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53年越しの興奮、あの〈再乱入ライブ〉がLP化! ブックレットには村上春樹氏の書下ろしも掲載!

 2022年7月12日、早稲田大学大隈講堂で〈村上春樹 presents 山下洋輔トリオ再乱入ライブ〉と銘打ったイヴェントが行われた。これは1969年7月に早稲田大学4号館でゲリラ的に挙行された山下洋輔トリオのライヴを、村上春樹がプロデュースして再現する、という催し。私は幸運にもその日会場にいて、山下洋輔・中村誠一・森山威男の素晴らしい演奏に感激したのだが、なんと1年後にアナログで発売されるとは! ポスターと山下洋輔や村上春樹のトークが収録されたCD、村上と山下のエッセイや当日の写真などが満載されたブックレットが付いている、という豪華な作りがまた嬉しい。

山下洋輔 『村上春樹 presents 山下洋輔トリオ再乱入ライブ Original Vinyl Limited edition』 MURAKAMI RADIO Label(2023)

 最初の曲は“テーマ”。69年7月の早稲田での演奏から2曲を収録した作品『DANCING古事記』の1曲目もこの曲だったが、山下が最初に弾く速いリフも、中村のテナー・サックスの音色も、森山のすさまじいドラミングも、彼らが20代だった69年当時より、はるかに重厚で凄みを増しているところが驚きだ。2曲目は中村誠一作の“木喰”。中村がソプラノ・サックスでリリカルなテーマを吹くこの曲は、今にして思えばマイルスの『イン・ア・サイレント・ウェイ』と同時代の空気を共有するものだったのだ。

 ここまでがA面で、B面は“ミナのセカンド・テーマ”から始まる。この曲も “木喰”と共通の〈美しいメロディをフリーなテンポで自由に演奏する〉コンセプトで、特に中村の朗々としたサックスにしびれる。そしてトリオのラストは定番の “グガン”。ラストの山下のソロ“メモリー・イズ・ア・ファニー・シング”を聴きながら改めて思うのは、この3人が過ごしてきたこの50数年間がいかに充実したものであり、その結果としての彼らの今の演奏が、いかに〈現在のジャズ〉として優れた力を持っているか、ということだ。ブックレットに寄せた文章で村上春樹は言う。〈彼らの演奏は、今ここにある音楽をインスパイアし、活性化するだけの力を有している。〉まさにその通り!