©平舘平

20世紀以降の尺八音楽を一気に感じる、そんな一夜に。

 一尺八寸。およそ55cmの長さに切った竹管に5つの孔。これが尺八という楽器の全てだ。基本的に出せる音階も5つのはずだが、不思議なことにこのシンプルな竹の管は、無限の表現力を発揮する。

 長谷川将山は現在活躍する若手演奏家の中でもまさに一目置かれる存在だろう。その卓越した腕前はYouTubeで公開されている多重録音企画〈全員将山〉を視聴するとよくわかる。

 「多重録音そのものは昔から興味があって試していたのですが、コロナ禍に突入したことで時間ができたもので、自分の部屋でコツコツ録って行きました。重ねて録音するわけですから、次のパートを重ねようとしたら既に録った自分が言うことをきかないなんてことも(笑)なかなか難しいのです」

 そんな長谷川が東京オペラシティで長く続く名物企画〈B→C〉に登場する。実は20年前の同シリーズには師である藤原道山も登場していて、これで師弟揃っての登場を果たしたわけだ。今回のプログラムには、学究肌の長谷川らしい緻密な想いが巡らされている。

 「前半は都山流尺八における独奏曲の系譜を辿る、というのが裏テーマでして、当然都山流の祖である初代中尾都山の曲は外せません。初代中尾都山の音楽が有ったお陰で、20世紀以降の尺八音楽が大きく変わった。唯是震一さん、川島素晴さんの作品に繋がっていきますが、これはそれぞれ初演者が初代山本邦山先生と、師匠である藤原道山先生なんです。そして最後に僕が今回向井響さんに委嘱した作品へと繋がっていきます。後半はバッハの“無伴奏フルート・パルティータ”からですが、尺八と当時のフラウト・トラヴェルソの音域が近いことから選んでいますが、このパートは尺八の〈楽器〉としての可能性を示したいとおもいました。松村禎三さんの作品は、尺八のためのではなく、ジャンルに囚われない一本の笛として書かれた作品です。そして高校時代から親交がある坂東祐大さんに新曲をお願いしています」

 実に論理的に組み立てられたプログラムだが、長谷川はこれをほぼ尺八一本で、つまり持ち替えをせずに演奏する予定だという。

 「今回持ち替えずに一本だけで挑むことで、同じ楽器でも出てくる音楽が違うことを体験できると思います。だから奇をてらわず、純粋に尺八の魅力を感じてほしいですね。20世紀以降の尺八音楽を一気に感じることができるプログラムだと自負していますから、今まで尺八を聴いたことがない人にこそ聴いてほしいですね」

 


LIVE INFORMATION
B→C バッハからコンテンポラリーへ
長谷川将山 尺八リサイタル

2024年9月10日(火)東京オペラシティ リサイタルホール
開演:19:00

■曲目
初代中尾都山:都山流本曲 “慷月調”
唯是震一:無伴奏尺八組曲 第三番(1954/61)
川島素晴:尺八(五孔一尺八寸管)のためのエチュード(2010)
向井 響:新作(2024、長谷川将山委嘱作品、世界初演)
J.S.バッハ:無伴奏フルート・パルティータ イ短調 BWV1013
坂東祐大:新作(2024、長谷川将山委嘱作品、世界初演)
松村禎三:詩曲二番 ─ 尺八独奏のための(1972)

https://www.operacity.jp/concert/calendar/detail.php?id=16412