コラム

ネット発・素顔非公開のEveが映す新潮流―バンプやRADWIMPS思わせる爽やかなロック奏でた新作『OFFICIAL NUMBER』

ネット発・素顔非公開のEveが映す新潮流―バンプやRADWIMPS思わせる爽やかなロック奏でた新作『OFFICIAL NUMBER』

〈インターネット発〉という触れ込み自体はもはや珍しいものでも何でもなくなっているし、そこにある種の統一フォーミュラが存在するわけでもなく、アーティストごとの多様性と独自性が問われる頃合いになってきているのは言うまでもない。そんななかで注目しておきたいのが、今回初めて全国流通アルバム『OFFICIAL NUMBER』をリリースしたこのEveだ。

 Eveは年齢非公開のヴォーカリスト、シンガー・ソングライター。もともと動画投稿サイトをホームに活動を開始した彼は、すでに自主制作で『Wonder Word』(2014年)、『Round Robin』(2015年)をリリースして人気を博している。冒頭で無造作に〈注目しておきたい〉などと書いてはみたものの、彼はすでにその界隈でトップクラスの若手(年齢は非公開だが……)と目されている存在なのだ。一方では、KKkradnessS!N夏代孝明ゆりんといった盟友たちとのユニット=Riot of colorでもライヴやリリースを積極的に展開中だし、スタイリッシュなグッズ制作の実績も通じてファッションやサブカル方面でも着目されている。ライヴ以外では素顔を公開せず、本人のヴィジュアルはイラストでのみ表現されているのだが、Eveの伝えたいイメージやフィジカルな実体感はしっかりと受け手に届いているというわけだ。

 もしかしたら、いわゆる〈ネット系〉〈ニコ動出身〉というキーワードが付されたアーティストを旧来的な色眼鏡で見ている人もまだまだいるのかもしれないが、歌い手やボカロPを出自とするバンド/プロジェクトが作り出している近年の作品群をうっすら追っていれば、そうしたステレオタイプに囚われる必要もなく、いわゆる邦楽ロック系のスタイルに自然とリンクする新しい潮流が生まれていることもわかるだろう。例えば、Eveとはコラボ作『oyasumi』も残しているゆりんらがサイダーガールとして人気をグングン高めている昨今、そうした流れに気付きはじめたリスナーたちにとって、今回の『OFFICIAL NUMBER』は最良の一枚となるのではないだろうか。

Eve OFFICIAL NUMBER harapeco(2016)

 その『OFFICIAL NUMBER』に収録されているのは、Eve自身の書き下ろしナンバーも含めた新曲をメインに、カヴァーや過去作に収録されたオリジナル曲“メルファクトリー”“sister”のリアレンジもプラスした全10曲。オープニングを飾るラムネ(サイダーガール)提供の“どうしようもないくらいに君が好き”からして、繊細な男っぽさと爽やかな透明感の絶妙に入り交じったEveの歌声の持ち味は存分に伝わるはずだ。軽快でメロディックなギター・サウンドに乗る〈青春〉成分の強めな歌唱は、誤解を恐れずに言ってしまえば、往年のBUMP OF CHICKENRADWIMPSの影響を如実に窺わせるもの(実際にEveもカヴァー音源をアップしていた)。まるで甘酸っぱい青春や恋愛を描いたマンガやアニメ、映画の瑞々しいカットバックが脳裏にすぐさま浮かぶほど、屈託なくキャッチーな楽曲が以降も次々に飛び出し、ナユタン星人Ml8kはるふり、そして先述のゆりんといった面々の手掛ける多種多様なバンド・サウンド主体のアレンジもそんなイメージをエモーショナルに盛り上げる。そのなかにあってヒットメイカーの江口亮が編曲に関わった“キャラバン”と“ショートアンブレラ”は、Eveのペンによる言葉とメロディーをより遠くまで届ける助けになりそうな好曲だ。Eve自身の詞曲によるナンバーでいうと、山上智矢PolyphonicBranch)がアレンジした“ラビットグレイ”も快い疾走感がポップに風を巻き起こすような出来映え。これは青春を謳歌する世代や、もしくはそれを反芻するリスナーたちの心を掴んで離さないだろう。

 繰り返しておくと、〈ネット発〉という触れ込みはもう珍しいものではない。だからこそEveの歌と楽曲には底知れないポテンシャルが感じられるのだ。

 


Eve
年齢やプロフィール非公表の男性ヴォーカリスト、シンガー・ソングライター。2009年から動画投稿サイトに自身の歌唱をアップしはじめ、徐々に注目を集めていく。einieを結成して2012年に『einie』を、翌年に『或る一日』をリリースするも同年末で活動を休止。2014年に初のソロ作となるミニ・アルバム『Wonder Word』を自主リリースし、並行して結成したRiot of colorの『Riot of color』、ゆりんとのコラボ・アルバム『oyasumi』といった作品がいずれも高い評価を得る。2015年にソロでの2作目『Round Robin』を発表し、Riot of colorでのライヴも精力的に行うなか、このたび初の全国流通盤となるニュー・アルバム『OFFICIAL NUMBER』(harapeco)をリリースしたばかり。

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