昨年はジェイク・ワンとのユニット=タキシードが日本でもブレイクし、昨今のディスコ/ブギー景気の波に乗って一気に注目を集める存在となったメイヤー・ホーソーン。近年はタキシードに加えて14KTとのジェイデッド・インコーポレイテッドでも作品を発表するなどユニット活動に力を注いでいた彼が、約3年ぶりのソロ・アルバム『Man About Town』をリリースした。今回Mikikiでは、そんなメイヤーにメール・インタヴューを敢行! タキシードでの成功についてや、新作にまつわるエピソードを訊いた。 *Mikiki編集部

MAYER HAWTHORNE Man About Town Vagrant/ビクター(2016)

 

時流にアンテナを張って音楽を作っていたわけではなく、好きなことをやっていたらたまたま時代にフィットした――それがメイヤー・ホーソーンという人だ。遊び半分でレトロなソウルを作ったデモ音源がストーンズ・スロウの目に留まり……というデビューの経緯からしてそうだし、ブレイクを果たした彼の別プロジェクトことタキシードも、昨今のブギー/ファンク/ディスコ再燃を誰も予想していなかった2006年に、後の相棒であるジェイク・ワンとディスコ趣味で意気投合したことが結成のきっかけだった。このたびリリースされた3年ぶりのソロ通算4作目『Man About Town』にも衒いや狙いは少しも見当たらず、ただひたすらにグッド・ミュージックを届けてくれる。そんな作風と同じくマイペースでリラックスした人柄のメイヤーだが、このインタヴューでは音楽への真摯さが垣間見えた。

日本の音楽フリークにとってメイヤー・ホーソーンはすでにお馴染みの存在であり、深く親しまれているが、2015年3月にリリースされたタキシードの初作『Tuxedo』の成功は彼のキャリアに太字で刻まれるトピック。アルバムの好セールスはもちろん、来日公演やフェス出演も大盛況であったことに加え、日本の某俳優がTVのヴァラエティー番組で彼らを紹介するなど、お茶の間レヴェルで評判を呼んだことで、タキシードの名を知らなかった層にも届いたようだ。

タキシードの2015年作『Tuxedo』収録曲“Do It”

「嬉しいことだね。というのも、かねてから日本ではいつかヒット曲を出したいと思っていたのに、メイヤー・ホーソーン名義ではなかなか実現できなかったから。タキシードはメイヤー・ホーソーンと同じような始まり方をしている。つまり、ただ自分たちが楽しむためにやっていたサイド・プロジェクトだったんだ。だからこそ上手くいったんだろうね。作品が売れるかなんて心配することもなかったから。スタジオは完全に自由な雰囲気に包まれていて、ルールもまったくないからこそ、そこで作る音楽もおもしろくてユニークなものになる。ジェイク・ワンに感謝だよ!」

前述したジェイク・ワンとの出会いから9年越しでデビュー・アルバムに漕ぎ着けたタキシードだが、ここ最近のディスコやファンクのブームが彼らのブレイクを後押ししたのは間違いない。実は2013年のソロ前作『Where Does This Door Go』では、アルバム冒頭のスキットにタキシードの“Do It”を使用し、タキシード用の曲だったという“Designer Drug”をソロ曲として発表していたが、その時点でタキシードはまだ知る人ぞ知る存在だった。あくまでマイペースを保っているなかで、ベストな時期が巡って来たということなのだろう。

メイヤー・ホーソーン“Designer Drug”

「ファンクがクールじゃない時期があったと思うんだけど、いまはまた(関心が)戻ってきているね、物事は周期的に巡っているものだから。でも、僕にとってファンクは一度たりとも離れることがないものなんだ。『Man About Town』の曲を作っているときは、よくパーラメントやスライ・ストーンの音楽を聴いていたよ。内容がダークな主題を扱っている曲でも、ファンクは聴いていて楽しいし気分をよくしてくれる。僕が落ち込んでいるときでも元気を出してくれるのさ!」

確かに、メイヤー・ホーソーンとしての新作『Man About Town』にはいつもの彼らしいメロディアスで小気味良いサウンドが詰め込まれ、聴く側も元気をもらえる。ただしアルバムの構成については、「大都市で恋を探し求める自分自身について歌っている。それは時折寂しさを伴うものでもあって、歌詞的には哀愁を帯びているかもしれないけど、なぜかすごく楽しいアルバムに仕上がっているよ」と彼が語っている通り、楽しいながらもいつになくコンセプチュアルで、個人的なエピソードをテーマにしている作品であることも特筆すべき点だ。

「そうだね、僕の作品のなかでは『Man About Town』がもっともパーソナルなものだよ。ほとんどのストーリーが、実際に僕の人生で起きていることを受けて、自然発生的に書かれたものなんだ。まだ何かが現在進行形で起きているときに、リアルタイムで書いたものもあるよ、“Get You Back”みたいにね。この曲はマイアミで書いたんだけど、歌詞の中でもマイアミまで飛行機で行くことを歌っている。あるいは“Fancy Clothes”、これはパリで書いている。美しい女性に失恋してホテルへ戻り、その晩に書き下ろした歌さ。(アルバム制作)当時の僕の人生を記録したかのような作品になっているね」。

アルバム・リリースに先駆けて公開された“Cosmic Love”と“Love Like This”の2曲もロマンティックな女性賛歌だが、ミュージック・ビデオは探偵映画を思わせるストーリー仕立ての連作となっており、あえてB級テイストも漂わせた映像の中でコミカルに探偵役を演じるメイヤーが印象的だ。歌詞も全編に渡ってシネマティックなストーリーテラーぶりが際立つ。

「I love films! 映画はこれまでもずっと大好きなものではあったけど、LAに住むようになってからは僕にとっての重要性はさらに増したよ。前作でファレル・ウィリアムズと一緒に作業したことによって、ストーリーテリングの技巧の重要性を知ることになった。いまは歌詞を用いて可能な限り彩りのある光景を描いて、リスナーを自分の世界に連れて行きたいと思っている。例えば〈朝食〉という一言よりも〈フレンチトーストにイチゴジャムを添えて〉と言ったほうが音楽もより映画的になるよね」。

メイヤー・ホーソンの2013年作『Where Does This Door Go』収録曲、ファレル・ウィリアムズのプロデュースによる“Wine Glass Woman”
 

このように自身の作家性を前面に打ち出すことになったのは、前作『Where Does This Door Go』、前々作『How Do You Do』(2011年)をリリースしたメジャー・レーベルを離脱して自由度が増したという状況が大きく影響しているようだ。今作をリリースするパートナーには西海岸の有力インディーであるヴェイグラントを選んでいるが、パンクやインディー・ロックに強いレーベルであるため、少し意外ではある。

「たくさんのレーベルと話したんだけど、僕の描いているヴィジョンをよく理解してくれて、創作活動をするうえでいちばん自由度が高そうだと思ったのがヴェイグラントだったんだ。ジャンルは特に気にしていない。大事なのは、そのレーベルが自分を信頼してくれて、自分のために努力を惜しまないサポート体制があるということ。(作品をリリースすることは)一人でできることではないからね」。

タキシードが上手くいった理由と同じく、レーベルを移籍したことで自由な環境を得たことが本作の内容の素晴らしさにも繋がったのは明らかだ。パーソナルなものに統一された世界観だけでなく、音楽性も当然の如く彼の持ち味が溢れている。ヴィンテージ感あるソウルはもちろん、R&B、ブギー/ディスコ、ファンク、AORからレゲエまで、さまざまなテイストを披露しつつ進む、良質のソングブックだ。

「僕の曲はどれもいろんなスタイルを採り入れているんだ。“Love Like That”は少しロック寄りでエッジの立ったものだけど、一方ではヒップホップやソウルなどのスタイルを持つ曲でもある。“Fancy Clothes”はレゲエっぽいけど、ロックの影響も強く出ている。でも曲を作るときはあまりジャンルのことは考えていない、っていうのが本当のところ。曲がどんなふうに聴こえるべきかなんてルールは自分に課さず、自由に構えるようにしているんだ。僕の世代の人間はジャンルなんて気にしない人はますます増えてきているし、いろんなスタイルも融合されてきているしね」。

彼の音楽にモータウンやフィリー・サウンドをはじめ、クラシカルなソウルの面影を見い出したくなるリスナーとは裏腹に、特定のサウンドの再現にはこだわっていないという趣旨の発言を以前からしていたメイヤー。ジャンルに囚われることを拒み、あくまで自由に音楽に向き合うことにこそこだわっている。例えばエイミー・ワインハウス以降に多数現れたレトロ・ソウル系アーティストが、みずからのスタイルやディティールを過去の音楽に求めたことで、逆に音楽性そのものが窮屈になることについては思うところがあるようだ。

「誰だって往年の音楽からインスパイアされているものだよね、それは致し方ないことなんだ。不朽の音楽はいつだって新世代のアーティストをインスパイアし続けていくものだと思うし。僕は最近だとテーム・インパラ、ガブリエル・ガルソン・モンターノやアンダーソン・パークを聴いているよ」

テーム・インパラの2015年作『Currents』収録曲“The Less I Know The Better”

ビートルズ直系のポップネスも混ぜてインディー~サイケ・ロックを紡ぐテーム・インパラ、内省的なファンクとネオ・ソウルを聴かせるガブリエル・ガルソン・モンターノ、今後のヒップホップを担う新世代であるアンダーソン・パーク――名前の挙がった3組は、いずれも過去の音楽からの系譜を強く感じさせつつもオリジナルな表現をモノにしたアーティストだ。メイヤーが他のレトロ・ソウル系アーティストにありがちな狭いタコツボにはまらず幅広い層からの支持を受けるのは、往時のソウルのディティールをつぶさに再現しようという求道的なスタンスではなく、ソウルから得たマナーを踏まえつつ自己流の音楽をモダンに提示していることが最大の理由だろう。だからこそ、ただの焼き直しではなく、現代に生きる者のためのソウル・ミュージックとして聴こえるのだ。

カブリエル・ガルソン・モンターノの2015年作『Bishouné: Alma Del Huila』収録曲“Keep On Running”

アンダーソン・パークの2016年作『Malibu』収録曲“Am I Wrong”

シンガーとしての好みや憧れは、「僕らの世代で言ったらビラルがいちばんだと思うね。でも、僕にとってのヒーローはバリー・ホワイトさ! あんなふうに深みのある低音ヴォイスが自分にも出せたらって思うよ!」と無邪気に言うメイヤー。デビュー時はナイーヴでやるせない歌声でスウィート・ソウルを歌っていたものだが、作品を重ねるごとにヴォーカルの強度は増している。今作でもネイト・ドッグのような粘着ヴォイスも披露する“Lingerie & Candlewax”、爽快な楽曲に合わせファルセットを伸びやかに放つ“The Valley”然り、サウンド面ばかりに言及されがちだがヴォーカリストとしてのメイヤーもなかなかの味わいだ。“Cosmic Love”を共作したベニー・シングスや、ブルーノ・マーズなどと並べて賞賛したいポップでストレートな歌い口も幅広い人気の秘訣かもしれない。

バリー・ホワイト“You Are The First, My Last, My Everything”

ベニー・シングスの2015年作『Studio』収録曲、メイヤー・ホーソーンを招いた“Shoebox Money”

今後の活動については「いま、タキシードの次のアルバムの制作に取り掛かっているんだ」と、とても気になることを語ってくれた。メイヤー・ホーソーンの次なる一手を楽しみに待ちつつ、それまでは彼の現時点での最高傑作『Man About Town』を繰り返し愛聴することになりそうだ。

 


メイヤー・ホーソーン来日公演

8月15日(月)、16日(火)@ Billboard Live TOKYO
1stステージ開場17:30 開演19:00
2ndステージ開場20:45 開演21:30
サービスエリア 9,800円 カジュアルエリア 8,300円
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8月18日(木)@ Billboard Live OSAKA
1stステージ開場17:30 開演18:30
2ndステージ開場20:30 開演21:30
サービスエリア 9,800円 カジュアルエリア 8,800円
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〈SUMMER SONIC 2016〉
大阪:8月20日(土)
東京:8月21日(日)
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