大学時代……というよりはmixiが一番盛り上がっていたころに、誰よりもたくさん音楽の話をしてきた同い年の友人がもうすぐ結婚するという。その報せを聞いてメロウな気分になった自分は、彼とシェアしたアルバムの数々を久し振りに思い出していた。マントラーの2004年作『Landau』も、甘酸っぱい青春時代を彩ったマスターピースの一つである。
『Landau』といえば、江森丈晃さんが手掛けた名著「宅録~D.I.Y.ミュージック・ディスクガイド」(2011年)で、〈結婚式の三次会のようなテンション〉〈寒天に垂らしたレモネードのような、微糖。〉と紹介されているのを見つけたときは、思わず膝を打ち、我が事のように興奮したものだ。同作の前後を挟む『Sadisfaction』(2002年)、『Monody』(2010年)も傑作で、2011年には日本独自で企画されたコンピ『Fortune Smiled Again』もリリースされている。橋本徹さんが監修したコンピ『ブルー・モノローグ Daylight At Midnight』 に収録された“Undying Eyes”など隠れ名曲も多く、この清涼感と内省的なムードを携えたブルー・アイド・ソウルはインディーR&Bを通過した今日の耳にもフレッシュに届くはずだ。
マントラーはトロント在住のクリス・A・カミングスによるソロ・ユニットで、2010年代に入るとマーカー・スターリングに改名しており、先月には新名義での初アルバム『Rosy Maze + I'm Willing』をリリースしている。こちらはタイトル通りのカップリング盤で、オリジナル曲を収録した〈Rosy Maze〉と、カエターノ・ヴェローゾ、イヴァン・リンス、ジョン・ ルシアン……など選曲も光るカヴァー集〈I'm Willing〉で構成されている。ロバート・ワイアットを彷彿とさせる歌声と、穏やかに鳴り響くウーリッツァー&リズム・ボックスを主体とした持ち味は健在で、ステレオラブのレティシア・サディエールが参加したボビー・コール“A Perfect Day”のカヴァーも実にイイ感じだ。
ニュー・ソウル、ソフト・ロック、AOR、スティーリー・ダン、ブラジリアン・メロウ、ジム・オルーク、シュギー・オーティス、モッキーやゴンザレスら同胞カナダ勢などに通じるようでいながら、特定のジャンルに収まりきらないそのメロウ&テンダーなサウンド――的確すぎるので(新作リリース&ツアー招聘元である)7e.p.の資料を引用させていただいたが、この愛すべき実力派シンガー・ソングライターの初来日ツアーが明日の東京公演からスタートする。メロウとは何か、結婚とはなんぞや。孤独が似合う歌心に聴き入りながら、改めて考えたい。
7e.p. presents
Marker Starling (aka Mantler) Japan Tour 2016
4月7日(木) 東京・渋谷 7th FLOOR
共演:Alfred Beach Sandal、スカート
4月8日(金) 大阪 HOPKEN
共演:かえるさん(細馬宏通)、原田晃行(Hi,how are you?)
4月9日 (土)福岡・うきは 杉工場
4月10日 (日)熊本NAVARO
共演:Beauties of Nature、田尻精、クラギッツ
4月11日 (月)岡山・サウダーヂな夜
共演:Chris Murty
4月13日 (水)京都UrBANGUILD
共演:Turntable Films、オオルタイチ (Solo Acoustic)
DJ:岡村詩野
4月14日 (木)愛知・名古屋 K.D JAPON
共演:小池喬、小鳥美術館
4月15日 (金)長野・松本Give me little more.
共演:The End、クイクイジーラ
4月16日 (土)立川 ギャラリー セプチマ
「yumbo x Marker Starling」
共演:yumbo
4月17日 (日) 宮城・仙台 book cafe 火星の庭
共演:澁谷浩次(yumbo)
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