBの結成のいきさつは、ガスさんとジェイミーさんがヴォーカリストを探していたところにセーラさんが加入された……というのをどこかの記事で読んだのですが。
ガス「ジェイミーと僕は学生時代から長い間一緒に音楽をやってきていたんだ。そこで〈Gumtree〉などのウェブ上の掲示板にメンバー募集を出したんだけど、日本人とイギリス人のハーフの友人に、〈MixB〉という在英日本人向けのサイトに掲示することを勧められて、彼に募集用の文言を日本語に訳してもらって出したんだ。そうしたらクレイジーな応募が結構来てね、〈ピチカート・ファイヴを知ってるから、私こそバンドに適任だ〉なんていう人とか。でも〈ピチカート・ファイヴは好きだけど、ちょっと違うよな〉と思ってるところにセーラから応募があったんだ」
――そういった在英日本人向けのサイトで募集をかけたということは、日本語を話せる人、日本のカルチャーに理解のある人を求めていたんですか?
ガス「日本語を話す人、ということを探していたわけではないんだ。まずは一緒にやっていける人を探していた。〈MixB〉に出ているもののほとんどはアパートの賃貸情報や語学教室、あるいはコミュニティー内の集まりなどの広告だから、僕らのように〈バンド・メンバー募集〉みたいな内容のものは稀だったし、目立つと思って。おそらく(〈MixB〉を勧めてくれた友人は)通常の〈Gumtree〉ユーザーとは違う層の人が来てくれるとわかっていたんじゃないかな」
――なるほど。ではクレイジーな応募などいろいろあったなかで、サラさんを選んだ理由は?
ガス「実際に一緒にセッションしてみたら、すごくスムースに行ったから。しかも自分で衣装を作れるし、アートを勉強してきているし、ラップに対してもオープンだし、いろんなスタイルで歌うこともできる。それで彼女を中心にプロジェクトを築くことになったんだ。結果として日本語を歌えるシンガーが入ったというわけ」
――セーラさんはKKBとして活動するようになる前から音楽活動はしていたんですか?
セーラ「ラップを作ったり歌を歌ったりするのは、KKBが初めてです。音楽活動としては、日本の中学校に通っていた時にブラスバンドでサックスを吹いていたのが一番近い。でも、美大に通って絵を描いたり、ヴィジュアル面でクリエイティヴなことをやっていたので、音楽ではなくても〈表現〉という意味でルーツは同じというか」
――ご自身の表現が、音楽をやることでさらに拡がったというイメージですかね。
セーラ「はい。ラップもそれまでやったことはなかったけど、クリエイティヴであることに変わりはないので」
――なるほど。では、セーラさんが2人の出したメンバー募集に応募した理由は?
セーラ「〈MixB〉は、ガスが言っていたようにバイト募集がメインだったんですけど、たまに珍しい募集が出ているのでで、一応毎日チェックしていたんです。確かその頃は大学卒業のちょっと前だったので、何かを探していたというのはあったと思います。それで、シンガー募集の広告を見て、応募してみようと」
ガス「ラッキーなことに見つかったんだね」
セーラ「ほんと、運命だね」
――ガスさんとジェイミーさんは、どういう音楽をやろうと思ってKKBを結成したんですか?
ガス「ラップ、ヒップホップには特に興味があったね。アメリカとかイギリスとか、特定の地域のものではなく、世界中のね」
ジェイミー「インターナショナル・ポップスもね」
ガス「そうだね。ポップスも間違いなく、幅広い意味合いで。〈インターナショナル・ミュージック〉かな」
tomad「ケロ・ケロ・ボニトというグループ名のアイデアはどこから来たものなの?」
ガス「日本語の擬音語/擬声語のリストを見ていたんだ。擬音語/擬声語というのは、場所によって変わるところがおもしろくて、例えば(英語では)〈Moo〉という牛の鳴き声が、フランスや日本ではまた異なる。西洋では、カエルは〈Ribbit〉と鳴くけれど、それが日本では〈ケロ〉で、まったく違う音。それなのに同じ動物の鳴き声ということになっている。言語的に考えてもおもしろい要素だと思うんだけど、とにかくその言葉を目にしたらすぐに〈ケロ・ケロ・ボニト〉というのが浮かんだんだ。それ以上説明のしようがないね、本能的に感じたものだから」
――確かに、同じ動物なのに、言語によって鳴き声が全然違うのはおもしろいですよね!
ガス「さらに追加すると、この名前のいいところは、実は洒落(文字遊び)もあるんだ。〈bonito〉という言葉はポルトガル語で〈美しい〉という意味だし、英語で〈kero〉という綴りは、音的にはポルトガル語の〈quero quero〉というブラジルの鳥と同じなんだ。だから一見何語なのかわからない名前なんだけど、それこそがケロ・ケロ・ボニトの核心なんだよね」
――実は深い意味があったんですね。ちなみに、KKBのサウンドは具体的にどういった音楽からの影響が強いのでしょうか?
ガス「(スケールの)小さい音楽を大きくできるような人たち、例えばDJ Codomoとか。VJで、また素晴らしいプロデューサーでもあるんだけど、ミニマルでエクスペリメンタルなビート、ポップ・ミュージックを作っている。あとは戸高一生※。〈どうぶつの森〉など任天堂のゲームのサントラを多く手掛けている。彼とそのチームによる〈どうぶつの森〉のサントラで使われた要素はすごく限られていて、カシオ・サウンド(シンセサイザー)と少しのクリップ・ドラム(電子ドラム)音ぐらいしか使っていないんだ。それなのに、〈どうぶつの森〉の世界観を表現するにあたっては、しっかり一貫性を保っている。例えば伝統的な沖縄の音楽からロック、シンセ・ポップまで、どんな音楽でも彼の手にかかればちゃんと〈どうぶつの森〉の音楽に聴こえるんだ。そんなことができるなんてすごいと思うよ」
※〈どうぶつの森〉シリーズ以外にも〈カエルの為に鐘は鳴る〉〈ヨッシーストーリー〉などを手掛けているコンポーザー
tomad「シカゴ・ハウスとかダンス・ミュージックはKKBのトラックメイクにも影響している?」
ガス「KKBにはそこそこダンスの要素が入っているよね。“Kero Kero Bonito”という曲では、かなりシカゴ・ハウスのタッチが入っているよ。いや、〈Jack, jack, jack, jack your body〉というリリックなんて、もろにシカゴ・ハウスを引き合いに出したフレーズだからね」
tomad「僕もシカゴ・ハウスが好きだから、そういったリリックにも親近感を得たよ。あとビートのチープな感じがすごくおもしろいよね。その上にラップが乗っていて、ヒップ・ハウスみたい」
ガス「ああいう往年のシカゴの音楽は、時代を超えて根本的な部分を貫いているという意味で非常に重要だと思っているんだ。良いダンス・ミュージックのトラックがやるべきことをすべて網羅している。チップ・E“Time To Jack”(85年)なんて、ダンス・レコードはこうあってほしいというところをすべてカヴァーしている。素晴らしく簡潔にまとまっているんだけど、それは音楽において価値のある特質だと思う」
――曲作りはガスさんが主導しているんですか?
ガス「僕たち(ガス&ジェイミー)が共同でやってるんだ」
――セーラさんはソングライティングの面で関わることはあるんですか?
セーラ「例えば、私が曲のテーマを提示して、それを元にビートを作ってもらって私が歌詞を書いたり、3人で話している時に〈これ、曲になるね〉というトピックが浮かんだり。 “Flamingo”という曲は、3人で〈なんでフラミンゴってピンクなの?〉という話になって、Wikipediaで調べたら〈エビを食べるから〉みたいなことが書いてあったので〈これ、曲になるじゃん〉って作ったんです。あとは、ガスとジェイミーがあるテーマに沿ってビートを作って、〈この上でラップして〉という場合もあるし。曲によってさまざまですね」