ブラック・ミュージック全体が大きな盛り上がりを見せるなか、旬のミュージシャン/バンドの来日公演が続々とアナウンスされており、これから夏にかけて注目のステージが目白押しだ。そんななか、ブランドン・コールマンとキングを中心に注目公演を紹介した特集が好評だったことを受けて、Mikikiではその続編を企画。6月に初来日を果たす、最新作も話題のテラス・マーティンとBJザ・シカゴ・キッド、そして7月に〈フジロック〉への出演とBillboard Liveでの単独公演を予定しているロバート・グラスパー・エクスペリメントの3組を紹介しよう。前回に引き続き、コンピレーション・シリーズ〈Free Soul〉やディスクガイド本「Suburbia Suite」などを通じてアーバン・ミュージックを長年紹介してきた編集者/選曲家/DJ/プロデューサーの橋本徹(SUBURBIA)氏と、〈Jazz The New Chapter〉シリーズで監修を務める音楽評論家の柳樂光隆氏を迎えて、この3組によるステージの観どころや、最近のお気に入りについて語ってもらった。

 

テラス・マーティン
日時/会場
6月1日(水) Billboard Live OSAKA(詳細はこちら)
6月2日(木) Billboard Live TOKYO(
詳細はこちら)

2015年の『To Pimp A Butterfly』をはじめとするケンドリック・ラマーの諸作で重要な役割を果たし、ドクター・ドレーやスヌープ・ドッグといった重鎮にも重用される当代随一のプロデューサー。過去にはLAのジャズ・コミュニティーでカマシ・ワシントンらと腕を磨いただけあり、一流のサックス奏者/マルチ・プレイヤーとしても活躍している。ソロ活動にも精力的で、2016年の最新作『Velvet Portraits』にはグラスパーやカマシ、サンダーキャット、レイラ・ハサウェイやキーヨン・ハロルド、ロナルド・ブルーナーJrなど豪華メンバーが集結。さらに最近では自身がプロデュースしたハービー・ハンコックの新作リリースも控えているというなか、同作を引っ提げて初めて来日公演を行う。

★ケンドリック・ラマー『To Pimp A Butterfly』のコラム記事はこちら

TERRACE MARTIN Velvet Portraits Sounds Of Crenshaw/Ropeadope(2016)

 

柳樂光隆「『To Pimp A Butterfly』では、ジャズ・ミュージシャンが多数参加していたのが大きなトピックだったわけですが、その仕掛け人がテラス・マーティンだったと。ちなみに、テラスとグラスパーは高校時代にジャズ・キャンプで知り合って以来の仲らしいです」

2016年3月に行われた、テラス、グラスパー、ハービー・ハンコック、サンダーキャットのセッション映像

 

橋本徹「僕とテラス・マーティンの出会いを振り返ると、『3ChordFold』というアルバムが2013年8月にリリースされているんだけど、ちょうどその時期に、『Suburbia Suite』※のスピンオフで、僕のコンピ『Free Soul~2010s Urban-Mellow』のタワーレコードでのCD購入特典として『Suburbia Suite presents Free Soul Perspective 2013』というディスクガイドを製作していたんだよね」

※橋本が編集を手掛け、渋谷系など90年代以降の音楽シーンに多大な影響を及ぼしたディスクガイド

柳樂「ああ、話題になりましたよね!」

橋本「で、原稿を頼んだ国分純平くんとどの作品を書いてもらうか打ち合わせをしているときに、〈テラス・マーティンいいよね〉って意見が一致したのをよく覚えてる。『3ChordFold』は西海岸らしいレイドバックした感じが際立っていて、アーバンなんだけど、そこがNYとはまた違って好きだった。それから2014年の初頭に作った『Free Soul~2010s Urban-Groove』でケンドリック・ラマーをフィーチャーした“Triangle Ship”を、同年の秋にリリースした『Free Soul~2010s Urban-Sweet』で、キングのくだりでも話したように、クインシー・ジョーンズと一緒にカヴァーした“I Can't Help It”をそれぞれ収録させてもらったと」

柳樂「『3ChordFold』は、いま思えば『To Pimp A Butterfly』の伏線にも感じられる作品ですよね。グラスパーを語るうえでハービー・ハンコックとJ・ディラの存在が欠かせないのと同じように、テラス・マーティンの中心にあるのはクインシーとスヌープ・ドッグかなと。東海岸と西海岸の違いというか」

橋本「『3ChordFold』はグラスパーの『Black Radio』とケンドリックの『To Pimp A Butterfly』を結ぶ存在というだけで重要だけど、テラスはかなり西海岸っぽいよね」

柳樂「そう、ウェッサイだしGファンク色が強い。彼はもともと、カマシやサンダーキャット、ロバート・スパット・シーライト(スナーキー・パピー)などと一緒にスヌープのバンドに参加していた経歴の持ち主ですし」

テラスがプロデュースした、スヌープ・ドッグの2004年作『R&G(Rhythm & Gangsta): The Masterpiece』収録曲“Ups & Downs”

 

橋本「僕の音楽地図の中では、東のグラスパーに対して西のテラスという構図はすごく感じるな。ジャズに精通しているけどヒップホップ育ちというのも共通項だし」

柳樂「グラスパーがNYの街角でラジオから流れてくる音楽だとしたら、テラスはLAの道路を車で突っ走りながら聴くものというか。2人は出自も似ていて、テラスは父親がジャズ・ドラマーで(『Velvet Portraits』にも参加)、母親がゴスペル・シンガーなんですけど、グラスパーの母親もプロのゴスペル歌手なんですよ。だから音楽的なルーツもほとんど一緒」

橋本「昨今のブラック・ミュージックにおける理想的な生い立ちだよね。あとは両者共に〈慕われてる感〉がすごくあるんだよな。プロデューサーとしては音楽的な貢献が見えづらいところもあるんだけど、クインシーと同じように、テラスやグラスパーの周りからいくつも名盤が生まれているもんね」

柳樂「テラスと一般的なヒップホップ・プロデューサーとの違いは、やっぱり音楽的な素養じゃないですか。今年の4月末に、オバマ大統領がホストを務めた〈International Jazz Day〉のオールスター・グローバル・コンサートがホワイトハウスで開催されたんですけど、テラスはそのときグラスパーのバンドに参加していたんですよ。そのコンサートには渡辺貞夫さんも出演していたんですけど、〈俺は貞夫さんのことを尊敬している〉ということを伝えるために、渡辺さんのもとへテラスが駆け寄っていったそうです。彼はジャズの教育を積んだミュージシャンだから、チャーリー・パーカーがいて、ジャッキー・マクリーンがいて、渡辺さんがいて、ケニー・ギャレットがいて……みたいなサックス奏者の系譜もしっかり把握している。だからこそ、(『To Pimp A Butterfly』収録曲の)“For Free”でグラスパーに〈ケニー・カークランドみたいに演奏してほしい〉という指示を出すことができた」

橋本「ケニー・カークランドは、スティングの『Dream Of The Blue Turtles』(85年)にも参加していたよね。ジャズ以外の作品に、ジャズのオールスター・ミュージシャンが関わったという意味では、あれは『To Pimp A Butterfly』にも通じるところがある」

柳樂「あとはなんと言っても、ウィントン・マルサリスとの共演でしょう。彼がジャズを通じて表明してきた〈Black Lives Matter〉の元祖とも言えるメッセージ性を、テラスは『To Pimp A Butterfly』にも宿したかったわけですよね」

〈TPAB〉収録曲“For Free”。MVの冒頭でサックスを吹いているのがテラス
ケニー・カークランドが参加した、ウィントン・マルサリスの83年のライヴ映像

 

橋本「話を戻すと、『3ChordFold』は〈『Black Radio』に対する西海岸からの回答〉という印象を当時受けたんだよね。さっき話した“Triangle Ship”で、ボビー・コールドウェルの“What You Won't Do For Love”をサンプリングしているところにも顕著だけど」

柳樂「LA産のアーバン・ミュージックという感じがしますよね。『Velvet Portraits』はどうでした?」

橋本「『3ChordFold』よりも幅の広い作品だよね。特に好きだったのは、カマシが参加した“Think Of You”。あとは2曲目の“Valdez Off Crenshaw”で、“Valdez In The Country”を使っていたのにも好感を持ったな。ダニー・ハサウェイによるコールド・ブラッドでも人気のフリー・ソウル・クラシックを、肩の力を抜いてリメイクしたような感じで。そして、ポイントになるのは最後の“Mortal Man”。『To Pimp A Butterfly』でも最後に収録されていたナンバーで、この2枚はほぼ同時期に制作されていたそうだけど、テラスはこういうふうにアンサーやオマージュを用意することで、音楽を発想していく人なんだろうな」

柳樂「ア・トライブ・コールド・クエストに捧げた“Tribe Called West”なんて曲も入ってますしね。僕が思ったのは、『Velvet Portraits』と『Black Radio 2』を並べてみると良さそうだなと。『Black Radio 2』はグラスパーがゴスペルの出自を全面的に出した作品でしたけど、『Velvet Portraits』にもゴスペル・シンガーを起用した曲がいくつも収録されているし、それはダニー・ハサウェイの引用とも繋がってくる」

橋本「今回の来日公演には、アナ・ワイズも参加するんだよね。彼女はソニームーン(Sonnymoon)の一員で、最初のアルバム『Golden Age』(2009年)はすごく好きだったな。ドレイク“Houstatlantavegas”のカヴァーもかなり素晴らしかったし、ケンドリック・ラマーの『Good Kid, M.A.A.D City』(2012年)や『To Pimp A Butterfly』でも重要な役割を果たしているし、そう考えると全部繋がっている」

アナ・ワイズが参加した〈TPAB〉収録曲“These Walls”

 

柳樂「マーロン・ウィリアムズ(ギター)とブランドン・オーウェンズ(ベース)も『To Pimp A Butterfly』の参加メンバーだし、新進気鋭の若手ドラマーであるジョナサン・バーバーにも注目してほしいですね」

橋本「テラスが連れてくるんだから、まだ日本ではそれほど知られていないミュージシャンのショウケースとしても楽しめそう。クインシーがそうだったように、彼の審美眼に適ったアーティストを連れてくるはずだから」

キーヨン・ハロルドとアナ・ワイズが参加した、2016年4月のライヴ映像

 

BJザ・シカゴ・キッド
日時/会場
6月11日(土) Billboard Live OSAKA(詳細はこちら)
6月13日(月) Billboard Live TOKYO(詳細はこちら) 

84年生まれ、そのステージ・ネームが示す通りにシカゴ出身であるBJザ・シカゴ・キッドは、2016年現在もっとも注目を集めるソウル・シンガーと言っても過言ではない。長い下積みを経て、2012年にファースト・アルバム『Pineapple Now-Laters』を発表。その後、名門モータウンとの契約を勝ち取り、今年ついに待ち望まれたメジャー・デビュー作『In My Mind』をリリースした。ドクター・ドレーの復活作『Compton: A Soundtrack』(2015年)を筆頭に、若手/大御所を問わず話題作に多数フィーチャーされてきた彼の最新作には、ケンドリック・ラマーやチャンス・ザ・ラッパーなど現行のトップ・ラッパー陣が集結。今日的なリズムからオーセンティックなソウルまで自在に歌いこなすユニークな才能がいよいよ初来日を果たす。

★BJザ・シカゴ・キッド『In My Mind』のコラム記事はこちら

BJ THE CHICAGO KID In My Mind Motown(2016)

 

橋本「個人的にはアンダーソン・パックと並んで、今年いちばん語ることが多いのはBJザ・シカゴ・キッド。彼はここ数年でいいなと思った作品に、軒並み参加しているんだよね。ドレーの〈Compton〉もそうだし、チャンス・ザ・ラッパーとも密接に関わっていて、去年リリースされたアルバムのなかでは(チャンス・ザ・ラッパーも一員である)ダニー・トランペット&ザ・ソーシャル・エクスぺリメントの『Surf』(2015年)がいちばん好きなんだけど、そこにも参加していたしね」

BJが参加した、ダニー・トランペット&ザ・ソーシャル・エクスぺリメントの2015年作『Surf』収録曲“Slip Slide”

 

柳樂「チャンス・ザ・ラッパーといえば、新しいミックステープ『Coloring Book』にもBJザ・シカゴ・キッドは参加していましたよね」

橋本「うん、チャンスの新作はホント最高だったよね。BJは昨年もスラム・ヴィレッジ『Yes!』やジョーイ・バッドアス『B4.Da.$$』など、ヒップホップ系の話題作でも引っ張りだこだったし、一方でジル・スコットの『Woman』でもいい働きを見せていたりと、フィーチャーのされ方も多彩だよね。彼は今回のアルバムの前に『The M.A.F.E. Project』(2014年)というトークボックスを多用したミクステを発表していて、どの収録曲もいいんだけど、なかでもアリーヤ“One In A Million”のカヴァーとかメチャクチャ素晴らしい」

BJが参加した、ジョーイ・バッドアスの2015年作『B4.Da.$$』収録曲“Like Me”

柳樂「こういうアーティストは最近いなかったですよね。正統派の〈R&Bシンガー感〉もすごくあるし、ビラルやドゥウェレに通じるネオ・ソウルのマナーも兼ね備えていたり、とにかく何でもできるって感じ。オールド・スクールな雰囲気も心得つつ、ノスタルジーには傾きすぎない。そういうバランス感覚も魅力だと思います」

橋本「だから各方面から求められるんだよね。彼が客演してきた作品を辿っていけば、近年の重要作を集めたガイドが出来上がりそうなくらい」

柳樂「ジャズで言うと、一時期のグレッチェン・パーラトに近い立ち位置というか。どんな曲でも歌いこなせるし、起用されたトラックの文脈を理解する能力にも長けている」

橋本「それこそ、BJの作品にも参加しているケンドリック・ラマーとチャンス・ザ・ラッパーは、現代のヒップホップにおける最重要人物だからね。そういう人たちが自身のアルバムに集まっていることが、シーンで愛されている何よりの証拠じゃないかな。2016年に入ってから、アンダーソン・パックの『Malibu』でコラボしていたのも象徴的だし。あのアルバムはホントに名曲揃いだけど、僕はマッドリブがプロデュースした3曲目の“The Waters”がいちばん好きで、まさしくBJが参加しているナンバーだけど、95年にディアンジェロの“Brown Sugar”を初めて聴いたときの感覚を思い出したな。もしあの当時、アンダーソン・パックが“The Waters”でデビューしていたら、ディアンジェロと同じくらい騒がれていたかもしれないと思ったくらい」

アンダーソン・パックの2016年作『Malibu』収録曲“The Waters”

 

柳樂「アンダーソン・パックのアルバムは確かに最高でしたよね」

橋本「大好き! ほとんど全曲好き(笑)。ちなみに、2016年に発表された曲でお気に入りを2つ選ぶとすれば、さっきの“The Waters”と、BJのアルバム『In My Mind』の最後に収録された“Turnin' Me Up”だね。両方ともBJ絡み」

柳樂「“Turnin' Me Up”は、松尾潔さんもご自身のラジオ番組(『松尾潔のメロウな夜』)でプレイしていましたね。〈ディアンジェロへのリスペクトを感じる〉と紹介しつつ」

橋本「実際にBJは、ディアンジェロにトリビュートを捧げたカヴァーも発表しているし、もっと言えばマーヴィン・ゲイだよね。ソウル・ミュージックの歴史を考えたときに、70年代にマーヴィン、90年代にディアンジェロがいて、〈じゃあ2010年代は?〉と訊かれたら、僕はさっきの2曲を差し出したい。それくらい好きだし、歴史的な意味も大きい曲だと思う」

"Always In My Hair"、"Send It On"、"Untitled (How Does It Feel)”をカヴァーした、BJによるディアンジェロ・トリビュート動画

 

柳樂「『In My Mind』はアルバム全体ではどうでした?」

橋本「これまでの客演歴を踏まえて、もう少し現代的な作りになると予想していたんだけど……」

柳樂「オープニングの“Intro (Inside My Mind)”は、いかにもそういう感じのトラックですよね」

橋本「でも中盤以降は、クラシック・ソウルというかヴィンテージ感が強調されて、歌を聴かせる方向になっていくじゃない。そこもおもしろかった。ケンドリック・ラマーをああいう曲(“The New Cupid”)でフィーチャーするのも珍しいよね。〈え、スロウかよ〉みたいな(笑)。だから、BJは昔ながらのソウル好きにも受け入れられると思うな。アンダーソン・パックの作品はヒップホップ寄りだけど、彼だったらそういう人たちもいけるというか」

柳樂「歌唱力は抜群だし、ヴォーカルの扱い方も斬新なんですよね。メロディーを思いきり歌いこなすことも、自分の声をリズムとして機能させることもできる。そこは新世代らしいと思うし、これはライヴ映えしそうですね。ホントに歌が上手い」

橋本「BJはシンガーだから、(ライヴの充実度は)バック・バンド次第なところもあるけど、歌声の持っている力が圧倒的に素晴らしいからね」

柳樂「『In My Mind』のクォリティーを考えたら、ライヴも期待しないわけにはいかないですよ。どんな人でも安心して浸れる、イイ感じのムードを満喫できそう」

橋本「それをBillboard Liveで観られるのもすごいよね。ここを逃すと、マックスウェルみたいにずっと観れないなんてことも(笑)」

柳樂「このあと本国で一気にブレイクする可能性もあるので、いまのうちにステージ近くで観ておいたほうがいいと思います」

 

ロバート・グラスパー・エクスペリメント
7月20日(水)~21日(木)Billboard Live OSAKA(詳細はこちら)
7月25日(月)~27日(水) Billboard Live TOKYO(詳細はこちら)
7月24日(日)〈FUJI ROCK FESTIVAL'16〉(詳細はこちら)

ジャズの革新を背負うアイコンが、最強のライヴ・バンドであるエクスペリメントを率いて再来日を果たす。昨年は原点であるピアノ・トリオの可能性を追求した『Covered』をリリース。そして、マイルス・デイヴィス生誕90年にして没後25年のメモリアル・イヤーとなる今年は、マイルス初の自伝的映画「マイルス・アヘッド」に音楽監督の一人として携わり、新たにグラスパーが作曲したオリジナル曲を含むサウンドトラックを発表(日本公開は12月予定)。さらにもう一枚、マイルスの音源にグラスパーが斬新な解釈を施した『Everything's Beautiful』も5月25日に日本先行リリースされる。ここ数年で目覚ましい盛り上がりを見せる現代ジャズの代名詞であるグラスパーは、ライヴの実力も折り紙つき。今回は単独公演に加えて、待望の〈フジロック〉出演も決定しており、快進撃はまだまだ続きそうだ。

★グラスパーがマイルス関連作を語るインタヴュー記事はこちら

MILES DAVIS,ROBERT GLASPER Everything’s Beautiful Sony Music Japan International(SMJI)(2016)

 

柳樂「グラスパーにまつわる最近のトピックといえば、(エクスペリメントのメンバーである)マーク・コレンバーグとKCベンジャミンが、日本のビールのCMに参加していたんですよ(詳細はこちら)」

橋本「ナイス! そして、いまグラスパーを語るうえで欠かせないのは『Everything's Beautiful』だろうね。トリビュートの概念を覆したというか、新しい形を示したというか。普通だったらカヴァーとかオマージュ曲を用意して、アーティストに敬意を表するところを、グラスパーはほとんど新曲とも言えそうな作品を用意してきた。キャスティングも完璧だよね。エリカ・バドゥ、フォンテ、ビラル、ローラ・マヴーラ、ハイエイタス・カイヨーテ、キング、ジョージア・アン・マルドロウ、レディシ……。そういった現代のシーンを代表する才能から、スティーヴィー・ワンダーやジョン・スコフィールドのような大物まで集結させている」 

柳樂「『Everything's Beautiful』は、カヴァーやリミックスではなくて〈再創造〉を謳った作品だけあって、発想としてはどちらかというと共演/共作に近い。それで、マイルスのオリジナル録音から制作しているんだけど、使っているのは演奏よりも歌詞が中心なんですよ。レコーディング中に喋っていた発言のアウトテイクを盛り込んで、マイルスの生涯を歌詞に採り入れている。だから、日本盤で歌詞をしっかり把握したほうが楽しめる作品だと思います」

橋本「代表作を再現するとか、そういう発想じゃないもんね。マイルスのエッセンスみたいなものを起点に、自分のアルバムを作っているのに近いというか」

柳樂「ビートも抜いてはいるんだけど、どこから抜いたか露骨にわかりそうな(目立つ)箇所は使っていなくて」

橋本「使っている曲もさすがだよね。いわゆるジャズのジャーナリズムでは見過ごされてきたけど、〈ここだよね!〉という箇所を見事に引っ張っている。それにまず感激したかな。最初に公開された“Ghetto Walkin'”が『The Complete In A Silent Way Sessions』※から作られていたから、いきなり感動して。その次に公開された“Violet”も『Kind Of Blue』(1959年)の“Blue In Green”で〈そこを使うのかよ!〉みたいな(笑)。そういうのがいくつもあって」

※69年作『In A Silent Way』の前後におけるセッションを収めた3枚組ボックス・セットで、2001年にリリースされた 

柳樂「今回の来日では、グラスパーとマーク・コレンバーグ、KCベンジャミンにアール・トラヴィス3世というお馴染みの顔ぶれに加えて、DJサンダンスというメンバーが参加しているんですよ。正式な情報がまだ届いてないので、これは予想というか希望的観測に近いんですけど、『Everything's Beautiful』のリリース後にライヴをすることを踏まえて、もしかしたらマイルスの声ネタをDJで採り入れたいのかなと」

橋本「なるほど、それはDJを入れる必然性もあって、プレゼンテーションとしてスマートなやり方だよね。今回のアルバムは、『Black Radio』ならぬ〈マイルス・レディオ〉とも言えそうな(グラスパーらしい)アーバン・ミュージックな仕上がりだったし、ライヴでもぜひプレイしてほしいな」

DJサンダンスが参加した、約2時間のライヴ映像。ドレイク“Hotline Bling”もカヴァーしている

 

柳樂「前回の来日は『Covered』に合わせてのトリオ編成だったし、エクスペリメントとしての活動は1年間くらい離れていたわけだから、ライヴにも何らかの変化はありそうですよね」

橋本「間にトリオでのライヴを挿んだことで、きっとエクスペリメントのライヴに対する本人の欲求も高まっているよね。彼らがどう進化しているのか、そこにやっぱり注目するべきじゃないかな」

柳樂「グラスパーの新作も控えているという噂もあり、何かしら新しいモードを用意してくるのではないかと。最近は毎年欠かさず来日しているグラスパーですけど、DJのように曲をシームレスに繋いでいくエクスペリメントの演奏は、生で体感しなければ伝わらない迫力があると思いますね。〈セットリストは作らないし、俺たちは偶然性を大事にしている〉と本人も語っている通り、選曲や展開を毎回変えてくるし、生き物のようなインプロはいつだってスリリング。縦横無尽に叩きまくるマークのドラムスなど、今回も見どころは盛りだくさんだと思います」

 


今回取り上げたアーティストのほかにも、5月末はエスペランサ・スポルディングの単独公演が控えており、6月にはスナーキー・パピーが、〈フジロック〉ではグラスパーに加えて、カマシやジ・インターネットもやってくる。さらに、マックスウェルの初来日も8月に決定したばかりだ。ビッグ・リリースも連続しているブラック・ミュージックの活況を2人がどのように捉えているのか、最後に訊いてみた。

橋本「この間、最近の新譜についてまとめて原稿を書いたばかりなんだけど、ここ数か月は本当にすごいね(笑)。そういえば、マーカス・ストリックランドは来日しないのかな?」

柳樂「ブルー・ノートからのデビュー作『Nihil Novi』が大変なことになってましたね。プロデューサーがミシェル・ンデゲオチェロで、グラスパーやBIGYUKI、ピノ・パラディーノにクリス・デイヴ、キーヨン・ハロルドも参加していて、年間ベストに入れるべき一枚だと思います」

橋本「同感! あれはかなり好きなアルバムだよ。やっぱり年間ベストに入ってくるだろうな」

マーカス・ストリックランドの2016年作『Nihil Novi』のトレイラ―

 

5月25日にリリースされるBIGYUKIのニュー・アルバム『GREEK FIRE』収録曲“Paradise Descended”

 

柳樂「黒人ではないけど、ジェイムスズーにニーデラスと、ブレインフィーダーからの新作も充実してました」

橋本「カルロス・ニーニョ&フレンズも最高だったな。ミゲル・アトウッド・ファーガソン、ネイト・モーガン、デクスター・ストーリー、ヤソスに、マッドリブやカマシ・ワシントンまで参加していて。ミゲルは〈WORLDWIDE SESSION〉でのライヴも素晴らしかった」

カルロス・ニーニョ&フレンズの2016年作『Flutes, Echoes, It's All Happening!』収録曲“Flutes, Echoes, It's All Happening!”

 

柳樂「あとは、グラスパーがコモンの新作を一緒に作ってるんですよね。カリーム・リギンスがビートを手掛けているらしくて」

橋本「ケイトラナダのファースト・アルバム『99.9%』にもカリームは参加していたよね。あのアルバムも最高で、特にカリームらしい“Bus Ride”は大好きだな。ケイトラナダはハイチ生まれのモントリオール育ちなのに、アンダーソン・パックやジ・インターネットみたいなLAの人たちと繋がっているところもおもしろい。J・ディラがデトロイトからLAに移って、ジェイリブや『Donuts』、『The Shining』を生み出したのと少し近い感じなのかもしれないね。ディラは幻のラップ・アルバム『The Diary』も出たばかりだけど」

柳樂「コリーヌ・ベイリー・レイも新作のレコーディングでイギリスからLAに渡ったんですよね。ピノ・パラディーノやエスペランサ、キングが参加していて、すごくいいアルバム」

橋本「うん。ビヨンセの『Lemonade』にもケンドリック・ラマーが参加していたけど、そこでもフィーチャーされていたジェイムズ・ブレイクの新作『The Colour In Anything』がこれまた良かった。ジョー・クラウゼルやルイ・ヴェガとかハウスのアルバムも絶好調だし、こんなふうに、ここ1~2か月の間にも名盤が数多く生まれて、コネクションの輪もどんどん広がっている。チャンス・ザ・ラッパーは言うまでもなく、ドモ・ジェネシスのソロ・デビュー作『Genesis』も最高だったし、フランク・オーシャンの新作も年内に出るんだよね? 本当に楽しみだなぁ」

アンダーソン・パックが参加した、ドモ・ジェネシスの2016年作『Genesis』収録曲“Dapper”

 

テラス・マーティン
【大阪公演】
日時/会場:6月1日(水) Billboard Live OSAKA
開場/開演:
1stステージ:17:30/18:30
2ndステージ:20:30/21:30
料金:サービスエリア/8,500円 カジュアルエリア/7,500円
★公演詳細はこちら

【東京公演】
日時/会場:6月2日(木) Billboard Live TOKYO
開場/開演:
1stステージ:17:30/19:00
2ndステージ:20:45/21:30
料金:サービスエリア/8,500円 カジュアルエリア/7,000円
★公演詳細はこちら

 

BJザ・シカゴ・キッド
【大阪公演】
日時/会場:6月11日(土) Billboard Live OSAKA
開場/開演:
1stステージ:15:30/16:30
2ndステージ:18:30/19:30
料金:サービスエリア/8,900円 カジュアルエリア/7,900円
★公演詳細はこちら

【東京公演】
日時/会場:6月13日(月) Billboard Live TOKYO
開場/開演:
1stステージ:17:30/19:00
2ndステージ:20:45/21:30
料金:サービスエリア/8,800円 カジュアルエリア/7,300円
★公演詳細はこちら

 

ロバート・グラスパー・エクスペリメント
【大阪公演】
日時/会場:7月20日(水)、21日(木) Billboard Live OSAKA
開場/開演:
1stステージ:17:30/18:30
2ndステージ:20:30/21:30
料金:サービスエリア/9,800円 カジュアルエリア/8,800円
★公演詳細はこちら

【東京公演】
日時/会場:2016年7月25日(月)~27日(水) Billboard Live TOKYO
開場/開演:
1stステージ:17:30/19:00
2ndステージ:20:45/21:30
料金:サービスエリア/9,800円 カジュアルエリア/8,300円
★公演詳細はこちら 

7月24日(日)〈FUJI ROCK FESTIVAL'16〉
★詳細はこちら

 


PROFILE
橋本徹(SUBURBIA)
編集者/選曲家/DJ/プロデューサー。サバービア・ファクトリー主宰。渋谷の「カフェ・アプレミディ」「アプレミディ・セレソン」店主。『Free Soul』『Mellow Beats』『アプレミディ』『ジャズ・シュプリーム』『音楽のある風景』『Good Mellows』シリーズなど、選曲を手がけたコンピCDは290枚を越える。USENで音楽放送チャンネル「usen for Cafe Apres-midi」「usen for Free Soul」を監修・制作。著書に「Suburbia Suite」「公園通りみぎひだり」「公園通りの午後」「公園通りに吹く風は」「公園通りの春夏秋冬」などがある。
http://apres-midi.biz
http://music.usen.com/channel/d03/

柳樂光隆
79年、島根・出雲生まれ。ジャズとその周りにある音楽について書いている音楽評論家。「Jazz The New Chapter」監修者。CDジャーナル、JAZZJapan、intoxicate、ミュージック・マガジンなどに寄稿。カマシ・ワシントン『The Epic』、ブランドン・コールマン『Self Taught』、エスペランサ・スポルディング『Emily's D+Evolution』、テラス・マーティン『Velvet Portraits』ほか、ライナーノーツも多数執筆。