アイルランド神話を元にした、心に響く、珠玉の家族の物語
音楽はキーラが担当、リサ・ハニガンが母を演じる!
アイルランドは「妖精の国」とも呼ばれ、妖精の登場する民話が数多く語り継がれてきた。トム・ムーア監督の「ソング・オブ・ザ・シー 海のうた」は人間に姿を変えるアザラシ、セルキーの民話をもとにした映画で、前作「ブレンダンとケルズの秘密」に続き、アカデミー賞長編アニメ映画賞候補となった話題の作品だ。CG全盛の時代に、主に手描きの手法で、絵本が動き出したような美しいアニメ作品となっている。
「祖父母の世代には、民間伝承は生活の一部だった。彼らにとって妖精は実在するもので、現実のように風景の一部となっていた。でも、今では民間伝承が観光客向けに作り変えられ、その物語が何を伝えるのかが忘れられている」と監督は語る。「僕らの映画はそういった物語を再想像するんだけど、現代でも意味のあるものとして、民間伝承の中に人間の真理を見つけようとしている。愉快な登場人物や魔法のような出来事が興味深いというだけでなく、その物語から人間的な要素、人生について教えてくれることを引き出すんだ」
セルキーの母と兄妹の物語の着想はどこから?
「アイルランド西部に家族旅行をしたとき、海岸でアザラシの死骸を見てびっくりして、地元の人に事情を聞いた。年々漁獲量が減って不満を募らせた漁民が、本当は海洋汚染や乱獲が原因だろうけど、アザラシのせいにして殺したというんだ。そのときに彼女がセルキーのことを口にした。その話に聞き覚えがあったので、海に関する民話を集めた本を読み、かつて漁民とアザラシは敬意を持った関係を保っていたと知った。それがきっかけだ。最初考えたのはセルキーの母が殺される話だった。あの事件が頭に残っていたから。でも、ちょっと残酷だし、環境問題などのメッセージに物語が負けてしまう。そこで、もっと普遍的な話、家族の物語に焦点を絞って、神話や環境問題はその背景にしたんだ」
本作は音楽ファンにも必見だ。前作同様にキーラが音楽を担当し、リサ・ハニガンが母を演じるのだ。
「リサのファンだけど、ポップな歌手と思っていた。ところが、(キーラの)カラムが彼女のシャーンノス(伝統歌の無伴奏歌唱)を聴かせてくれて、彼女にはポップな音楽で聴かせるよりも幅があると知った。それで声をかけてみた。彼女は自然に役になりきったよ。歌手の中には天性の演技の能力を持つ人がいるんだね」
本作はいかにもアイルランドらしい作品だが、実は5カ国の合作であり、スタッフも多国籍だ。彼らの異なる視線は、自国の伝統を見つめ直す際に役立ったようだ。
「うん、そうだね。アート・ディレクターのエイドリアン・ミリガウはフランス人だ。僕らと12年働いてきたから、アイルランドの文化を良く知るけど、常に異なる見方も与えてくれる。他の連中もそう。他の国の人が自分の文化をどう解釈するかはいつだって興味深いね」
映画『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』
監督:トム・ムーア 脚本:ウィル・コリンズ
音楽:ブリュノ・クレ/キーラ
吹き替え版キャスト:ベン役 本上まなみ/父コナー役 リリー・フランキー/母ブロナー役 中納良恵(EGO-WRAPPIN')
出演:デヴィッド・ロウル/ブレンダン・グリーソン/フィヌーラ・フラナガン/リサ・ハニガン/ルーシー・オコンネル/ジョン・ケニー
配給:チャイルド・フィルム/ミラクルヴォイス(2014年 アイルランド・ルクセンブルク・ベルギー・フランス・デンマーク 93分)
(C)Cartoon Saloon, Melusine Productions, The Big Farm, Superprod, Nørlum
◎8/20(土)より、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国ロードショー
songofthesea.jp