自身の綴る詞曲を愛されてきた彼女が、才人たちからの頂き物を束ねて歌うことに集中した新作。そんな歌い手冥利なお取り寄せの中身は……
歌い手として歌う歌
安藤裕子のニュー・アルバム『頂き物』は、その名の通り他者から〈頂いた曲〉によって構成された作品である。これまで発表してきた作品のなかにも〈頂き物〉は混在していたが、シンガー・ソングライターである彼女のオリジナル・アルバムに、それを中心に編まれたものは前例がない。はて、その思い切ったコンセプトの背景は?
「いろいろな出来事が重なって、ある時期から〈生きる〉〈死ぬ〉みたいなところに目線が行くようになったんですね。そういったものと対峙して曲を書いて、心の底から歌うっていうことは気持ちいいことだし、達成感もあるんですけど、背負い込みすぎて身体を壊してしまって。去年出した『あなたが寝てる間に』は、デビューしたての頃のように楽しんでやろうってことを念頭に作ったアルバムなんですけど、そこで肩の荷が下りたというか、楽しいアルバムを作ったあとでこれ以上生きるとか死ぬとか書けない、かといって宙ぶらりんな恋の歌を歌ってもウソっぽく感じちゃうし……と思ってたときに、だったら他人から曲をもらって歌ったらいいんじゃない?ってディレクターが言ってくれたんです。歌うのかあ……って思いましたけど、私は、自分で自分の歌声を誉めてあげたことがなかったし、歌い手として歌っている自分の歌というものを聴いてみたいなって思ったので、うん、やってみようと」。
アルバムの予告編となる昨年夏のシングル“360°サラウンド”を書き下ろしたスキマスイッチ、一昨年末の共演イヴェントの際に“Last Eye”を共作したTK(凛として時雨)をはじめ、今作で楽曲を〈差し上げている〉アーティストは、それこそ〈全方位〉から。
「じゃあ次は誰に?っていうとき、デビューのきっかけになったオーディションで歌ったのがCharaさんの“Break These Chain”だったので、Charaさんにお願いしてみたいなって。その次に堀込泰行さん。キリンジの“エイリアンズ”っていう曲が好きで、ああいう感じの曲、いわゆる〈イイ曲〉と呼ばれる歌を歌いたくて。堀込さんに書いていただいた“夢告げで人”は、非常に素直に、気負いなく歌えました。魂を込めて歌う歌とはすごく距離のある、本当にミニマムな、個人の暮らしを象るような、すごく綺麗で良い曲」。
その2人が書いたバラードに続いて、大塚愛が曲を寄せた“Touch me when the world ends.”は、一連のヒット曲から浮かび上がる彼女のイメージにはあまり当てはまらなさそうなアンニュイなニュアンスで。
「曲が集まりだした矢先に〈安藤裕子っていう人に歌ってほしい曲ができた〉っていうのがLINEで来て。彼女はすごく職業作家のようなところがあって、自分をプロデュースしながらやり続けてきたと思うんですね。だから、すごくイイ曲だけど〈大塚愛の世界〉でやるには合わないものっていうのがあったと思うんです。彼女も私も母親で、不穏な世界のなかで自分の子どもだけは守りたいみたいなところって必ずあるから、私の詞もそういうところに寄せていきました」。
前の自分には歌えなかったような
また、銀杏BOYZ・峯田和伸が書き下ろした“骨”。この朗らかで睦まじいラヴソングと、はっちゃけたラップ・ソング“霜降り紅白歌合戦”を共作したDJみそしるとMCごはんは、もっとも興味をそそる顔合わせだろう。
「“骨”は、今回いちばんいい化学変化を起こした曲だなあって思っていて。すごくポップというか、峯田くんと並んでこういう朗らかな曲を歌えて、すごく楽しかった。私、ずっと前から峯田くんで〈金田一耕助〉を撮りたいなって思ってたので、今回“骨”のミュージックビデオでその念願も叶えられて嬉しかった。おみそちゃんは、ちょっと明るい曲やりたいなあと思ってお願いしたんです。ちょっととぼけた感じがすごく好きで、私が高校生ぐらいのときの渋谷感っていうか、彼女と“今夜はブギーバック”みたいなことをやったら楽しいんじゃないかって」。
さらに……。
「sebuhirokoさんは、結構前に車中のラジオでふと耳にしていて、すごい天才がいるなって〈セブなんとか〉という名前で記憶してたんです(笑)。それで、去年の夏にイヴェントでお会いして〈世武裕子です〉ってご挨拶されたときに、〈セブ?……あっ、あなたのことを私は知ってる、あなたが私の知っているセブさんだったら、私はあなたのことが大好きです〉みたいな話をして、いただいたアルバムを帰って聴いてみたら、私が記憶してたセブさんだったんです。小谷(美紗子)さんとは、〈ザンジバルナイト〉っていうイヴェントの楽屋でお会いして、レキシの参加メンバーなので名前は知ってるんですけど、お互いの曲をよく知らないまま、おしゃべりで仲良くなったんですね(笑)。で、そこで初めて歌声を聴いて、すごく涙腺にくるというか、すごい人がいるなって。最初は小谷さんの曲を歌える自信がなかったんですけど、せっかく仲良くなったのでお願いしてみようってことになって」。
友人、憧れ、運命、挑戦――さまざまなきっかけが働き、オムニバス作品ではまずあり得ない顔ぶれが安藤裕子という懐の深いアーティストを介して一枚に収まった『頂き物』。歌い手・安藤裕子のチャームを作家それぞれの個性を際立たせながら押し広げたこのアルバムの最後は、彼女自身のペンによる新曲“アメリカンリバー”で締めくくられる。
「この曲は最後の最後、1月17日に録ったんですけど、みなさんから頂いた曲を歌ったことが良かったのかなあって。相変わらず明るい曲ではないけれど、大きな声で雄々しいサウンドのなかで叫ぶような感じの曲をすごく増していった、以前の安藤裕子には歌えなかったような曲だと思う」。
私は生きている、私は大丈夫――そう歌われる“アメリカンリバー”。安藤裕子の新たな一面を聴かせるこのアルバムは、その未来をも変えてくれそうだ。
『頂き物』に楽曲を〈差し上げている〉アーティストたちの作品を紹介
アルバムのオープニングに“Silk Road”を提供したのがこの実力派シンガー・ソングライター。詞と曲のみならず編曲/プロデュースも彼女によるもので、静動を司るピアノが昂揚を煽る勇壮なナンバーに仕上げている。
“骨”の詞曲は安藤と同年齢な峯田和伸からの頂き物。近年は俳優として活躍する一方、関ジャニ∞への曲提供や加藤ミリヤとのコラボでの助演ぶりも光る彼らしい、仄かな温かみがいい感じ。
先行配信された“霜降り紅白歌合戦”を共作したのは、折々の料理/調理法をテーマにした作風で名を馳せる彼女。互いの肉好きをきっかけにしたユーモラスな内容で、安藤も初めてのラップに挑戦している。
先行シングルのメロディアスな“360°サラウンド”は彼らからの頂き物。常田真太郎はコアラモード.らを手掛け、大橋卓弥はSPICY CHOCOLATEと共演……と個別の動きも目立つなか、4月にはカップリング集も登場予定!
ライヴで“エイリアンズ”を歌ったこともある安藤のラヴコールに応えて、“夢告げで人”の作曲を担当。近年は杉瀬陽子や空気公団の曲に参加しているが、配信/7インチのみで出たこのシングルに続く作品も待たれる。
今年でデビュー25周年を迎えた彼女からの頂き物は、Chara独特の歌い回しを口移しで伝えたようなスロウ“やさしいだけじゃ聴こえない”。もとより憧れの存在というだけあって、ホーリーな儚さの着こなしも抜群だ。
ニューウェイヴィーなアップ・ナンバー“溢れているよ”は、「ストロボ・エッジ」「恋仲」の劇伴でも知られる世武裕子からの頂き物。サウンド・プロデュースも担った彼女の世界に安藤のタイトな歌唱がハマる。
Rabbitへの参加やトミタ栞らへの曲提供、ダンサブルな本作に至るまで、近年は自由な創作が目立つ彼女からの頂き物は、シンプルなスロウに仕立てられた“Touch me when the world ends”。慈愛の滲む詞は安藤の作。
劇的な起伏を備えた“Last Eye”は、このソロ作を同日に発表するTKからの頂き物。近年は南壽あさ子らを手掛けて活動の幅を広げている彼が、2014年末のツーマンをきっかけに安藤と共作したものだ。
『頂き物』以前に発揮されてきた歌い手としての魅力
極めて高い評価を得た2010年の『JAPANESE POP』以降、作品の純度をいっそう高めながらコンスタントに良品を送り出してきた安藤裕子。基本的には自身の作詞/作曲によるナンバーを、デビュー時からの縁となる山本隆二の編曲を中心に、宮川弾やベニー・シングスらも招きながら送り出してきたが、近年でも白根賢一(GREAT 3)が『勘違い』(2012年)と続く『グッド・バイ』(2013年)に曲を書いたり、『あなたが寝てる間に』(2015年)に末光篤による“クリスマスの夜に”があったように、彼女は必ずしも完全な自作自演に固執してきた人ではない。そもそもクレジットのないCMソングで注目を集めた安藤だけに、その最大の魅力を歌声だと捉えてきた人は多いはずだ。
ちなみにそうした美点は、2004年からシングルのカップリングなどで取り上げてきたカヴァー群を束ねた『大人のまじめなカバーシリーズ』(2011年)にも顕著だったし、昨年の松本隆トリビュート盤『風街であひませう』に提供したC-C-Bの“ないものねだりのI Want You”も抜群だった。最新シングル“360°サラウンド”でも“うしろゆびさされ組”をパワフルに披露していただけに、まじめなシリーズ第2集にも期待したくなるところだ。 *轟ひろみ









