アンサンブル・モデルンに抜擢された気鋭、ヴィオラの可能性を探求する!

 ヴィオラと現代音楽はなぜこれほど親和性が高いのだろうか。おそらく20世紀に入って独奏楽器としての地位が確立されたため、古典のオリジナル曲が少なく、奏者たちが同時代の作曲家に新作を委嘱してレパートリーを切り開いていったからなのだろう。

 6月に東京オペラシティの好評リサイタル・シリーズ、B→C[バッハからコンテンポラリーへ]に出演するヴィオラ奏者、笠川恵はドイツ随一の現代音楽集団、アンサンブル・モデルンのメンバーで、現代曲を得意とする。22人の正規メンバーのうち唯一のヴィオラ奏者として年間90公演近くをこなし(うち40%が初演曲)、また仲間とカルテットも組んでいる。

 大阪の相愛大学でヴァイオリンを学んだのちヴィオラに転向、ジュネーヴ音楽院で今井信子に師事。アンサンブル・モデルンとの縁結びをしてくれたのは敬愛するヴィオラ奏者のガース・ノックスで、2008年に彼と一緒にベンジャミンの“ヴィオラ、ヴィオラ”を同グループと弾いたことが入団へとつながった。

 笠川のB→Cのプログラムは、リヴィング・コンポーザーは田中吉史のみで、むしろ20世紀後半のヴィオラ・レパートリーの多様性と変化に焦点を当てたもの。単独ではめったに聴けないグリゼーの“音響空間”のプロローグ、ハーヴェイの“ヴィオラとエレクトロニクスのためのリチェルカーレ”など意欲的な選曲だ。

 全体のコンセプトは、ハーヴェイの曲のタイトルにもある〈リチェルカーレ〉(探し求める)で、「演奏家も作曲家も常に探求し続けるという願いを込めた」と語る。「時代の変化に伴って、私たちの考え方も思想も変化していく中で、固定観念に囚われたくないという個人的な思いによってこのテーマを選びました」

 バッハの“無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番”については、子供の頃から憧れながら、ヴァイオリン時代にも弾いたことがなかった曲で、その壮大なフーガを弾くのは今回の最大のチャレンジだと話す。

 アンサンブル・モデルンの活動のかたわら、台湾の台南芸術大学のヴィオラ・クラスで現代曲の演奏を教え、また出身地の福井でも演奏活動や教育プログラムに力を入れている。さらに最近では、少しでも作曲家の気持ちを知ろうと、自ら作曲も始めたそうだ。

 昨年は初のヴィオラ・ソロのアルバムをレコーディングし、アンサンブル・モデルンのレーベルより夏頃にリリース予定という。委嘱作のほか、ヘンツェ、カーター、そして今回演奏するバーグスマの作品を収録。

 現代音楽の精鋭というと堅いイメージもあるが、実際は朗らかで気さくなお人柄。オープンな発想でヴィオラの可能性を探る笠川の今を聴いてほしい。

 


LIVE INFORMATION
BC バッハからコンテンポラリーへ
笠川 恵 ヴィオラリサイタル
2016年6月28日(火)東京オペラシティ リサイタルホール
開演:19:00
出演:笠川恵(ヴィオラ)/ウエリ・ヴィゲット*(ピアノ)/野中正行** (エレクトロニクス)

■曲目
バーグスマ:《トリスタンとイゾルデ》の主題による幻想的変奏曲(1961)*
グリゼー:ヴィオラ独奏のための《プロローグ》(1976)
田中吉史:ヴィオラとピアノの通訳によるL.B.へのインタビュー(2006)*
J.S.バッハ:ソナタ ヘ長調(原曲:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 第3番 ハ長調 BWV1005)
ハーヴェイ:ヴィオラとエレクトロニクスのためのリチェルカーレ(2003)**
シューマン:幻想小曲集 op.73 *
https://www.operacity.jp/