11歳の時にデレク・アンド・ザ・ドミノス“Layla”のリフでギターに目覚めた――。この若きシンガー・ソングライターの経歴にそんなくだりを見つけると、時代錯誤と言わないまでも、少々驚かずにはいられない。聞けばそれ以前に触れていた音楽も古典ばかりで、ジェイムズ・ベイを包むタイムレスでオーセンティックな佇まいの出自がわかるというものだ。

 「3~4歳の頃から音楽が好きだったことをはっきり覚えているよ。父が大好きなブルース・スプリングスティーンとか、母が好きなモータウンの曲とかね。僕の家ではソウルとロックンロールのミックスがいつも流れていたんだ」。

 音楽に目覚めてからのジェイムズに迷いはなかった。家にあったギターを弾きはじめ、以来、それは自身にとって「何よりもインスパイアしてくれるもの」となり、日々ひたすら練習し、バンドのギタリストを務め、それでは飽き足らずにみずから歌うようになり、曲作りをスタート。ソロでのライヴを重ね、故郷のイングランド東部はヒッチンを離れて音楽学校でギターを学び、やがてロンドンへ活動の場を広げた彼。着々と評判を高め、動画サイトにアップしたライヴ映像を通じて大手レーベルとの契約を手にし、いまからちょうど1年前には有望新人に与えられるブリット・アワードの〈批評家賞〉にも選ばれている。

 「〈批評家賞〉の受賞は素晴らしいことだけど、僕はまだ出発点にいて、長いキャリアを持ちたいと思っているから、最初に賞を受けたことで多くを証明しなきゃって気がしている。まあ、そういうプレッシャーも結構気に入っているんだけどね。素晴らしいライヴをやったり、もっと素晴らしい曲を書く原動力になるから」。

JAMES BAY 『Chaos & The Calm』 Republic/ユニバーサル(2014)

 そして本国では昨年春に登場したファースト・アルバム『Chaos & The Calm』が、全英チャート初登場1位を記録し、プラチナ・セールスも達成済み。トム・ウェイツとのコラボで知られるジャクワイア・キングのプロデュースにより、ナッシュヴィルの名高いブラックバード・スタジオで録音したという経緯にも、オーセンティシティーへのこだわりが窺えよう。実際、本作にはフォークやソウル、ブルースなどルーツ音楽への愛情が満々。丁寧に形作られた楽曲は誠実さに溢れていて、どれも長く歌われたことがわかる〈着慣れた〉感を醸し、時間の経過や状況の変化が自分に、そして自分と他者の関係に及ぼす影響を検証する。フレッシュにして重厚、冷静な視線の裏に情熱を感じさせ、〈混沌と静けさ〉というタイトルが似つかわしい。

 「全曲を作り終えた時、アルバムを完璧に要約したタイトルにしたいと思ったんだ。重要な部分だからね。大袈裟にはしたくなかったけど、退屈なタイトルにもしたくなかった。すると突然、過去18か月間の記憶が蘇ってきてさ。誰との会話だったか……ある日、長い時間をかけて話をしたことがあったんだ。ツアーをするようになって、いっしょに時間を過ごしたい家族や友人から離れていくという話とか、恋愛のこと、作曲のこと、さまざまなことについて話したよ。そのすべてがアルバムの内容だった。その時、〈それって僕たちの経験のすべてについてくるカオスと静寂だよね。そういう人生の旅をしているんだと思う〉と言われ、〈カオスと静寂〉という言葉が心に残ったんだ。過去数年のクレイジーな毎日を要約するのに最適だと思ったのさ」。

 ご承知の通り、第58回のグラミー賞でも〈最優秀新人〉など3部門の候補に挙がっているジェイムズ。彼の人生はこれからさらにクレイジーになること必至だが、欲するのはごくシンプルなものだ。

 「僕自身が音楽を聴く時に望むのはただひとつ、〈心を動かされたい〉ということ。だから僕もリスナーの心を動かしたい。ハッピーになるか悲しくなるかは問題じゃなくて、ただ感動してほしい。音楽に必要なのはそれだけだと思っているから、そういう楽曲を作っていきたいんだ」。

 


ジェイムズ・ベイ
90年生まれ、UKはヒッチン出身のシンガー・ソングライター。中学時代に兄弟とバンドを結成し、16歳の時に初のソロ・パフォーマンスを行う。2008年からブライトンの大学で本格的にギターを学び、卒業後にロンドンへ移り住んで2013年にファーストEP『The Dark Of The Morning』をリリース。翌年に“Let It Go”でメジャー・デビューし、“Hold Back The River”のヒットを経て、2015年2月にはブリット・アワードにおいて〈批評家賞〉を受賞。同年3月に発表したファースト・アルバム『Chaos & The Calm』(Republic/ユニバーサル)で全英1位を記録し、〈グラストンベリー〉出演やグラミー賞での3部門ノミネートなども話題を集めるなか、その日本盤がリリースされた。