コロナ禍の世界で求められたのは4つ打ち?
2020年、新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大によって、クラブやライブハウスは営業が困難になった。ここ日本では少しずつ再開する店が増えてきているものの、先は見通せない状態だ。フロアを沸かすDJ、回りつづけるミラーボール、夜通し踊りあかすオーディエンスたち……。安全なナイトクラビングは、いつになったらできるようになるのだろう?
そんな〈踊れなくなってしまった年〉に軽快な4つ打ちディスコ・ナンバーがいくつもヒットしたのは、なにか意味ありげなことに思えてくる。もしかして、世界の人々は〈コロナのことなんて忘れて思いっきりダンスしたい!〉と思っているんじゃないか、と。
“Dynamite”に“Say So”、ディスコ調のヒット曲
たとえば、説明不要のヒット・ソング、BTSの“Dynamite”。太くうねるベースとヘヴィーなキックが生む力強いグルーヴは、なにものにも代えがたい魅力がある。
“Dynamite”のヒットの理由は、もちろん世界最高のエンターテイナーである7人の魅力があってこそだが、ド直球のダンス・ナンバーだったことも大きいだろう。4つ打ちは、ユニヴァーサルな音楽的言語なのだ。
そして、ドージャ・キャット“Say So”。甘いヴォーカルが魅惑的なこのディスコ・チューンは、全米チャート(Billboard Hot 100)で2位を記録。さらにニッキー・ミナージュが参加したリミックスが1位に輝いたスマッシュ・ヒットだ。インドネシアのレイニッチ(Rainych)による日本語カヴァーも、大いに話題になった(この原稿を書いている時点で、YouTubeにてなんと19,000万回も再生されている)。
もうひとつ例を挙げるなら、デュア・リパの“Don’t Start Now”だろうか。
この曲を含むアルバム『Future Nostalgia』は、80年代のレトロ・フューチャーなカルチャーにオマージュを捧げたものだった。また、同作のリミックス・アルバム『Club Future Nostalgia』は、コロナ禍の世界に架空のクラブを作り上げたことで重要な意味を持っている(マーク・ロンソンが5月に発表した『Love Lockdown: Video Mixtape』も似た試みの作品だった。ちなみに、その両方に星野源が参加している)。
他にも、カイリー・ミノーグの新作はその名も『Disco』だったし、レディー・ガガが『Chromatica』でダンス・ポップに立ち戻ったことも印象的。ジェシー・ウェア『What’s Your Pleasure?』やロイシン・マーフィー『Róisín Machine』のような強力なディスコ・アルバムは、年間ベスト・チャートを賑わせている。そう考えると、松原みき“真夜中のドア〜Stay With Me”が今年世界的なスタンダードになったのも、あのスクウェアなビートの魅力ゆえでは……?
こういったディスコ百花繚乱の状況がポップ・シーンに生まれたのはもちろん、ダフト・パンク『Random Access Memories』(2013年)やマーク・ロンソンとブルーノ・マーズの“Uptown Funk”(2014年)、あるいはウィークエンドの近作などがヒットし、種を蒔いてきたからこそだろう。