COLUMN

R・ケリー、得意技を詰め込んだフルコース! 新しいベスト盤を手にしたような満腹必至の大作『The Buffet』

【特集:R&Bの品格】Pt.7

mature R&B cells
【特集】R&Bの品格
ブームやトレンドの趨勢はともかく、注目すべき作品はどんどんリリース中!  この季節がよく似合う、成熟したアーバン・ミュージックの真髄を、あなたに

 ということで……bounce2015年12月号の続きです。というか前号の時点で紹介予定だったものが延期してしまったため、ページごと今号に延期した格好になっています。ただ、そのおかげで、間に登場した大粒の作品たちも併載することができました。自他共に認めるキングからキャリア20年の歌姫、シーンの看板を張るエースたち、それぞれの傑作(ホントに!)が揃ったこの冬のシーンを楽しみましょう! *bounce編集部

★Pt.1 アヴァントのコラムとディスクガイド(1)はこちら
★Pt.2 ブラクストンズのコラムとディスクガイド(2)はこちら
★Pt.3 ベイビーフェイスのコラムとディスクガイド(3)はこちら
★Pt.4 エリック・ベリンジャーのコラムはこちら
★Pt.5 アンジー・ストーンのコラムはこちら
★Pt.6 クリス・ブラウンのコラムはこちら
★Pt.8 モニカのコラムはこちら

 


R.Kelly
多彩なサウンドとスタイルがよりどりみどりな新作『The Buffet』!

 1年前に長い眠りから覚めたヤツは〈救世主〉を名乗ったが、20年以上最前線で活躍するこの男が2年前に謳ったのは〈パンティー〉だった――そんな黒い性典とでも言うべき『Black Panties』(2013年)で改めて絶倫ぶりを見せつけたR・ケリーの次なるアルバムは『White Panties』というタイトルになると告知されていた。が、王冠かチャンピオン・ベルトを身に着けるしかないほどの極みに達してしまったR&B界のキングは、世代も好みも異なる多くのファンを抱え、こうなったらハイスペックな俺のすべてを見せてしまいたい……という心境になったのかもしれない。

R. KELLY The Buffet RCA/ソニー(2015)

 軸足をR&Bに置きながら古今東西(南北)の黒人音楽を咀嚼し、カントリー・アルバムの制作にも興味を示すなど、音楽的な引き出しの多さをアピールしてきたケリー。〈ハウス・アルバムを作る〉と発表した2014年には、その発言を裏付けるようなDJキャシディジェニファー・ハドソンとのディスコ・ブギーなコラボがあったし、クリス・ブラウンの『X』では〈愛の12作法〉を直々に伝授するようなセクソシストぶりを発揮、リック・ロスキッド・インクと顔合わせすればマライア・キャリーとも絡み、黒人差別を発端とするボルティモアの事件を受けて新曲を披露するなど、相変わらず全方位を向いていた。結局、公言していたようなアルバムは白紙撤回となったが、溢れ出るアイデアのままに録られた膨大な数の楽曲から、よりどりみどりのビュッフェ(食堂)の如くさまざまなタイプの曲を並べたのが、今回の新作『The Buffet』となる。

 ステッパーズな“Backyard Party”に続く先行曲として、地元シカゴの後輩にあたるジェレマイおよびリル・ウェインを招きMJコール曲を引用してトラップ調にした“Switch Up”が出た段階で多様な曲が並ぶことは予想できたが、内容は想像以上にヴァラエティー豊かだ。有名無名問わず気鋭クリエイターと共同制作を行い、シカゴを中心に新たなホームとなりつつあるアトランタなどで録音されたアルバムは、ジュルジュルと汁をすする音を立てた“The Poem”なる前口上からエロ炸裂。軽くオートチューン加工した声で歌う“Poetic Sex”や『12 Play』の頃を思わせる“Sex Time”など、中高生並みの直裁的な表現を用いながら臆面なく性欲をぶつけたスロウ・ジャムは、まるで耳で聴くアダルト・ビデオといった趣で、性行為の音をマーチング・バンドに喩えながら朗々と歌い上げるドクター・ルーク制作/ジューシーJ客演の“Marching Band”など、あらゆるものをセックスと結びつけるリリックはもはやお約束というか、世間のイメージに応えたファン・サーヴィスなのだろう。

 かようにベッドルームでの淫靡な行為を赤裸々に描く(そしてナイーヴでもある)ケリーは、前作でも試みたアンビエントR&Bとも相性が良い。D・マイルとの共同制作でタイ・ダラー・サインが絡む“Anything Goes”、故アリーヤの“Come Over”を用いてジェネイ・アイコがアリーヤ似の美声で応える“Let's Make Some Noise”、S1らとの共同制作で、久々に再会した実娘アリーレイエと対話する父子共演“Wanna Be There”は、因縁めいたゲストとの組み合わせの妙も含めて注目を集めるだろう。ノルウェーの奇才カシミア・キャットらの手を借りてティナーシェを招いた“Let's Be Real Now”で仄かに薫るユーロ・エレクトロ風味もいいアクセントだ。

 一方、中盤の“All My Fault”から“Backyard Party”にかけては『Happy People』路線のステッパーズがメインで、マーヴィン・ゲイ“Distant Lover”オマージュとでも言うべき“Get Out Of Hear With Me”などでは正統派ソウル・シンガーぶりを発揮。後半でもマイケル・ジャクソンを意識したメロウな“Keep Searchin”やシカゴの大先輩シル・ジョンソンを思わせるブルーズン・ソウル“Sufferin'”を披露し、マチュアなファンを喜ばせる。かと思えば、“I Just Want To Thank You”はナイジェリアの若手ウィズキッドを迎えたアフロ・ポップだし、“Barley Breathin'”はストレートなカントリー・ポップときた。衰え知らずの喉も曲に合わせて自由自在だ。いわゆるビッグ・バラードこそないものの、ケリーの得意技を詰め込んだフルコース。新しいベスト盤を手にしたような、満腹必至の大作だ。

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