少女のようなあどけなさで、内に秘めた生々しい感情を爆発させる京都出身のシンガー・ソングライター、白波多カミンがバンドを結成。濱野夏椰Gateballers)、上野恒星jappers)、照沼光星Golden Katies!!thatta)というさまざまなバンドで活動する男たちを率い、白波多カミン with Placebo Foxesとして新たなスタートを切った。バンド結成の経緯を白波多はこんなふうに振り返る。

 「ずっとバンドを組みたかったんです。それで東京に出て来てソロ活動をしている時に、対バンで濱野君に出会って、〈これはすごいギタリストだ!〉と思って声をかけました。濱野君を通じて芋づる式にナイスガイたちに出会えたって感じですね」(白波多カミン)。

白波多カミン with Placebo Foxes 空席のサーカス コロムビア(2016)

 一方、「新しいバンドをやりたくて歌う人を探してたんですけど、(白波多の)歌を聴いて、良いな、金になりそうだなと思って(笑)」仲間たちに声をかけたという濱野。記念すべきメジャー・デビュー・アルバム『空席のサーカス』は、MO'SOME TONEBENDER百々和宏がプロデュースを担当。ギターが暴れ回るバンド・サウンドと、突き刺さるような歌声が共鳴するロック色の強い作品に仕上がった。

 「バンドをやるなら〈ガツン!〉とくるロックがやりたかったんです。ソロでやってる時もロックな気持ちで弾き語りをしてて、(自分の中では)いつも自分のギター以外の何か別の音が聴こえてた。それが形になったらいいなって思ってたんですけど、やっとこのアルバムで実現できましたね」(白波多)。

 作詞/作曲は白波多が担当し、アレンジはメンバー全員でアイデアを出し合う。白波多がソロで発表してきた楽曲もバンド・ヴァージョンで大きく変貌した。

 「“姉弟”はソロの時はピアノの弾き語りでやってたんです。今回、濱野君がイントロのアイデアを出してくれたんですけど、ソロとは全然違う感じになって驚きました。やっぱり、他人が参加すると自分では思ってもみなかった変化が生まれる。ひとりで歌っている時よりも曲と自分の間に距離ができて、歌い方とかも客観的に考えられるようになったのがおもしろかったですね」(白波多)。

 バンド・サウンドに弾き語りも織り交ぜてアルバムが進むなかで、異彩を放っているのがエレクトロニックでダンサンブルな“嫉妬”だ。

 「最初はバンド・サウンドだったんですけど、カミンちゃんが〈ディスコがいい〉ってアイデアを出して、それに乗った百々さんがアレンジに結構関わってくれたんです。僕らだけだったらできなかったアレンジだし、斬新でおもしろかったですね」(上野)。

 サウンドが鮮やかに変化する一方で、変わらないのは独自の世界観を持った歌詞だ。〈仏壇の前で君とセックスをした〉(“姉弟”)、〈お姫様は一人で良いの。だからみんな殺し合うの〉(“普通の女の子”)など、強烈なラインを忍ばせながら、映画のワンシーンのように物語を紡ぎ出していく。「演奏しながら一緒に歌ったりしているんですよ、心の中で。ドラムのパターンを歌詞の言葉に合わせたりすることもある」(照沼)とメンバーにも刺激を与える彼女の歌。そのテーマはアルバムのタイトルが物語っている。

 「客席が全部空席で、お客さんが誰もいないなかでサーカスが華やかに行われてる風景が頭の中に浮かんだ時、〈きれいだなあ〉って思ったんです。そこには〈寂しい〉と〈煌びやか〉っていう逆方向のものが同時にある。その引き裂かれそうな感じが、私の曲には共通してあると思います」(白波多)。

 ひとりのシンガー・ソングライターと3人のミュージシャンが出会って生まれた歌。それは引き裂かれるような激しい想いが詰まった場所、『空席のサーカス』への招待状だ。

 


白波多カミン with Placebo Foxes
白波多カミン(ヴォーカル/ギター)、濱野夏椰(ギター)、上野恒星(ベース)、照沼光星(ドラムス)から成る4人組。白波多はもともと地元の京都でシンガー・ソングライターとして活動し、これまで2011年の『ランドセルカバーのゆくえ』を皮切りに、2014年の『くだもの』、2015年の『白波多カミン』と3枚のミニ・アルバムを発表。上京後にライヴ活動を行うなかで濱野らメンバーと出会い、2015年にバンドを結成する。同年5月には自主企画イヴェント〈涅槃 vol.1〉を開催し、その後も〈Shimokitazawa Indie Fanclub〉〈MINAMI WHEEL〉などに出演。12月にメジャー・デビューを発表し、このたびファースト・アルバム『空席のサーカス』(コロムビア)(CONNECTONE)をリリース。