英ロンドンを拠点に活動するマルチ奏者、Koichi Yamanohaによるエクスぺリメンタル・ポップ・プロジェクト=Grimm Grimm(グリム・グリム)が、通算3枚目となるニュー・アルバム『Ginormous』をリリースする。
おとぼけビ~バ~、DYGL、CHAIといった日本人バンドがグローバルな活躍を見せる昨今だが、Yamanohaはゼロ年代後半(まさに〈MySpace〉の全盛期だ)にScreaming Tea Partyという男女/国籍混合の3ピース・バンドでロンドン・アンダーグラウンドを賑わせていた人物でもあり、同じく海外を拠点とするBO NINGENや幾何学模様との親交も深い。
バンドは2010年に解散したが、YamanohaはすぐさまGrimm Grimmとしての活動をスタート。時空がねじ曲がったようなタイムレスで無重力感覚漂うアシッド・フォーク・サウンドは、あのダモ鈴木(カン)やトーイ、ファウストのジェラルディン・スウェインらも絶賛。かつて日本でも一度だけ開催された伝説のインディペンデント・フェス、〈オール・トゥモローズ・パーティーズ(ATP)〉が設立したレーベルから初の日本人ソロ・アーティストとしてデビュー・アルバム『Hazy Eyes Maybe』(2015年)を発表した際は、国内外で大きな反響を呼んだことは記憶に新しい。
今作『Ginormous』は、ステレオラブのレティシア・サディエールをはじめ多くの女性アーティストが客演したほか、ムーンライダーズの故かしぶち哲郎のカヴァー“今日は雨の日です”を収録するなど、これまで以上にポップで力強いアルバムに仕上がっている。共同プロデューサー/ミキサーとして、ビョークやフランク・オーシャンとの仕事でも知られるマルタ・サローニを迎えたことにより、グッと視界が開けた印象も抱いた。そして、全11曲を通して彼が持つ独特な死生観や、〈女性〉に対する畏怖や憧憬さえも浮かび上がってくる気がするのだ。
昨年末から一時帰国していたYamanohaに、地元・東京で話を訊いた。
〈デススト〉の小島秀夫が絶賛するGrimm Grimmの音楽
――年末年始はいつも日本で過ごされているのですか?
「今回は、友人の結婚式で演奏することになっていたんです。2月にアルバムも出るしGrimm Grimmのツアーも一緒にやって、実家でお雑煮でも食べようってなって(笑)」
――そんな中で、ゲーム・クリエイターの小島秀夫さんが前作『Cliffhanger』(2018年)を絶賛するツイートを投稿していたじゃないですか。ご自身としても非常に驚かれたのでは?
「実は小島さんのことを存じ上げなかったので、ビックリしました。その日(2019年12月18日)はちょうど下北沢でライブがあって、急に自分のツイートへのRTが急激に増えたので、〈もしかしたら誰かが紹介してくれたのかな?〉とは思っていたんですけど」
オーストラリアの知人からいただいたCD。このGRIMM GRIMMのアルバム「CLIFFHANGER」が凄すぎる!!繊細で美しい音にキュンとする。大好物!ロンドン在住の日本人アーティスト。去年のアルバムらしい。なんと来日していて、今日、下北でLiveがあるらしい。会食で行けない。残念。新譜が来年出るとのこと pic.twitter.com/NrINMzfFgs
— 小島秀夫 (@Kojima_Hideo) December 18, 2019
――小島さん、英語アカウントの方は300万人近くのフォロワーがいますからね(笑)。Yamanohaさん自身はビデオゲームはやられないんですか?
「うーん、ハマってしまいそうで怖いんですよね。でも『マリオカート』とかゾンビを撃ったりするやつは好きでしたよ。自分でゲームを買うタイプじゃなかったので、友達の家に行ったときに遊んでいたくらいで。どっちかっていうと、川辺で缶蹴りとか色鬼とかして遊ぶほうが好きでした(笑)」
――最新作『Ginormous』に収録された“The Ghost Of Madame Legros”には、〈ゲームの様に/4年があっという間に過ぎ去った〉というフレーズもありますね。
「ハハハ(笑)。そうですね、〈マリカー〉で遊んでいたときみたいに、〈楽しい時間はあっという間に過ぎる〉というメタファーはあるのかも。
もともとは“The Ghost Of Madame Legros”は『革命の女たち』(ジュール・ミシュレ著)という本にインスパイアされて書いた曲で。その本はアメリカのフェスに行くときに友人から借りたんだったかな、飛行機の中で一気に読みました。
これといって権力を持たないルグロ夫人※が、自らの信念だけで政治を動かしたという事実に感動したんです。教科書には載らない史実のひとつで、そのルグロ夫人が亡霊となって現代に蘇るような――そんなイメージで歌詞を膨らませていきました」