現在のジャズ・シーンを牽引するロバート・グラスパーらのバックグラウンド

 ケニャッタ・ビーズリーは、1976年生まれのニューオーリンズ出身のトランベッターである。ニューオリンズ・センター・フォー・クリエイティブ・アーツでマルサリス兄弟の父であるピアニストのエリス・マルサリスに学び、90年代半ばにニューヨークに移ると、オリヴァー・レイクなどの録音に参加する一方で、ローリン・ヒルのツアー・メンバーとなり、ジャズの外の世界へと活躍の場を広げた。チャカ・カーンからウータン・クランまで様々なステージ、録音に参加していた最中の1999年に制作されたリーダー作の再発が本作である(新たに未発表曲が収録されている)。

KENYATTA BEASLEY Brooklyn Mardi gras +1 What's New Records(2016)

 目玉は何と言っても、その録音メンバーである。当時21歳だったロバート・グラスパーを筆頭に、ケーシー・ベンジャミンブランドン・オーウェンスら、現在のジャズ・シーンで注目を集める面々が参加している。と言っても、アルバムはストレートなジャズを演奏していて、ヒップホップやR&Bの要素はない。それだけに、ビーズリーはもちろん、グラスパーらの出自を伺い知れる貴重な録音ともなっている。その瑞々しくダイナミックでもあるプレイは、彼らが同時代のロイ・ハーグローヴケニー・ギャレットに繋がる存在であることを証明してもいる。

 ビーズリーは現在もさまざまなバックを務めながら、自身のセプテットを中心にしたライヴ活動も続けている。彼とほぼ同世代のディアンジェロことマイケル・アーチャーは、3歳からピアノを習い、一時はジャズを志したこともあった。13歳で推薦を受けてオーディションに向かったのは、エリス・マルサリスの元だった。その才能を認められながらも、ディアンジェロはジャズを学ぶことはなかったが、枝分かれした幹は再び絡み合うように、ヒップホップやR&Bとジャズが共存していく00年代以降のブラック・ミュージックを再編する動きは活性化していった。このジャズ・アルバムはそうした観点からも聴くことができる一つのドキュメントでもある。

ケニャッタ・ビーズリー・セプテットの2012年のライヴ映像