コモン、グラスパー、BIGYUKIらが参加。自らリード・ヴォーカルにも挑戦したトランペッターの野心作。
ビヨンセ、ジェイ・Z、エミネム、ディアンジェロ、マックスウェル、キース・リチャーズらと共演/録音歴のある、LA在住のトランペッター/コンポーザー、キーヨン・ハロルド。17年のソロ作『ミュジシャン』では、ジャズもヒップホップもゴスペルも同一線上に捉えた柔軟なセンスが全開となり、一躍シーンの最前線に躍り出た。約6年ぶりとなるニュー・アルバム『Foreverland』は、「愛、平和、理解」といったテーマを彼なりに咀嚼し、「テクニカルなことにこだわりすぎず、聴き手のソウルに響くもの」を目指し、作られたという。
ゲストには、グラミー賞受賞アーティストのコモン、ロバート・グラスパー、PJモートン、ジーン・ベイラー、ローラ・マヴーラ、マラヤ、クリス・デイヴ、BIGYUKI等が名を連ねている。みな、一線級のミュージシャンであるのは勿論、キーヨンにとって気のおけない「仲間」たち。なんでも、グラスパーとはキーヨンが15歳の時からの友人。コモンは初めてキーヨンをプロのツアーに連れて行ってくれた恩人だという。
「今回、アルバムの制作はひとまず置いておいて、パンデミックでしばらく会えなかった仲間たちと音楽を鳴らしてみることから始めたんだ。まずはセッションをして、音を楽しむ。レコーディング以前に、コラボレーションを試してみるっていう感覚というか。それが徐々に制作に繋がっていった。最初、アルバムのタイトルは『Melancholy Aura』だった。皆に会えない寂しさが募っていたからね。でも、ローラ・マヴーラが歌ったタイトル曲で、彼女が希望や愛を感じさせる歌声を聴かせてくれて、タイトルが変わったんだ」
様々な音楽的エレメントが交錯する本作だが、散漫な印象はまったくない。そもそもキーヨンは、レディオヘッドやビョークからフェラ・クティ、ジョン・コルトレーン、フリート・フォクシーズまで、幅広い音楽を愛聴しており、ストレートアヘッドなジャズも尖鋭的なヒップホップも好む。ゆえに「折衷的でありながら、一貫性のあるものを作りたかった」というキーヨンの発言通りのアルバムに仕上がっている。
「内なるひらめきを大事にしているんだ。その中には当然、過去に聴いてきた様々な音楽がある。ニューオーリンズの伝統料理のガンボのように、優れた素材がたくさん入ったおいしいシチューみたいな音楽を作りたい。ロックだけ、ジャズだけ、そういうことじゃない。クインシー・ジョーンズが、音楽には良いものと悪いものしかないと言っていたけれど、良いものだけをコネクトさせたい。その意味で、自分はキュレーターだと思っている。時間をじっくりかけて良い音楽だけをひとつにまとめて、リスナーに伝える。そのために、これまでの経験を全部投入したつもりだ。ローリン・ヒル、エリカ・バドゥ、リアーナ。そういう人たちと共演してきた経験もね」
筆者が以前キーヨンに取材した際、彼は「ジャズならではの即興も好きだけど、僕はなによりもメロディを大事にしている」と言っていた。それは本作でも変わらない。キャッチーで印象的な旋律が作中に横溢している。
「子守歌であれアンセムであれ、すぐに分かるのはメロディだよね。リスナーの心のコアに訴えて、最後に残るのはメロディ。ティンパンアレイの作曲家たちの名曲も、まず頭に浮かぶのはメロディだと思う。今回のアルバムでも、メロディはキングでありクイーンであるんだ」
メロディといえば、キーヨンがリード・ヴォーカルも取っていることが、本作の最大のトピックだろう。
「曲を自分の歌でリードするのは初めてに近いから、すごくスペシャルなことだった。僕自身の素直な気持ちをこめるためには、僕自身が歌ってもいいんじゃないかなって思ったんだ。思い切って、勇気を振り絞って挑戦してみた。これまでは、自分の思ったことを人に表現してもらっていたけれど、今回はそれを自分でやってみた。自分にとってすごく大きな一歩だと思うよ」
キーヨン・ハロルド(Keyon Harrold)
18歳でファーガソンを離れ、ニューヨークのニュースクール・ジャズ&コンテンポラリー・ミュージック・スクールに入学すると、すぐにコモンと初めて仕事をすることになり、ホワイトハウスでの特別なNPRタイニーデスク・コンサートに参加した。2015年に公開されたドン・チードル監督によるマイルス・デイヴィスの伝記映画「マイルス・アヘッド」でのトランペット演奏が高く評価され、2009年の『Introducing Keyon Harrold』でリーダー・デビューを果たす。ジェイ・Z、ビヨンセ、ナズ、リアーナ、エミネム、エリカ・バドゥ、ディアンジェロなど、数多くのツアーやレコーディングに参加してきた実績を持つ。