寺嶋由芙
あらためまして、わたしになりまして、ゆっふぃーです

 ソロ・デビューから2年半あまり、このたびめでたくファースト・アルバム『わたしになる』を届けた〈ゆっふぃー〉こと寺嶋由芙。〈古き良き時代から来ました! まじめなアイドル、まじめにアイドル!〉をキャッチフレーズに、群雄割拠のアイドル・シーンにおいて異質かつ人懐っこい魅力を放ってきた彼女ですが、アルバムの話に移る前に、まずはその口上の真意を改めて確認しておきましょう。

 「もともとグループにいた時に考えたものなので、理由としては後付けになっていくんですけど、このキャッチフレーズがあったことによって、作家さんに作っていただく曲の雰囲気にも影響が出たと思うし、いろいろやってるうちに自分がめざすアイドル像みたいなものもハッキリ見えてきました。昭和のアイドルさんっぽい曲もあるけど、その路線を貫いてるわけでもないし。〈古き良き……〉って言ってるのにオタクのことをオタクって呼んだり、ちょっと外れたこともやってますけど(笑)、〈なんでもあり〉になっちゃってるアイドルの世界でそうはなりたくないっていう自分への戒めだったり、やっていくうえでの矜持、心に持っておきたいものとして〈古き良き……〉って言い続けてる感じですね」。

寺嶋由芙 わたしになる インペリアル(2016)

 SNSや握手会などのイヴェントでファンとの距離が近くなり、〈古き良き時代〉のように〈幻想〉を見せていくことが重要な使命ではなくなった現代のアイドル。そんななか、〈なんでもあり〉の流れに抗いつつ、歌を通じてまじめにエンターテイメントを作り上げてきたゆっふぃーの現在・過去・未来が、今回のアルバム『わたしになる』にはしっかりと刻み込まれているのです。

 「シングルを出すときは、前にやってないことをやっていこうって常に考えていて……なので、今回の新曲もいままでにないものをっていう発注で作家さんにお願いしてます。シングルを作れば作るほど、自分でも〈こういう曲を歌うことになるとは!〉って思うような曲と出会えたり、自分がアイドル曲として認識してなかったようなタイプの曲もあったり、それを経てのアルバムなので、みんなにもビックリを体験してほしいです」。

 これまでのシングル表題曲(ヴォーカルを再録したものもあり)やライヴ会場だけで入手できたレア曲などのほかに、新録が5曲。でんぱ組.inc夢眠ねむが作詞、ミナミトモヤバンドじゃないもん!虹のコンキスタドールほか)が作編曲した電波ソング・テイストの“オブラート・オブ・ラブ”。〈ゆるキャラ〉の命名者であるみうらじゅんから詞を託され、無類のゆるキャラ好きを実らせたチルドレンズ・ソング風の“ゆるキャラ舞踏会”。ライヴで人気の高い“ぜんぜん”(ファースト・シングル“#ゆーふらいと”のカップリング)のアンサー・ソングとなる“まだまだ”。「アイドルアイドルしたものじゃない、普通にポップスな楽曲もできるところを聴かせたい」というテーマで編まれたシンフォニックなミディアム・ナンバー“101回目のファーストキス”。そして、彼女が敬愛する作家の加藤千恵が作詞を担当し、レイドバックしたバンド・サウンドで包み込んだタイトル・ナンバー“わたしになる”。

 「いままでは私発信で〈こういうのがやりたいのでお願いします〉っていう感じだったのが、6月から移籍した事務所のディアステージがいろいろなアイドルをやってる経験や繋がりもあったりするので、〈こういうことを寺嶋由芙にやらせたい〉って周りからアイデアを投げ掛けてくれる機会が増えたんです。自分の引き出しが増えるきっかけになって嬉しいなって思います。例えば今回はアートワークをスミネムさん(スミス夢眠ねむ)にディレクションしていただいたんですけど、初回限定盤のジャケットで見せてる表情も自分一人では思いつかなかったものですし、これからも〈寺嶋由芙〉を〈素材〉としていろいろ遊んでいただけたらと思っています。新しい自分を発見できるのは楽しいので、誰かが嫌な思いをするようなこと以外だったら何でもやってみたい(笑)!」。

 キャッチフレーズは揺るぎなく、しかし、自身のポテンシャルを果敢にアップデートしながら、その受け皿を広げていくゆっふぃー。アイドルにまったく興味がない人にも聴いてほしい……と仰々しいことはわざわざ言わないが、少なくともオタクだけに愛される存在に止まらないであろう明るい未来を、アルバム『わたしになる』は指し示している!