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3. 初作『Do Hollywood』はフォクシジェンのジョナサン・ラドーがプロデュース!

父親のロニー・ダダリオも音楽家であったダダリオ家は、たくさんの音楽と楽器で溢れていました。兄のブライアンは5歳でドラムを、7歳でギターをプレイしはじめ、10歳の頃にはマイケルと一緒にメンバーズ・オブ・ザ・プレス(MOTP)というバンドを結成。ビートルズはもちろん、ザ・フーからマイ・ケミカル・ロマンス(!)までカヴァーする振り幅の広さを見せつつも、ブライアンの高校時代にはもうオリジナル曲にも挑戦していたようです。そう、つまり彼らは〈筋金入り〉の音楽オタクなんです。

メンバーズ・オブ・ザ・プレスの楽曲“Hurricane ”
 

そんなダダリオ兄弟の才能にいち早く気付き(Twitterで発見したというのがいまっぽい)、アルバムのプロデュースを買って出たのが、カリフォルニアのサイケ・ポップ・デュオ、フォクシジェンの頭脳であるジョナサン・ラドー。最近は元スミス・ウェスタンズマックス・カケイセックが率いるインディー・ロック・バンド、ホイットニーの処女作『Light Upon the Lake』(2016年)の共同プロデューサーとして手腕を振るっていたラドーですが、レモン・ツイッグスの『Do Hollywood』においては、ダダリオ兄弟の凄まじい音楽的センス/潜在能力を100%引き出すことに成功しています。以下の2曲を聴いてから改めてレモン・ツイッグスを聴くと、何かしっくりくるモノがあるかもしれません。

フォクシジェンの2016年作『Hang』収録曲“Follow The Leader”
ホイットニーの2016年作『Light Upon the Lake』収録曲“Polly”
 

ドゥワップ調の狂おしいラヴソング“I Wanna Prove To You”をはじめ、サーカス一座を思わせるカラフルでハチャメチャなバロック・ポップ“Those Days Is Comin' Soon”、イントロのアコギのコード感がはっぴいえんどの“風をあつめて”にクリソツな“Baby, Baby”、ジョン・レノンを彷彿とさせるピアノ・イントロが印象的な“How Lucky Am I?”などなど、レモン・ツイッグスが『Do Hollywood』に収録した楽曲はジェットコースターのように目まぐるしくアップダウンを繰り返します。その一方で、ビーチ・ボーイズ譲りの美しいハーモニーと、ビッグ・スタージェリーフィッシュ的なメロディ・ラインが共存するという、得体の知れないキャッチーさも魅力のひとつ。

ジェリーフィッシュの90年作『Bellybutton』収録曲” I Wanna Stay Home“のライヴ映像
 

正統派とも言えるブライアンの歌声に対して、デヴィッド・ボウイからMGMTまでを呑み込んだマイケルのアクの強い歌声は唯一無二だし、1曲の中に複数のパンチラインを持つミュージカル・ライクな構成/譜割りには、思わず〈音の宝石箱や!〉と叫びたくなります。英ガーディアン誌は〈トッド・ラングレンが72年に残した未発表音源集のようだ〉と評していました。

LAのレコード・ショップ、アメーバでのインストア映像。マイケルのヴォーカル・パートは6分35秒頃から
 

〈自分が何者か知るためだけに誰かをフォローするの?〉という歌い出しで始まるリード・シングル“These Words”は、SNS世代ならではの感情を綴った世界観とサイケデリックな転調がクセになる、2016年最強のひねくれポップと断言しましょう。

アルバムにはフォクシジェンの2人と、MOTP時代からバンドのサポート・キーボーディストを務めるダニー・アヤラが一部で参加していることを除けば、ギターやベース、ドラム、ピアノといったすべての楽器をダダリオ兄弟がみずから演奏しています。しかも、兄貴のブライアンに至ってはヴァイオリンやチェロ、トランペットといった楽器も操りながら、ミキシングやオーケストラル・アレンジメントまでを手掛けていて、そのポップ・ウィザードっぷりは『McCartney』(70年)制作時のポール・マッカートニーの姿を思い起こす読者も多いかもしれません。

ポール・マッカートニーの70年作『McCartney』の制作ドキュメンタリー

 

4. 父親はカーペンターズも認めた名手、ロニー・ダダリオ

レモン・ツイッグスの音楽的ルーツを辿るためには、その父親ロニー・ダダリオについて触れないわけにはいきません。ロニーは自身が率いるロック・クラブというバンドのヴォーカル&ギターとして活動する傍ら、アイルランドのフォーク・シンガー/詩人である故トミー・マケムのギタリスト/バッキング・ヴォーカリストとして参加、同じくアイルランド系のメアリー・オダウドの作品『At The Close Of An Irish Day』(2001年)にも全面協力するなど、いわゆる〈裏方〉で名を馳せたミュージシャンでした。なお、〈ブライアン〉と〈マイケル〉というネーミングもビーチ・ボーイズ(ブライアン・ウィルソンマイク・ラヴ)から取ったものだとか。

トミー・マケムのパフォーマンス映像。下手ギター隊の右側、灰色のジャケットの男性がロニー
 

ロニーのソングライターとしての才能はホンモノで、81年に書いた楽曲“Falling For Love”がカーペンターズにハマるのではと考えた彼はA&Mにデモテープを送ります。するとリチャード・カーペンターがこの曲に惚れ込み、カレン・カーペンターのガイド・ヴォーカル入りの音源をレコーディングする……というところまで漕ぎ着けるも、周知の通り摂食障害に苦しんでいたカレンが83年に他界。未完成のままお蔵入りとなってしまいました。もしもカーペンターズのヴァージョンが発表されていたら、ロニーのミュージシャンとしての人生は大きく変わっていたかもしれませんね。

ロニー・ダダリオによる“Falling For Love”のデモ
 

しかしレモン・ツイッグスが脚光を浴びたことで、ロニーの音源も聴いてみたい!というリスナーが爆発的に増えたらしく、彼は膨大なアーカイブのなかから『Take In A Show』(76年)、『Falling For Love』(81年)の2枚をリイシュー。さらに未発表だった83年作『Good For You』を自身のレーベル、ホンブルク(Homburg)からリリースしました(レーベル名は恐らくプロコル・ハルムの“Homburg”より引用)。

ロニー・ダダリオの76年作『Take In A Show』収録曲“Nice Meeting You - Again”
 

ちなみに、ロニーの2015年作『A Very Short Dream』ではブライアン&マイケルが2曲で客演し、聖歌隊のように息の合ったコーラス・ワークを聴かせてくれます。以下の動画は、ロニーが2017年2月にリリース予定の新作『The Many Moods Of Papa Twig』の収録曲で、同じくダダリオ兄弟が参加。〈Papa Twig(=パパの小枝)〉というフレーズがナイスですな。

ロニー・ダダリオの2017年作『The Many Moods Of Papa Twig』収録曲“She Tries”