バッハ、武満、そしてキケ・シネシ――ケーナのイメージを刷新する超絶奏者が〈B→C〉に!
東京オペラシティの名物企画〈B→C〉に、遂にケーナが登場する。これまで同シリーズには、尺八や箏、オカリナといった内外の民族楽器も登場しているとはいえ、南米のフォルクローレを演奏する楽器としてのケーナのイメージが強い人にとっては、ちょっとした驚きと共に受け止められるだろうか。しかし、ここ10年ほどの岩川光の活躍ぶりを知っていれば、当然の抜擢であり、遅すぎるとさえ思われるほどだ。
現在の南米音楽シーンにおいてもっとも重要なギタリストの1人と目されるキケ・シネシが初来日したのは2012年だが、その半年後には再来日し、岩川とのデュオによる日本ツアーが実現。すでに国内のライヴシーンで頭角を現しつつあった岩川の注目度は一気に高まった。その後岩川は日本とアルゼンチンを股にかけて活動し、ディノ・サルーシ、フアン・ファルー、ハイメ・トーレス、ホルヘ・クンボといった伝説的な巨匠達と共演。2017年にはメキシコで開催された世界最大規模の国際ケーナ・フェスティバルに唯一の非南米人出演者として招聘されるなど、海外でも決定的な評価を獲得している。ジャンルを超越した活動も今に始まったことではない。共演者はジャズ系ミュージシャンが多数を占め、ソロではバロック作品を中心とするコンサートも開催。バッハを含むバロック作品集のCDも2枚発表済みだ。
ケーナは果たして、不自由で機能性に欠ける楽器だろうか? 管楽器を呼吸器官の延長と捉えるならば、人体と一体化しやすいシンプルな構造は、むしろ合理的だ。決して観念的にそう言っているわけではない。リコーダーの名手でもある岩川は、以前はリコーダーの超絶技巧を披露する機会も度々あったが、その頻度は徐々に減っていった。岩川にとって、より自由な音楽表現が可能となるのはケーナの方なのだ。ケーナのために書かれた現代音楽作品は(優れた作曲家でもある岩川の自作品を別にすれば)極めて少ないので、今回のプログラムでも必然的に他楽器向けの作品を多数取り上げることになるが、一例として、岩川によるケーナ版“Aliento / Arrugas(息/皺)”をYouTubeで聴いてみて欲しい。本来はフルート作品だが、〈ケーナで演奏する意義〉など、考えるまでもないだろう。岩川の演奏に感銘を受けた作曲者トレドが提供する、ケーナのための新作も楽しみだ。
さらに注目したいのは、無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番(BWV1004)からの4曲。バッハの無伴奏作品の中でも特別な重みを持つ最終楽章“シャコンヌ”を除いたの何故だろう? 筆者の推測は敢えてここには書かないが、どのような形であれ、当日の演奏が有無を言わさぬ説得力を示してくれることを確信している。
LIVE INFORMATION
B→C (ビートゥーシー:バッハからコンテンポラリーへ)
岩川光ケーナリサイタル
2022年1月18日(火)東京オペラシティ リサイタルホール
開演:19:00
出演:岩川 光(ケーナ)
■曲目
トレド:息/皺(1998)
武満徹:エア(1995)
J.S.バッハ:《無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番》ニ短調 BWV1004から 「アルマンド」「コレンテ」「サラバンド」「ジグ」
ビーバー:《ロザリオのソナタ》から「パッサカリア」
ドビュッシー:シランクス 岩川 光:ハチャケナ(2017)
ブリテン:オウィディウスによる6つの変容 op.49(1951)
シネシ:新作(2021、岩川光委嘱作品、世界初演)
トレド:新作(2021、岩川光委嘱作品、世界初演)
ピアソラ:《6つのタンゴ・エチュード》(1987)から 第3番、第4番、第6番
https://www.operacity.jp/concert/calendar/detail.php?id=14378