インタビュー

〈綿めぐみ〉とは何か―OBKRらTokyo Recordingsの面々と語った新EP『ブラインドマン』&〈アイドル〉としての彼女の役割

タワレコメンに迫りコメン【第2回】

 

 

タワーレコード・スタッフがブレイク前のアーティストをピックアップし、総力をあげてプッシュする企画=〈タワレコメン〉に選出された作品から、Mikikiが注目したアーティストをフィーチャーする不定期企画〈タワレコメンに迫りコメン〉。第2回は、2016年2月度の〈タワレコメン〉に選出された綿めぐみが登場です。水曜日のカンパネラKeishi Tanakaらの楽曲を手掛けた、いま注目の若きプロデューサー・チーム、Tokyo Recordingsの全面協力のもと、キュートなアヴァン・ポップを歌いこなす、インターネット世代の美少女シンガーにレッツ・迫りコメン!  *Mikiki編集部

綿めぐみ ブラインドマン TOWER RECORDS(2016)

 

香港生まれ、インターネット育ち、オタクな奴はだいたい友達……というわけでもなく、綿めぐみは人とコミュニケーションするのがちょっと苦手なアニメ好きの女の子だ。そして、平成生まれのクリエイター集団・Tokyo Recordings所属のアーティストでもある。シングル“マザー”、ファースト・アルバム『災難だわ』は、ミニマルなサウンドとキッチュな歌声の絶妙なアンバランスさが、ネット界隈で大きな評判を呼んだ。そして2016年2月2日、満を持してEP『ブラインドマン』をリリースする彼女。盲目の男〈ブラインドマン〉の物語を描いた本作は、意欲に満ちた勝負作となっている。今回、MikikiはTokyo Recordingsの本拠地であるスタジオに潜入。スタジオの名物愛猫・ハナちゃんも交えつつ、酒本信太OBKR小島裕規らTokyo Recordingsの面々と綿めぐみにインタヴューを行った。彼らがこのEPにかけた熱い想いと、クールに振る舞いながらも時折愛嬌を見せる綿めぐみの大物感にぜひ、注目していただきたい。

左から、小島裕規、OBKR、綿めぐみ、酒本信太。小島が抱いているのが猫のハナちゃん

 

――まず最初に伺いたいのですが、Tokyo Recordingsの皆さんが考える綿めぐみの魅力はなんでしょうか?

綿めぐみ「ふふふ」

酒本信太「こう見えて、あんまり飾らないところが良いんじゃないんですかね。いつも自分の芯がある。レコーディングでも〈録り直します〉とか、なんだかんだいつもきちんと意見を言う」

OBKR「良いか悪いかは別として僕にないなと思うのは、コミュニケーションをあんまり取らないから自分で思考が完結しちゃっているというところですね。そこがおもしろいなと思います。自分の趣味に没頭して、自分の方程式のなかで組み上げていく。そして出した答えっていうのは良いときもあるし、悪いときもあるんだけど、魅力だなと思います」

小島裕規「可愛い! 可愛いし、あとサバサバしてるんですよ。自分の内にこもってるけど自意識の塊で突き進んでいくというタイプではない。客観的に自分自身を引いて見ていますね。もう一人の自分が彼女のなかにいるなと思います」

ニャー(スタジオの外で猫が鳴く)

綿「あ、なんか鳴いてる(笑)」

小島「どうしたの〜ハナちゃん〜」

(猫が毛玉を吐いているため、インタヴュー中断)

綿「可愛いですねぇ(笑)」

――ハハハ(笑)。さて、先ほどのお話にもあったように、綿さんはブログを拝見してもそうですが、アニメやゲームとか自分の興味・関心にグッと突き進んでいる印象があって〈綿めぐみ〉というアーティスト・イメージとご本人に微妙なズレがあるように感じます。

綿「そうですかね? オーダー通りにやってますけど〈これは違うな〉とか、極端に言うと〈これはやりたくない〉みたいなことはきちんと言ってます。だから、無理してやっていたりはしないです」

OBKR「音楽の趣味はかなり違いますよね。一度地方にライヴ遠征で行ったことがあるんですけど、車中でそれぞれのお気に入りの曲を流そうとなったんです。綿の流した曲はすべてアニソンで、僕らはまったくわからないということがありました(笑)。結局、共通言語であるジブリを流して、その場は落ち着いたんですが」

――綿めぐみの楽曲は、ポップですけど先鋭的なトラックメイキングをしています。こういう楽曲は綿さんが普段、聴いている音楽とはかなり違うものだと思うんですが。

綿「戸惑いしかないものを歌ってます(笑)。いままではアニメとゲームの楽曲しか聴いたことがなくて、そういう楽曲は構成がわかりやすいんですよ。Aメロ、Bメロ、サビ、大サビみたいな。でも、初めて〈綿めぐみ〉の楽曲を聴いたときに、私からすると構成も滅茶苦茶に思うんですけど、こういう特殊な音楽を作る人には伝えたいことや、やりたいことがあるんだから、私がむやみやたらに感情移入するのではなくて、私はその人のやりたいことや意思を伝えようと思ったんです」

OBKR「彼女がこういうスタンスだからこそ、前のアルバム『災難だわ』は、むしろ僕たちが彼女に寄っていったんです。僕たちは彼女の生い立ちを魅力的だと感じたから、時系列に沿って彼女が感じたことを描いていった。でも、リリースして思ったのは、やっぱり〈綿めぐみ〉は〈アイドル〉なのかなということでした。だったらその役割に徹してもらったほうが良いだろうと今回は思った」

――明確に〈アイドル〉を作っているという意識があるんでしょうか?

OBKR「今回のアルバムでは、彼女には僕たちのやりたいことを伝えてもらうアナウンサーになってほしいなと考えたんです。アイドルの語源は〈Ideal(偶像)〉なんですよね。でも、いまのアイドルは恋愛禁止なのに恋の歌を歌っているという矛盾がある。本来ならば自分のストーリーを歌ったほうが歌としては説得力を持つはずなのに、嘘が横行している。だったら、最初から物語を設定してそれを歌ってもらったほうが良いんじゃないか、〈ブラインドマン〉という架空のストーリーを代弁してもらうのが正解なんじゃないかと思ったんです。そういう意味では極めてアイドル的だなと思います」

酒本「彼女のアティテュードはまったく問題じゃなかったです。まぁ、このやり方だけが正しいわけじゃなくて、今後もいろいろ変化していくとは思うんですけどね」

綿「私は自分自身と〈綿めぐみ〉という存在を別々に考えているんです。〈綿めぐみ〉=自分っていうよりは、この3人やお客さんのもの。私としては声優さんがキャラクターに声をつけているような感じです。このチームが作ってくれるものは、私のなかの〈普通〉にないものなので、新しいものを作ろうとする意思にはすごいなと、素直に思ってますね」

――綿さんは〈綿めぐみ〉はどんな女の子だと思っていますか?

綿「〈綿めぐみ〉は……ミステリアスな感じ。彼女はプライヴェートを公に出さない。間違っても自撮りをSNSにたくさんあげたりはしない。私は可愛いものがすごく好きなんですけど、〈綿めぐみ〉がピンクの洋服で可愛いものを身にまとってたりしたら変だと思うんです。だからそういうことはしない」

――〈綿めぐみ〉と自分との距離が遠くなりすぎて、困ることはないですか?

綿「〈綿めぐみ〉が一人歩きするのはもう過ぎたことだから仕方ないし。みんながそれぞれ持っている〈綿めぐみ〉のイメージを当てはめてくれれば良いと思うんです。私には私のイメージがあるし。だから、自分との距離で混乱することはないです。私の感覚としてはインタヴューやライヴがあるときに、スイッチ入れるぞーという感じなので」

――今回のEP『ブラインドマン』は、ストーリーテリングに徹した作品というお話でしたが、どんな物語を設定しようとしたのでしょうか?

OBKRケンドリック・ラマーの『To Pimp A Butterfly』を聴いて、こういうことをやりたいなと思っていたんです。実際に起きた事件(米ミズーリ州ファーガソンで起きたマイケル・ブラウン射殺事件)に着想を得ていたりとか、ああした切実なリアリティーのあるものをやりたかった」

ケンドリック・ラマーの2015年作『To Pimp A Butterfly』収録曲“Alright”

 

――『ブラインドマン』は綿めぐみと目の見えない男の物語が語られていますが、かなり具体的ですよね。まず〈ブラインドマン〉という謎の存在のイメージはどこから得たのでしょうか?

OBKR「実は『ブラインドマン』は僕の子どもの頃の話が元になっているんです。僕は小学生の頃に、目の見えないおじさんの世話をするボランティアをしていて、そのおじさんは昔は目が見えていたらしく、普段の生活は真っ暗な部屋で人参とか切ってるのに夢はフルカラーらしいんですよね。あるとき、おじさんと散歩してたら金木犀が綺麗に咲いていたんです。僕はおじさんの目が見えないのも忘れて〈あ、綺麗ですよ!〉と言っちゃって〈しまった……〉と思ったんだけど、おじさんは自然に〈綺麗ですね〉と答えたんです。それはたぶん匂いや雰囲気を察知して言ったんだと思うんだけど。僕がそのとき考えたのは、目の見える人はそれが自由だと思っているけど、本当にそうなのかってことでした」

綿「レコーディングをする前に〈目の見えない人についてどう思うか〉という話はしました。でも、考えたことを活かすとか、歌詞を読み込んで気持ちを込めるというよりは、レコーディング直前に送られてきた音源に合わせて、ただ真剣に歌うって感じですね。今回に関しては〈こういうふうに歌ってほしい〉というディレクションも多かったな」

OBKR「僕は自分が歌うよりも綿めぐみが歌うほうが社会に伝播していく可能性があると思ったんですよね。僕は日本語で歌えないし。本当は自分で出したいけど、陳腐になってしまうからできない。でも、やっぱり作りたいものしか作れないんですよ。30代男性に向けて曲を作ってくれとか言われてもできない。それができたら苦労しないんだけど(笑)」

――『ブラインドマン』でサウンドのリファレンスにしたものを教えて下さい。

酒本「直接的な影響は、フレーミング・リップスなどのプロデュースをやっているデイヴ・フリッドマンのサウンドですね。イメージとして意識していたのは、ポートランドの新人バンドがよくわかんない日本人の女の子に出会った、みたいな感じなんですけど(笑)」

小島「酒本が半年ぐらいイギリスに留学してて、その最後のほうで僕も相乗りしてイギリス旅行をしたんです。レンタカーを借りて2人でストーンヘンジに行った後に〈海行きたいね〉と〈湘南行くか?〉ぐらいのノリで、ポーツマスという港町に寄ってみたんです。そしたら、やたら仮設トイレが並んでて、最初は世界的なトイレの生産地なのかなとか思ったんですけど(笑)、翌日に〈ヴィクトリアス・フェスティヴァル〉というフェスをやることがわかった。で、急遽遊びに行くことにして、そこでフレーミング・リップスを観たんですよ。これがめちゃくちゃ良かった」

酒本「僕はフレーミング・リップスを聴いたことがなかったんですけど、帰りの車のなかで“Do You Realize??”を爆音で流しながら〈ヤベェー〉となってました(笑)」

フレーミング・リップスの2002年作『Yoshimi Battles The Pink Robots』収録曲“Do You Realize??”

 

OBKR「で、2人が帰ってきて久しぶりに会ったら〈いやー、ロックは死なないよ!〉と言ってて。僕は〈アルカ観に行ってたんじゃないのかよ?〉とは思ったんですよ。しかもフレーミング・リップとかいまさら感があるし(笑)。でも、そこからデイヴ・フリッドマンの作品を漁りまくって〈やっぱりこういうのやりたいね〉となって出来たのが今作の“Run Run Run”ですね。彼がミックスしたテーム・インパラの『Lonerism』あたりもよく聴いていました」

酒本「彼の特徴は音数の説得力ですよね。普通、音数を多くしていくとごちゃごちゃしてしまうから、空間的な要素をなるべく排除してデッドな環境で鳴らすのがいまのトレンドなんだけど。デイヴ・フリッドマンは昔からずっと変わらず部屋鳴りを使って1つの音でどれだけガッツリ伝えるか、みたいなところに挑戦している。それはともするとエモくなりすぎるから、どう調整するのかという難しい部分もあるんだけど」

デイヴ・フリッドマンがミックスをしたテーム・インパラの2012年作『Lonerism』収録曲“Feels Like We Only Go Backwards”

 

――これだけ音楽的にマニアックな人たちのなかにいて、綿さんがこのプロジェクトをやっているうえでの喜びとはなんなのでしょうか?

綿「いちばん記憶に残っているのは、ライヴの後にみんなで打ち上げしたんですけど、そのときにお話をしたのがとても楽しかったです。それまではあんまりお話する機会がなかったんですよ。リハーサルで合わせて、曲を演奏して解散みたいな。だから私生活とかパーソナリティーをイマイチ知らなかったんです。こっちとしてはバンドをやってる人は自信満々であんまり好きじゃないというか、あんまり興味がなかったんです。そもそもこの次元に興味がないんですが……」

――次元……(笑)。漫画オタクらしいですね。

綿「だけど、打ち上げで話したときに〈実は学校ではあんまり友達がいなくて……〉みたいな話をしてくれて〈私と同じだ!〉と驚きました。私も友達が1人もいなくて、ずーっと1人で行動しててネットの友達だけが友達みたいな感じだったんです。こんなにいまキラキラしてる人が、学生時代にはモブキャラみたいな感じだったという話を聞いて、〈この人、暗いところも持ってて人間らしいな〉と思えて仲良くなれた気がした。自分とは真逆の人生を歩んでると思っていた人が実は同じような生い立ちだったんだなって。私はこの次元に対してちゃんと生きることは諦めてるんですけど、それは楽しかったかな。でも、相変わらず人とコミュニケーション取るのは苦手ですね」

OBKR「僕たちは柔軟に話し合っていくという感じじゃなくて、個性と個性のぶつかり合いなんですよね(笑)。話し合いでもめることも滅茶苦茶多い」

――最後に、綿さんからTokyo Recordingsの3人の魅力について教えて下さい。

綿「さっきの洋楽の話とか、私は1つもわからなかったんですけど、私はそれがわからなくても、この3人が自分たちの好きなものについて語ってるときのイキイキとした感じが大好きなんです。自分たちの音楽をやりたいとそれぞれが思っていて素敵ですよね。自分にはできないことなので羨ましいし、みんな才能を持て余してるんで、どんどん世に出ていってほしいなと思います」

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