これぞ、クール・ジャパン!

 LOTUS POSITIONという名前のユニットがある。ドラマーの堀越彰と尺八の小濱明人による、打撃音と吹奏音だけという実にシンプルな要素だけで構成されている。ここにリズムとメロディという役割を安直に定義づけてしまうと、そこには主と従といった関係性が生まれ、表現のベクトルは一方向にしか流れない。

 ところが、結成4年目にしてようやくリリースするこのファースト・アルバムに収められた演奏には、そういった浅薄な関係性は感じられない。

LOTUS POSITION,山下洋輔 LOTUS POSITION with 山下洋輔 Waternet Sound Group(2016)

 堀越のドラムは変幻自在にその姿を変えて小濱の尺八と立ち向かう。ジャズやロックなどさまざまな音楽でリズムを支配したドラムキットであるかと思えば、邦楽囃子や和太鼓を思わせるスタイルで迫ってくることもある。変幻自在なのは小濱の尺八も同様だ、虚無僧が修行の中で奏でた音色から能管や笛の要素。さらにはアヴァンギャルドな表現を引きうけた器としての要素。数分間の音楽の中に、彼らふたりによる数多の「表現」が詰め込まれている。

 今回ゲストでこのアルバムに参加している山下洋輔トリオでデビューした堀越は、その後単なるドラマーとしてではなく、ダンスや美術作品とのセッションなど、自己の表現を追い求めてきたドラマーだ。そして小濱も古典的な尺八を踏まえたうえで、さまざまな表現に果敢に取り組み、数年前にはアジアン・カルチュラル・カウンシルの招きでNYに留学。その表現をさらに広めている。こうした二人だからこそ、先述したような関係性には成りえない。対等であることはもちろんだがその距離はものすごく近く、すでにひとつの塊として自転を始めているようでもある。

(C)Kiyomitsu Shirouzu
 

 さて、そこもうひとつ要素を加えてみたらどうなるだろう。そう、今回3曲で参加するピアニスト、山下洋輔のことだ。堀越にとって山下は恩師とも言える存在。もちろん小濱にとっても憧れのアーティストであることは間違いない。しかし、ここでの山下はあくまでも一人の表現者として彼らと向かい合っている。

 つまりこの3者は1対2でも2対1でもなく、互いに均等な距離を保った正三角形をなしているのだ。その3点の距離は縮まったり伸びたりを繰り返しながら、ひとつの表現を編み上げていく。

 注目したいのはここでの山下のプレイだ。ここでの山下のピアノは、明らかに普段とは異なる。つまりは山下洋輔、という個人ではなく、LOTUS POSITIONの一角としての山下をはっきり感じることができる。

 クール・ジャパンの名の下に、短命なキメラ達が積極的に海外へと発信されている昨今だが、こういった表現こそ日本の風土が生んだ力強い文化だと思う。

 


LIVE INFORMATION

『LOTUS POSITION with 山下洋輔』CD発売記念LIVE
○7/16(土)13:00開場/14:00開演
出演:LOTUS POSITION=堀越彰(ds, perc)小濱明人(尺八)
ゲスト=山下洋輔(p)
会場:南青山MANDALA
www.waternet-sound.com