mature R&B cells
【特集】R&Bの品格
ブームやトレンドの趨勢はともかく、注目すべき作品は次々にリリース中! この季節がよく似合う、成熟したアーバン・ミュージックの真髄を、あなたに
★Pt.1 アヴァントのコラムとディスクガイド(1)はこちら
★Pt.2 ブラクストンズのコラムとディスクガイド(2)はこちら
★Pt.3 ベイビーフェイスのコラムとディスクガイド(3)はこちら
★Pt.4 エリック・ベリンジャーのコラムはこちら
Angie Stone
ソウルフルな輝きに溢れた、黒いダイアモンドの新作
いつまでもその名を出さなければ説明にならないような状況に若干のもどかしああを覚えつつ……かつてプライヴェートで一子を授かり、アーティストとしては息子か弟子ともいうべき関係にあったディアンジェロが苦しみ続けた15年は、それ以前から20年(!)ものキャリアがあったアンジー・ストーンにとっては、ソロ・アーティストとして大きな飛躍を刻んだ期間だったといえるだろう。アリスタから『Black Diamond』(99年)でソロ・デビューした後はクライヴ・デイヴィスが設立したJに移籍し、ゴールド・ヒットの快作を2枚残して2007年にはスタックスに移籍。ここでもアルバムを2枚リリースしている。ディアンジェロの初期設定に携わったことからニュー・クラシック・ソウル~ネオ・ソウルの範疇で語られることも多いものの、その本分はオーセンティックな魅力も理解した歌唱のストレートなソウル・フィーリングにある。もっとも、キャリアの発端が女性ラップ・トリオのシークエンス(79年にシュガー・ヒルからデビュー)だっただけに、ヒップホップ的なセンスや時流の採り入れ方も十分に弁えているのが彼女の強みではあるだろう。よく考えるとディスコ/ブギーの流行もヒップホップ・ソウルの勃興もリアルタイムで経験しているのだから、血眼でトレンドを見定める必要もなく、マイペースに何かをやるだけでも自然に時代とリンクするというわけだ。
シャナキーに移籍してこのたびリリースされた『Dream』は、サグアロ・ロードに残した『Rich Girl』から3年ぶりとなる通算7枚目のアルバム。今回作では以前『Stone Love』にも関与していたウォルター・ミルサップ3世(アリシア・キーズ、ブランディ、マインドレス・ビヘイヴァー他)がほぼ全曲をプロデュース(1曲のみヘヴィーウェイツの制作)し、元クラッチのキャンディス・ネルソンとバレワ・ムハマドら敏腕ソングライターたちも助力。もう誰と何をやっても平均点以上は期待できてしまうアンジーながら、(ほぼ)ひとつのチームとのアルバム作りというのは珍しく、それゆえの統一感とネタ使いの遊び心などに感じられるヴァラエティーが良い塩梅で一枚を形成しているように思える。“Magnet”やデイヴ・ホリスターとのデュエット“Begin Again”のような成熟したスロウを要所に置きながら、先行カット“2 Bad Habits”ではシスターの心を掴むメロウな懐深さを見せ、軽快なディスコもレトロ系も余裕で披露し……これはもう引き出しの多さと地力が違う。いつにも増して気楽に作ったような傑作だ。