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高評価を受けた『X』から1年、多数の客演経たクリス・ブラウンを最高傑作『Royalty』へ導いたものとは……

【特集:R&Bの品格】Pt.6

mature R&B cells
【特集】R&Bの品格
ブームやトレンドの趨勢はともかく、注目すべき作品はどんどんリリース中!  この季節がよく似合う、成熟したアーバン・ミュージックの真髄を、あなたに

 ということで……bounce2015年12月号の続きです。というか前号の時点で紹介予定だったものが延期してしまったため、ページごと今号に延期した格好になっています。ただ、そのおかげで、間に登場した大粒の作品たちも併載することができました。自他共に認めるキングからキャリア20年の歌姫、シーンの看板を張るエースたち、それぞれの傑作(ホントに!)が揃ったこの冬のシーンを楽しみましょう! *bounce編集部

★Pt.1 アヴァントのコラムとディスクガイド(1)はこちら
★Pt.2 ブラクストンズのコラムとディスクガイド(2)はこちら
★Pt.3 ベイビーフェイスのコラムとディスクガイド(3)はこちら
★Pt.4 エリック・ベリンジャーのコラムはこちら
★Pt.5 アンジー・ストーンのコラムはこちら
★Pt.7 R・ケリーのコラムはこちら
★Pt.8 モニカのコラムはこちら

 


Chris Brown
この悪童は生まれ変わったのか? クリス・ブラウンを最高傑作『Royalty』へ導いたものとは……

 言い方が悪いかもしれないが、禍転じて福となす、とはこのことか。bounce2015年4月号でタイガとの合体作『Fan Of A Fan: The Album』を紹介したちょうどその頃、生後10か月の娘がいたことが発覚したクリス・ブラウン。その代償に当時の恋人とは破局してしまうが、父性に目覚めた彼はベイビーズ・マザーとの共同親権を裁判所に認めてもらうべく、放蕩よりも父親に相応しい生活を選ぶようになったのだ。結果的に9月には親権を獲得するのだが、もともと音楽についてはストイックな多作家だったクリスだけに、その新生活は創作活動によりいっそうの良い影響を及ぼしたのだろう。

 そうでなくても高評価を受けたアルバム『X』以降の彼は客演などの露出をさらに増やしていて、オマリオン“Post To Be”をはじめ、ジェイミー・フォックス“You Changed Me”やリタ・オラ“Body On Me”、そしてミーク・ミル&ニッキー・ミナージュのカップルを盛り上げる“All Eyes On You”などのヒットに貢献している。他にもブーシー・バッドアスミーゴスフロー・ライダーフレンチ・モンタナ……とヒップホップ方面での仕事は多く、なかでも“Hold You Down”の実績を残したDJキャレドの新作『I Changed A Lot』では実に3曲で歌唱。さらに年末の駆け込みリリース群においても、G・イージーリック・ロスオーガスト・アルシナらの作品に参加している。そんな賑わいのなか、前作からほぼ1年で自身のニュー・アルバムまで完成させたのだから恐るべき創作意欲じゃないか。しかも、これが控えめに言っても大傑作に仕上がっているのだ。

CHRIS BROWN Royalty RCA/ソニー(2015)

 最初に公開されたのはメロウでアトモスフェリックな“Liquor”。これを手掛けたアントニオ“トーン”スティスは、クリスらのカヴァー動画をYouTubeに発表していた無名の才能だ(現在はジャス・プリンスヤング・エンパイアに所属)。それに続いたのはクリスらしいポップ・チューン“Zero”で、これはカナダのマシュー・バーネットドレイクゲーム他)を起用してカクテル・ディスコにヒネリを加えたダンス・トラックに。そのように新しい才能をフックアップし、新しいサウンドを創造しようという志向が、愛娘の名を冠したニュー・アルバム『Royalty』の全編をフレッシュに輝かせている。盟友タイガケンドリック・ラマーR・ケリーら豪華な名の並んだ前作『X』とは対照的に大物ゲストはフューチャーのみ(しかもボーナス・トラックだ)という構成も、自身の歌とサウンドこそを最大のセールスポイントとする意識の表れかもしれない。

 その『X』はモダンなR&Bへの明確な回帰を示したアーバンな内容だったが、その路線は『Royalty』でも進化しながら深化。ヴァイナルズの手掛けた冒頭の“Back To Sleep”から、マーヴィン・ゲイ“Sexual Healing”~ミゲル“Adorn”の系統に連なるセンシュアルな808メロウに速攻KOだ。RCAと契約したテキサスの新人ラッパーだというソロ・ルッチを招いてシロップ系のビートに沈む“Wrist”、先述のトーンを再登用したピュアなソウル・スロウ“Make Love”、ポロウ&デンジャによるドリーミーなスロウ“Discover”、ブライソン・ティラーも共作者に名を連ねたブーミーなトラップ・ソウル“Proof”など、歌唱力で攻める楽曲もいつも以上に充実。一方、ミックステープが話題のブラック・タキシードを抜擢した“Anyway”では新しいノリのトラップを披露し、“No Filter”では80sブギーにひと手間加えるなど定番化したサウンドとの絶妙な距離感もいい。さらに、現行R&Bシーンに欠かせないB.A.M.の“Who's Gonna(NOBODY)”ではキース・スウェットを歌い込むなど、フリースタイル感覚でのクラシック引用も堂に入っている。総じて聴きどころは多く、オーセンティックな良さを進化型のスタイルに落とし込むセンスの良さはもはや文句の付けようもない。

 デビューからちょうど10年、ブレまくりの私生活とブレのないアーティスト活動を並行してきた彼は、まさに生まれ変わって自身の音楽により深くフォーカスするようになった。微笑ましいアートワークを見なくても『Royalty』に特別な価値があることは聴けばわかるはずだ。 *出嶌孝次

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