革命はディスプレイには映らない——ジャジーでソウルフルな円熟のサウンドと時代を射抜く平和のメッセージを携えて、いまコモンは何のために戦うのか?
痛みと怒りを変換する
「『A Beautiful Revolution Pt.1』は肯定、認識、高揚感、ムーヴメントに合わせた音楽。選挙の結果にかかわらず、現状に戻らないようにしなければならない。この音楽の意図は、私たちの痛みと怒りのすべてを生産的で、インスピレーションに満ちた、良いものに変換すること。ムーヴメントを次の段階へ導くためのものなんだ」。
COMMON 『A Beautiful Revolution Pt. 1』 Loma Vista/ユニバーサル(2021)
2020年のアメリカ大統領選挙に合わせ、投票の4日前に『A Beautiful Revolution Pt.1』をリリースしたコモン。ここ数年でコンシャスな姿勢を深める彼は、前回2016年の大統領選に際しても直前にアルバム『Black America Again』をリリースしていたわけだが、全米各地で起こった痛ましい事件に伴って〈Black Lives Matter〉運動が影響を大きくした2020年だけあって、前回以上に期するものがあったのは間違いないだろう。19年の『Let Love』に続く新作ということで、近年のコモンにとっては短いスパンでの新作となった『A Beautiful Revolution Pt.1』ながら、今回はアルバムではなくEPやミニ・アルバム、もしくはミックステープ的な位置付けの作品にあたるようで、〈パート1〉というだけあって連作となる可能性についても示唆されている。
そんな気合いの一作が、年を跨いでCD/LPでリリースされることになった。もちろん、実際の投票結果について皆が知るところとなったタイミングでフィジカル化が実現するわけだが、この作品は決して単純にニュース速報的な即時性やドキュメントとしての瞬発力だけを重視したものではないし、当然ながら曲中に掲げられたメッセージは一過性のものではない。本作についてコモン自身は〈人種的不公平やその他の社会的不公平を解決しようとしているリスナーを高揚させ、癒し、鼓舞することを意図した〉と説明している。つまり、(残念なことに)今作の訴える内容はこの先も有効なものとして機能していくのだろうし、聴くのに遅すぎるということはない。なお、ガーナ人写真家デリック・ボアテングの写真を用いたジャケの鮮やかさから往時の〈ブラック・パワー〉っぽい煽動的な内容を想像する人もいるかもしれないが、コモンの戦い方はあくまでも現代的な手法とマインドによるものだ。