ピアノ音楽の、多彩な〈いま〉が集うフェス

 ステージ上のピアノからさまざまな風景が広がる。アーティストが幼いときから感性を育んできた自然や文化を感じる。また、歌、そして映像をはじめとする他のアートやテクノロジーとも絡み合う。個性豊かなアーティストによる音使いを味わうと、ピアノは世界そのものだ、と言いたくなる。

 いつもは隔年開催のザ・ピアノエラ2022は、昨年は見送られたが今年満を持して開催される。初日には、それぞれ2015年のピアノエラで公演した、タチアナ・パーハ&アンドレス・べエウサルトの共演が実現する。タチアナはブラジル出身、音楽一家に育ち、イヴァン・リンス、アンドレ・メマーリらとの共演でも知られ、一方、アンドレスは南米音楽好きでは大人気のアルゼンチンのアンサンブル、アカ・セカ・トリオのハーモニーを彩るピアニストだ。この2人には『Aqui』(2011年)という素晴らしいアルバムがあるように、昔から共演やレコーディングを行ってきた。さまざまな南米のフォルクローレを土台とした生命力あふれるフロー、色鮮やかなハーモニーが味わえるだろう。

 Cicadaは台湾のアンサンブルだ。人は、セミの存在を、その姿ではなく鳴き声で気づくことから由来するというネーミングの詩的な背景は、自然へと向かい、映像と隣接する彼らの音楽制作からもわかる。その音楽は聴きやすいが、ウェットで瑞々しい音世界は、どこか不思議で新鮮だ。まだ大方の日本人には知られてないだろう、台湾の美しい自然に根ざした独特の感性が会場を色づかせる。

 柔らかく、おおらかで、生活に寄り添うような音楽を奏でるharuka nakamura。2020年に初のピアノソロ作品『スティルライフ』を作るなど、よりピアノに根ざした音楽作りにシフトしてきていた。今回はギタリストの田辺玄とシンガー/多楽器奏者のMeadowとの編成になる。元々風景の見える喫茶店を作りたかったという彼の音楽からは、ほっと息がつけるような、落ち着いた〈間〉が生まれる。会場を憩いの場所へと変えていく瞬間が楽しみだ。

 ダン・ テファー “Natural Machines” は、NYはブルックリンに在住の、天体物理学とジャズ、そしてバッハをバックボーンとするアーティストだ。ジャズピアニストとしての力量はリー・コニッツとの共演でも知られ、自動演奏ピアノ〈Disklavier〉と自作のコンピュータ・プログラムを通じて、アルゴリズムと対話するように即興による連弾二重奏を展開、その演奏をリアルタイムで可視化し、ステージ上に投影していく。日本のホールでは〈初共演〉となり、未体験のピアノ音楽を堪能することが出来る。

 今回1番のビッグネームとなるのはテリー・ライリーだ。コロナという事情で日本に滞在し始め、87歳という年齢を思わせないほどの精力的な音楽活動を行い、今もフジロックやFESTIVAL de FRUEなどのフェスで、玄人からたまたま居合わせた音楽ファンまで新しい観衆を獲得し続けている。ミニマリズムの代表的作曲家と評論家にカテゴライズされ半世紀近くもたつが、インド音楽の師匠パンディット・プラン・ナートの弟子としてインドの古典音楽ラーガを長い時間習得してきた。最近メインのキーボードでなく、純正律に調律されたグランドピアノでの演奏を聴く特別な機会となる。その圧倒的世界に触れていたい。

 高木正勝は、2013年に開催の第1回以降毎回出場している。元々「Girls」など映像作品も作る音楽家は、今は兵庫の丹波篠山の里山で自然と隣り合わせのなか音楽制作を続け、最近ではNHKの2021年度前期連続テレビ小説「おかえりモネ」の曲作りに全力で励んでいたと言う。ピアノエラの常連にとっては、その経験を経た彼の音楽がどのように変化、深化したのか気になるに違いない。

 アーティスト達が、ピアノで観衆と多彩につながる。〈ピアノエラ〉=〈ピアノの時代〉が、いま未来に向かって開かれていく。その幸せを体験したい。

 


LIVE INFORMATION
ザ・ピアノエラ 2022
2022年11月19日(土)東京・目黒 めぐろパーシモンホール 大ホール
開場/開演:16:15/17:00
出演:タチアナ・パーハ&アンドレス・ベエウサエルト/Cicada/haruka nakamura

2022年11月20日(日)東京・目黒 めぐろパーシモンホール 大ホール
開場/開演:15:45/16:30
出演:テリー・ライリー/ダン・テファー “Natural Machines” /高木正勝
http://www.thepianoera.com/