架空のファンタジー世界から、よりリアリティーのある場所へ――4部作の最終章のなかで鳴り響くのは、カラフルなダンス・ポップに乗って躍動する5人の人間讃歌!
これまでは〈架空の街=Awesome City〉のサウンドトラックを奏でてきたAwesome City Clubだが、昨年6月にリリースしたサード・アルバム『Awesome City Tracks 3』をひとつの節目として、その直前に行われたライヴでPORIN(ヴォーカル/シンセサイザー)が表現者として覚醒。5人はファンタジックなポップ世界へさらなるリアリティーを求めるように。バンドの成長過程を鮮やかに映し出してきた4部作の最終章である新作『Awesome City Tracks 4』は、試行錯誤の末、バンドとしてのアイデンティティーを確立した会心のアルバムだ。
「〈Awesome City Tracks〉シリーズのテーマである〈BGM的に聴き流せる音楽〉は、シティー・ポップの肝である〈良い雰囲気〉とマッチする部分もあったと思うんですけど、作品のリリースを重ねるなかで、自分たちの音楽が〈BGM〉から〈必需品〉になったらいいなという気持ちが強くなっていって。当初は職人的なプロジェクトとして始まったのに、どんどんエモくなって、4作目にして、より人間らしいバンドになったところが我ながらおもしろいなと思いますね」(atagi、ヴォーカル/ギター)。
PORINが歌う“Girls Don't Cry”は、バンドの精神面での変化/進化を象徴する一曲。女の子として可愛らしく、優等生であることを周りから求められ、その期待に応えてしまうことへの葛藤と自分らしくありたいというメッセージが、80sマナーのポップ・ファンクに確かな手応えをもたらしている。
「前作でいろんな方から〈覚醒したね〉って言っていただいたんですけど、自分としても表現者としてのスタートラインにようやく立てたと思っていて。何が変わったかと言うと、主張するところは主張しつつ、無駄なエゴとか自我がなくなって、Awesome City Clubとしてどうしたらいいのかを俯瞰して考えられるようになりましたね」(PORIN)。
その俯瞰の視点は、楽曲制作にも影響が。いしわたり淳治のプロデュースのもと、〈平成のヒット・デュエット・ソング〉をテーマに掲げた“今夜だけ間違いじゃないことにしてあげる”と“青春の胸騒ぎ”は、atagiとPORINの男女ヴォーカルというバンドの個性を活かすことで、歌詞のストーリー性がよりいっそう魅力的に引き立っている。
「例えば、以前だったら歌詞を書く時に使うかどうか迷っていた強い、直接的な言葉をPORINのほうから積極的に求めてきたり。歌詞に重きを置くようになっただけでなく、2人が歌い手として成長したことで、表現の幅が広がって、説得力も増してきてると思いますね」(マツザカタクミ、ベース/シンセサイザー/ラップ)。
カラフルで躍動感のあるダンス・ポップを主軸に、前作から引き続き、サカナクションやDAOKOを手掛けるエンジニアの浦本雅史を起用しているほか、本作はサウンド・プロデューサーを適材適所で使い分けており、彼らが進むべき道を見据えていることが明確に伝わってくる。水曜日のカンパネラや宇多田ヒカル作品などにさまざまな形で関わるクリエイティヴ・チーム、Tokyo RecordingsのOBKRとYaffleがプロデュースを手掛けた“Cold & Dry”ではatagiのファルセットを活かした今様のR&B、Curly Giraffeと作り上げた“青春の胸騒ぎ”ではAORの要素を新たに加え、そこで引き出されたバンドのポテンシャルは今後の展開を大いに期待させる。
「〈Awesome City Tracks〉は、バンドとしてどんなことができるのかを見せる、カタログ的な側面もあったんですけど、みんなが僕たちにどんな音楽を求めているのかもわかってきて。それをアップデートしながら、いままで撒いた種にちょっとずつ水をやって、それが成長したら、どこかのタイミングで曲を形にしたり。まだまだ、いろんなことができそうだなって思いますね」(atagi)。
「ちょっと前の私たちは、曲のテーマを設定しても考えすぎちゃって上手く形にできなかったし、5人の個性の集合体としてのバンドをめざしつつ、全員の個性を出すことがなかなか難しくて。でも、今回は5人全員が曲作りに参加して、それぞれの人間讃歌が書けたし、いまはみんなが同じ方向に向いている一体感を感じてますね」(PORIN)。