記録破りの先にある、ぶっちぎりの新しいスタンダード。枠の外へ飛び出し、予想の上の上を行く進化を見せた『Outside the Frame』は、ゲームのルールすら書き替える創造性と強さに満ちている!!
「〈AKLOって、メジャー行ってキャッチーな感じになるんでしょ?〉って思ってた人には、ごめんなさいかもしれませんね(笑)。いやいや、キャッチーだよ、俺の中では。超ダンス・ミュージックだし」。
自信満々にニュー・アルバムを説明するAKLO。彼自身についての説明はもう不要だろう。前作『THE ARRIVAL』(2014年)以降、ひと頃のような客演ラッシュは落ち着く一方、そのぶん久保田利伸からMINMI、倖田來未に至るまで(いわゆる)メジャーなコラボ露出は増加。今年に入ってからは満を持して自身のメジャー・デビューを発表し、この春にはKREVAの音楽劇「最高はひとつじゃない 2016 SAKURA」に出演するという新しい挑戦もあった。そんななかで通算3作目となるアルバム『Outside the Frame』が登場したわけだが、冒頭の発言における字面だけを見てある種のティピカルな何かを思い浮かべた人も、ある種の作法を心得ている人も、アルバムの中身に触れてブッ飛ばされていただきたい。SALUも交えて幻想的な音世界を漂泊する先行配信曲“We Go On”や、世界クラスで活躍する日本のプロeスポーツ・チーム(プロのゲーマー集団)=DetonatioN Gamingと闘うMVも話題のストロングなリード・トラック“McLaren”にてその一端は明かされていたものの、グッと入り込んでくるトータルの迫力とスキルフルなフロウの聴き心地は、彼がまた一段上の上に到達したことを痛感させるものだ。
ソウルを吹き込みたかった
――アルバムは2年弱ぶりということで、思ったよりも空いた印象があります。
「言い訳になりますけど……そうですね。前のアルバムを出した年末にはもう作りはじめてたんですよ。ただ、時間が経つと曲が古くなるんで、結果的に入ってるのは直近の曲だけになりました。単に時間がかかったというより、時間をかけただけチャレンジングだったし、進化したと思ってます」
――アルバムの表題が全体のテーマになっている雰囲気ですけど、これは同名曲が先にあった?
「曲が先です。これはめちゃくちゃ怒ってる曲なんですけど、自分でも間違ったことを言ってる気がしたんですよね。わかり合えなければ〈一生敵でもいい〉って考えは人間的にもおかしいんだけど、客観的な正しさは置いといて、それは強さでもあって。やりたいことを実現しようとしたり、エゴを通していくと敵は増えるから。もともと〈なんかコイツ間違ってんな~〉っていう曲が好きなんですけど(笑)、それができたと思っていて。今いる場所に辿り着くまで何度も〈I don't give a fuck〉って強い気持ちにならないといけない瞬間はいっぱいあったし、自分が経験してきた感情はリアルなんで、そういうアルバムになっていきましたね」
――この曲が出来てアルバムの方向性が定まっていった、ってことは最初のほうに出来た曲ということですね。
「そうなります。初めはとにかくこの曲が自分で気に入っちゃったんですね。そこから、〈枠〉って自分の頭の中にもあるし、社会ってのもそうだし、インターネットのブラウザとかもそうだし。なんか〈枠の外で〉っていうことにフォーカスした時期で、実際にインターネットをあんまりしなくなったり、そういう意味でタイトルがしっくりきて、いろんな部分で〈Outside the Frame〉っていうことを意識してました」
――プロデュースは変わらずBACHLOGICとJIGGの二人ですけど、今回は全曲OYWM名義でクレジットされてますね。
「トラックはすべて2人の共作です。カニエとか、最近って1曲にいっぱいプロデューサーが並ぶじゃないですか。そんな感じで、1人のアイデアでトラックを完結させずに共同でやろうと。それで今回はうちらで3~4泊の合宿みたいなのを何度かやって、共同作業で作ったんです」
――3人で合宿したんですか?
「一つ屋根の下で(笑)。初めてなんですけど、おもしろかったしスピーディーでした。例えば“サーフィン”だったら、〈いまから来る大きな波をいちばん乗りこなすのは俺だ〉みたいなことをサーファーのスタンスで書きたいっていうアイデアまでは事前にあって、それを合宿の場で伝えて。そしたらこういうのは?って2人が作りはじめて、それでワン・ループ貰って、俺はリリックを書きはじめて、ループを展開させてる間に横で俺は書き上げて、フックまで出来たけどどう?って合わせて録ってみたり……」
――本当にリアルタイムなセッションみたいな感じで。これまではデータをやりとりしてっていう感じだったんですよね?
「基本そうでした。今回はもうリアルタイムで〈まだ書けてないの?〉とか言われちゃったりして、トラック作んの早くない?って(笑)。逆に俺が追い越して、書いたものをビートジャックで聴かせたり」
――そもそも、なぜ合宿だったんですか?
「なぜ今まで気付かなかったんだろうって思うんですけど……曲って別に物語を完結させることとか結論を出すのが目的じゃなくて、そのフィーリングやムードを伝えればいいんだって気付いたんですよ。そうなると、時間をかけるほどそのフィーリングがなくなった状態で書いたり録ったりしなきゃいけなくなるより、一個の気持ちのままバチッと完成させたいって思ったんですね。同じ気持ちで4曲作ってもいいと思うし。それで俺から提案したんです」
――曲ごとの雰囲気やリリックが繋がってるというか、全体に統一感があるのはそのせいかもしれないですね。
「そうかもしれないっすね。これまではもっと、ひとつの文章作品として曲中で結論をどう出すかみたいなところにこだわってきてた。そうじゃなかったことに気付いちゃったんですね。例えば、聴いてる人が何かしら〈強くなる〉って、そういうフィーリングを受け取るからそう感じるわけじゃないですか。〈話の流れがこう進んだから強くなった〉じゃないと思うんで。言葉自体のテンションとかパンチラインから感じるものだから、そこを吹き込みたかったんですね。俺のからくりとかそういうのより、感じてほしいのはソウルの部分なんですよね」
――意味より先に、言葉の強さで入ってくる作品だなと思いましたね。
「パンチがキツいんですよね(笑)。解決策を提示するより、その時のフィーリングをうまいことパンチ力強めに放つ、という意識はありました」
ダンサブルなフロウ
――最後に出来た曲は?
「“Sometimes”ですね。仕上げてく過程でけっこうストイックなアルバムだって気付いてて、もうちょっと隙が欲しかったんですよね。時には俺だって子どもみたいになるし、年齢より背伸びもするし、そういうことも乗り越えたうえで自己表現するのが大切なんだなと思うし。そういう大事なピースが抜けてんな、ってアルバム全体のことを考えて書きましたね」
――確かに、“Sometimes”がなかったら全体の印象がもっとストイックでひたすらディープだったかもしれない。この曲はリリックも突飛なところがあったり、和風なフロウも遊びがあっておもしろいです。
「〈和の心〉ってやつですよね(笑)。人を笑わせるのが結局好きだから、その要素も足りねえなって思ったし、そういう隙を与えることによって、“We Go On”から最後の“3D Print Your Mind”への流れにもっと深みが出るかなと思ったんですよね」
――〈Outside the Frame〉という言葉の裏にあるのは、〈気にすんな〉ってことですね。周りを気にして自己表現をためらうな、って。
「いまは世間が目の前にあるから、信用できそうな人ほどネットで何も言わないようになってるんですよね。何か発信するほどネガティヴな意見も目につくと思うんですけど、そんなのはもう気にしないで、自分の信念に向き合って進んでいくしかないし、それが強さだと思うんですよ。気にすることが多い社会だからこそ、そういう人たちが頭の中のフレームから飛び出すためのBGMとしてこのアルバムが機能すればいいなと思ったし、俺も未熟な人間だけど、実際に行動してきたことが俺を成長させてきたのは間違いないから、少なくともそれは俺の言えることだなって感じですね。昔は〈I don't give a fuck〉ってファッション感覚で使ってたところもあったかもしれないけど、それに伴う意味が年々増えていってて、重要なメッセージになっていってる気がするんですよね」
――そうですね。一方で特徴的なのは、いわゆる〈キャッチーさ〉みたいなものをフックのメロディーとかトラックに任せるんじゃなく、フロウ自体がキャッチーに響くのが新しかったです。
「今回はいままで作ったなかでもっともダンサブルなアルバムだと捉えていて、ダンス・ミュージックなんです。家でも聴きながら超踊ってるんですけど(笑)、これは何だろうなって考えたら、ビートに対する俺のフロウのアプローチがダンサブルなんですよ。正座して聴いちゃうとまた違うんですけど、俺のフロウに任せて身体を動かして聴いてもらえれば、俺の言ってる意味もわかってもらえると思います。音が大きければ大きいほどいいんで、だからこそ今回は機会があればライヴで聴いてほしいですね。このダンサブルな世界の中では、いままでキャッチーとされてたようなフックは必要なくて、すでにヴァースだけでノリノリになって楽しめるものなんです」
――その意味で“McLaren”はリード曲として抜群ですね。やたら強くて逞しいけど、ダジャレじゃねえかっていう(笑)。
「スタイルが詰まってて、馬鹿馬鹿しさもあり、俺も大好きです。今回はアルバム全体を通じてメッセージは超ポジティヴだし、ビートは遅いけど、だからこそ生まれるフロウがめちゃくちゃ軽やかで、こういう新しいノリのラップにハマっちゃうと昔の俺のアルバムも古く感じちゃうと思うんです。まあ、それは捉え方次第なので、とりあえず、あとは“3D Print Your Mind”でも言ってる通り、このアイデアが空気に触れて、聴く人にどう化学反応を起こしていくのか、って感じですね」