©Ayane Shindo

尺八でダンス? 「インヴィジブル・ダンサーを感じながら聴いてほしい曲を選びました」

 将来を嘱望される腕利きのミュージシャンたちが意欲的なプログラムに挑む〈B→C(バッハからコンテンポラリーヘ)〉。10月の公演に出演するのは尺八奏者の黒田鈴尊。早稲田大学の人間科学部在籍中に聴いた武満徹“ノヴェンバー・ステップス”に衝撃を受け、20歳から尺八を始めたという異端の経歴ながら、人間国宝の青木鈴翁らに師事してめきめき頭角を現し、今や最注目の存在になりつつあるミュージシャンだ。彼はどんな切り口で〈B→C〉に臨むのか?

 「尺八というと渋くて、侘び寂び、瞑想的などと思われがちなんです。尺八界に一番不足しているのはダンスだと思うんですよ」と、いきなり意外なテーマ設定に驚かされる。どういうことだろう。

 「尺八という、穴も5個しかない単純な楽器でやっているからこそ、逆に視えてくる豊かな世界があるはずなんです。今回のプログラムは、観客の皆さまの頭のなかでインヴィジブル・ダンサー(視えざる踊り手)を感じて欲しいと思って選んでいます」

 伝統的な古典本曲から世界初演の委嘱作までと幅広い演目を、ダンスや視覚的な動きという観点で切り取るアイデアはとても斬新。卒論で取り組んだ図形楽譜の研究や、DJの経験などを通して、このような視点が培われたという。選ばれた個々の楽曲も非常に魅力的だ。ポスト武満としてヨーロッパの第一線で活躍中の作曲家、細川俊夫によるフルート曲を作曲者ご本人からお墨付きを得て取り上げたり、ループのエフェクターを6つも使用する山本和智の作品を演奏したり、現代音楽シーンだけでなく電子音楽やサウンドアートの文脈でも注目を集め、 NHKEテレの『ムジカ・ピッコリーノ』の音楽制作にも携わる網守将平の書き下ろし作品を初演したり等、注目ポイントを挙げだせばキリがない。ところで、そもそも黒田がコンテンポラリーな音楽に力を注いでいるのは何故なのだろう?

 「ゴダールの『Passion』(1982)という映画を観た時に、クラシック音楽と雑踏の音や様々な言語の響きが混在することで、ひとつの音楽になっていると感じて、凄く感銘を受けたんです」と、あらゆる〈音〉を、〈音楽〉として魅力的に聴かせてくれるコンテンポラリーは、黒田にとって他には代えがたい分野なのだ。そして最後に、黒田は「 〈旅〉をするために音楽をやっているんです」と根源的な欲求をこう語ってくれた。

 「アンテナを張って色々な音楽を聴いたりするのも、音楽を通して〈旅〉をさせてくれる人が好きで、自分もそう有りたいからなんです。今回の演奏会でもトリップというか、演奏後に皆さんを違ったところへお連れしたいですね」

 


LIVE INFORMATION
B→C  黒田鈴尊 尺八リサイタル
2018年10月16日(火)東京オペラシティ リサイタルホール
開演:19:00
出演:黒田鈴尊(尺八)/岡村慎太郎(三絃)*/中島裕康(箏)**

■曲目
神保政之助:奥州薩慈
J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲第1番 ト長調 BWV1007
細川俊夫:線I ―― フルートのための(1984/86)
峰崎勾当:残月 */**
入野義朗:尺八と箏の協奏的二重奏(1969)**
坂田直樹:新作(2018、黒田鈴尊委嘱作品、世界初演)
山本和智:Aquifer A/B(2014)
網守将平:新作(2018、黒田鈴尊委嘱作品、世界初演)
権代敦彦:新作(2018、黒田鈴尊委嘱作品、世界初演)
https://www.operacity.jp/concert/