〈Sheezus〉は口が悪くて、気まぐれで、ウィットに富んでいて、ファッショナブルで、そして何より退屈を嫌う。こんなポップな女神なら愛さずにはいられないよ!
カニエが〈Yeezus〉なら私は……
カニエ・ウェストからのリアクションはまだないようだが、小うるさい彼もこんなオマージュなら歓迎するんじゃないかと思う。言うまでもなく、カニエのアルバム・タイトル『Yeezus』にちなんで、自身の新作を『Sheezus』と名付けたリリー・アレンの話である。〈Kanye〉と〈Jesus〉をミックスした、ただでさえ不遜な造語を受けて、リリーはその女性版をめざそうというのだ。
「私はいろんな理由からカニエが大好きなのよ。主に音楽が好きだからなんだけど、彼のパーソナリティーによるところも大きいわ。自分の信念を声高に主張し、自分の意見に忠実で、考えを率直に言うことを恐れないから、他の人たちとは一線を画していると思う。彼の信念すべてに同意するかどうかは重要じゃなくて、自分をさらけ出し、あとで起き得る波紋は意に介さないという意味で、カニエが〈Yeezus〉であるなら、私は〈Sheezus〉になりたいの(笑)」。
カニエ・ウェストの2013年作『Yeezus』収録曲“Black Skinhead”
まあ、リリーの作風を知る人なら、この大胆発言にも納得がいくはずだ。家族のこと、恋愛相手のこと、音楽業界や他のアーティストのこと、そして社会全般のこと、題材が何であろうと歯に衣を着せず、徹底した直球トークを展開してきた彼女。結婚と出産を経て5年ぶりにカムバックするにあたり、決意を新たにしているようなところもあるのだろう。ファースト・アルバム『Alright, Still』(2006年)に続いて世界250万枚のセールスを記録した2作目『It’s Not Me, It’s You』(2009年)の発表後、リリーは休業を宣言。イン・ザ・ネーム・オブというレーベルを設立した以外は音楽活動をストップし、田舎暮らしをエンジョイしていたのだが、2012年に入ってまた曲作りを再開することに……。
「曲作りを始めたのは、また書きたいと思ったからっていうだけ。でも、そうやって出来た曲が他人に聴かせるためのものか、それとも自分のためのものかわからなかった。ただ書いてみたのよ。そして2人目の娘が生まれて7〜8か月くらい経った時点で、ある程度の数の曲が仕上がったという手応えを得たから、アルバムとして出すことにしたの」。
そんな経緯でゆっくりと完成に至った3作目『Sheezus』では、前作で全面的にコラボしたグレッグ・カースティンが引き続き大半の曲を彼女と共作し、プロデュースも担当。と同時に、DJダーヒーやシェルバックの参加を得て、エレクトロもR&Bもロックも網羅するカラフルなサウンドを揃え、今回もソーシャル・メディアからラヴまで幅広いネタを舌鋒鋭く論じている。
「私の場合、何について書きたいかというはっきりしたアイデアを持ってスタジオ入りすることはまずないの。自分の周りで起きていることやその日の新聞で読んだことだったり、家族や友達との会話の内容だったり、人や世界にいつもインスパイアされているわ。既成観念によって動かされるのは避けたいし、そうするとわざとらしくなって、新鮮じゃないように感じるのよね」。